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魔女は魔女でも、男です

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「ちょいと出かけてくるよ。留守は頼んだからね」

 アマルベルダが唐突にそう言ったのは、次の日の午後のことだった。

 そう言ったアマルベルダの格好を見て、イリアはパチパチと目を瞬いた。魔女は髪を首の後ろで一つに束ね、襟詰めのシャツにトラウザースを履いていた。豊満な胸は――魔法らしいが――どこにも見当たらず、どこからどう見ても男の人だったのだ。

(もしかして、だれもアマルベルダの正体を知らなかったのって、このせい?)

 イリアの目には、今の魔女はどこからどう見ても端正な男の人だった。つまり、魔女は外出するときはいつもこの格好で、そのせいで「魔女アマルベルダ」は謎に包まれていたのではないかとイリアは思った。

 アマルベルダは面白そうな顔をして、指先でイリアの鼻のてっぺんをつついた。

「ふふん、いい男だからつて惚れるんじゃないよ」

 これにはイリアは自信満々に答えた。

「大丈夫です! 私にはクラヴィスただ一人ですから」

「……つまらない娘」

 アマルベルダは途端に面白くなさそうな顔をして、それからひらひらと手を振った。

「いいかい? この格好をしているときのあたしのことは、リュシオンとお呼び」

「リュシオン?」

「そうさ。あ、でも人前でその名を使うんじゃないよ。そうだねぇ、人前では旦那様とお呼び」

「旦那様?」

「ふふ、いいねぇ。いい響きだ。なんだか気分がいいよ。それじゃ、いい子で留守番しとくんだよ」

 そう言ってアマルベルダ――リュシオンは、鼻歌を歌いながら出かけて行った。

 残されたイリアは、同じくおいて行かれたポチを抱き上げて、彼のふわふわする毛並みを撫でながら「今からなにをしようかしら」と首をひねる。

「掃除はすませちゃったし、洗濯物もまだ乾かないし――、ねえ狐さん、お風呂に入る?」

 風呂と聞いた瞬間、ポチはイリアの腕の中から飛んで逃げると、一目散に部屋の奥へと駆けていく。

「逃げられちゃった。じゃあ――、お菓子でも、作ろうかしら?」

 そうしてイリアは、うきうきとキッチンへと向かったのだった。
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