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金色の蛇は魔女がお好き?
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銀色の子龍は、ユリウスにぺったりとくっつくように立っていた。
小さくて、目がくりっとしていて、とにかくものすごく可愛いそれが、邸を破壊しかけたあのナナリーだとは思えない。
「ナナリーはまだ十歳なんだ」
ユリウスによると、龍の十歳は人間の子供でいえば五歳程度と同じだそうだ。まだ親の庇護下にあり、本来ならば人形に変化することもできないという。しかしナナリーはなぜか昔から人の姿になることが得意らしく、それほど長い時間でなければ人の姿でいることができるらしい。
「ほら、ナナリー! メリーエルに何と言う約束だ?」
ユリウスに促されて、ナナリーは本当に不服そうに口を開いた。
「……ごめんなさい」
しかし、謝罪を口にした次の瞬間、「べえ!」と赤い舌を出されて、メリーエルのこめかみに青筋が浮く。
全然反省していないじゃないかと思うのだが、ナナリーが生まれたときから世話をしているらしいユリウスはどうやら彼女に激甘らしく、「偉い偉い」と頭を撫ではじめたため文句を言うタイミングを逃してしまった。
仕方なくメリーエルは椅子に腰を下ろしてテーブルの上に頬杖をつく。
ユリウスはナナリーをひょいと抱え上げると、膝の上に乗せて椅子に座った。
「それで、ナナリー、どうして急にこちらへ来たんだ?」
孫娘にデレデレのおじいちゃんのように甘い声でナナリーに話しかけるユリウスに、けっと唾を吐いてやりたくなる。しかも、ナナリーが勝ち誇ったような顔をこちらに向けてくるのだからなおさらだ。よくわからないが――、何かに負けたような気がしてくるのはなぜだろう。
(さっさとつまみ出しなさいよね!)
そうは思うものの、口には出さないのは性格はさておき、子龍ナナリーの姿があまりにも可愛らしいせいだ。ぬいぐるみを作ればボロ儲けできるのではないかと思う。
(ぬいぐるみか……。わたしは不器用だから無理ね。ユリウスに作らせようかな)
などと真剣に悩んでいる間に、二人の会話は進んでいた。
「トゥーリのところに遊びに行こうと思ったんだけど、入り口の洞窟に大きな蛇が居座って行けなかったの」
トゥーリが誰かはわからないが、龍のくせに蛇が怖いのかと思いながらも、メリーエルは耳をそばだてる。
「それで、お兄様に助けてもらおうと思ったんだけど――、そしたら、この泥棒魔女が!」
「誰が泥棒魔女だ!」
「あんたよ、あんた! この貧乳魔女!」
「ひ、ひん……!」
「いったいお兄様はあんたのどこがいいのかわかんないわ! お兄様、こんな貧相な魔女のことなんて放っておいて、国に帰りましょう?」
「ひんそ……!」
メリーエルはわなわなと震えながらナナリーを睨みつけるが、彼女はユリウスにべったりとくっついてせせら笑う。
やれやれとため息をついたユリウスが、ナナリーの頭を撫でながら言った。
「それで、ナナリーはトゥーリのところに遊びに行こうとしたんだな?」
綺麗に無視されたメリーエルは、ぷくっと頬を膨らませた。
ナナリーはぽんっと音を立てて人の姿を取ると、ユリウスの首にぎゅっと抱きついた。
「なんとかしてくれる?」
「そうだな。入口に大蛇が居座っては、彼らも困るだろう」
ユリウスは頷いたが、ナナリーに向けて少しだけ厳しい顔を向けた。
「だが、ナナリー。お前は昨年大暴れした罰で、向こう三年間、外出禁止だったはずだ」
ギクリとナナリーの肩が強張ったのをメリーエルは見逃さなかった。
「蛇は何とかしよう。だがその前に、お前は国に帰りなさい」
ナナリーはこれ以上ないほど悲壮な表情を浮かべて、次の瞬間泣き叫んだ。
「お兄様の意地悪―っ!」
小さくて、目がくりっとしていて、とにかくものすごく可愛いそれが、邸を破壊しかけたあのナナリーだとは思えない。
「ナナリーはまだ十歳なんだ」
ユリウスによると、龍の十歳は人間の子供でいえば五歳程度と同じだそうだ。まだ親の庇護下にあり、本来ならば人形に変化することもできないという。しかしナナリーはなぜか昔から人の姿になることが得意らしく、それほど長い時間でなければ人の姿でいることができるらしい。
「ほら、ナナリー! メリーエルに何と言う約束だ?」
ユリウスに促されて、ナナリーは本当に不服そうに口を開いた。
「……ごめんなさい」
しかし、謝罪を口にした次の瞬間、「べえ!」と赤い舌を出されて、メリーエルのこめかみに青筋が浮く。
全然反省していないじゃないかと思うのだが、ナナリーが生まれたときから世話をしているらしいユリウスはどうやら彼女に激甘らしく、「偉い偉い」と頭を撫ではじめたため文句を言うタイミングを逃してしまった。
仕方なくメリーエルは椅子に腰を下ろしてテーブルの上に頬杖をつく。
ユリウスはナナリーをひょいと抱え上げると、膝の上に乗せて椅子に座った。
「それで、ナナリー、どうして急にこちらへ来たんだ?」
孫娘にデレデレのおじいちゃんのように甘い声でナナリーに話しかけるユリウスに、けっと唾を吐いてやりたくなる。しかも、ナナリーが勝ち誇ったような顔をこちらに向けてくるのだからなおさらだ。よくわからないが――、何かに負けたような気がしてくるのはなぜだろう。
(さっさとつまみ出しなさいよね!)
そうは思うものの、口には出さないのは性格はさておき、子龍ナナリーの姿があまりにも可愛らしいせいだ。ぬいぐるみを作ればボロ儲けできるのではないかと思う。
(ぬいぐるみか……。わたしは不器用だから無理ね。ユリウスに作らせようかな)
などと真剣に悩んでいる間に、二人の会話は進んでいた。
「トゥーリのところに遊びに行こうと思ったんだけど、入り口の洞窟に大きな蛇が居座って行けなかったの」
トゥーリが誰かはわからないが、龍のくせに蛇が怖いのかと思いながらも、メリーエルは耳をそばだてる。
「それで、お兄様に助けてもらおうと思ったんだけど――、そしたら、この泥棒魔女が!」
「誰が泥棒魔女だ!」
「あんたよ、あんた! この貧乳魔女!」
「ひ、ひん……!」
「いったいお兄様はあんたのどこがいいのかわかんないわ! お兄様、こんな貧相な魔女のことなんて放っておいて、国に帰りましょう?」
「ひんそ……!」
メリーエルはわなわなと震えながらナナリーを睨みつけるが、彼女はユリウスにべったりとくっついてせせら笑う。
やれやれとため息をついたユリウスが、ナナリーの頭を撫でながら言った。
「それで、ナナリーはトゥーリのところに遊びに行こうとしたんだな?」
綺麗に無視されたメリーエルは、ぷくっと頬を膨らませた。
ナナリーはぽんっと音を立てて人の姿を取ると、ユリウスの首にぎゅっと抱きついた。
「なんとかしてくれる?」
「そうだな。入口に大蛇が居座っては、彼らも困るだろう」
ユリウスは頷いたが、ナナリーに向けて少しだけ厳しい顔を向けた。
「だが、ナナリー。お前は昨年大暴れした罰で、向こう三年間、外出禁止だったはずだ」
ギクリとナナリーの肩が強張ったのをメリーエルは見逃さなかった。
「蛇は何とかしよう。だがその前に、お前は国に帰りなさい」
ナナリーはこれ以上ないほど悲壮な表情を浮かべて、次の瞬間泣き叫んだ。
「お兄様の意地悪―っ!」
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