16 / 64
金色の蛇は魔女がお好き?
4
しおりを挟む
なぜこんなことになっているのだろう。
メリーエルは頭を抱えたくなったが、自業自得という言葉が脳裏によぎって、はあーっとため息をつく。
すべては数時間前に遡る。
国に強制送還させられそうになったナナリーは、ユリウスに泣きついて一晩だけの滞在を勝ち取ると、ユリウスがきれいに直した邸の一室でナイトキャップをかぶって眠りに落ちていたはずだった。
しかし、なぜか彼女は夜中にメリーエルの部屋に訪れると、メリーエルをたたき起こしてこう言ったのである。
「あんた、一応魔女なんでしょ?」
「一応じゃなくてれっきとした魔女よ!」
「魔力ほとんどないくせに」
ナイトキャップをかぶった子龍というのも妙なもので、「龍の姿で髪なんてないくせにナイトキャップは必要なのか」と思わないでもないが、一つ突っ込むと倍以上の文句が帰ってきそうなので黙っておく。
夜中にたたき起こされた機嫌の悪いメリーエルがじろりとナナリーを睨みつけるが、彼女はどこ吹く風で、
「あんた、魔法薬が得意なんだってね。ちょっと手伝いなさいよ」
と偉そうに告げた。
メリーエルはベッドの上に膝を立てて頬杖をついた。
「なんでわたしがあんたを手伝わなきゃいけないのよ」
この子龍は、自分がメリーエルに何をしたかを忘れているのだろうか。いきなり火の玉を投げつけられ、邸まで半壊させられた恨みはメリーエルの中にまだ残っている。しつこいと言われようと、子供のすることだと諭されようと、そう簡単には消えない恨みだ。
暖炉の中の火はまだくすぶっているが、消えかかっているため、部屋の温度は少し低い。まだ寒いほどではないものの、さっさと布団にもぐりこんで、幸せな眠りを享受したいメリーエルは早々にナナリーを追い出すことにした。
「さっさと出て行かないと、ユリウスを呼びつけるわよ」
すると、ナナリーは目に見えて狼狽えた。
どうやら、ユリウスはナナリーには激甘のようだが、しつけに関してはそれなりに厳しいらしい。メリーエルから見れば充分甘いと思うのだが、怒られることを想像して怯えたような目をするナナリーの様子から、ユリウスの名前はそれなりに有効だと知る。
「わかったら、さっさと部屋に戻りなさいよ」
メリーエルはそう言うと、ナナリーを無視してベッドに横になった。布団をかぶると、欠伸を一つして目を閉じる。
「出て行くときには明かり消して行きなさいよね」
ナナリーに背を向けてそう告げるが、次の瞬間、メリーエルは「ぐえっ」とカエルが押しつぶされたような声をあげた。
子龍ナナリーが、ベッドの上――メリーエルの腹の上に飛び乗ったからだ。
「寝るんじゃないわよっ」
相手が子供とはいえ、メリーエルの中に小さな殺意が沸いた。
メリーエルの腹の上でふんぞり返っている子龍は、大きなくりっとした目ですがるようにメリーエルを見つめた。
「わたし、トゥーリに会いたいの!」
「だから、そのトゥーリって誰よ?」
「トゥーリは、わたしのお友達なの。一角獣の国の王様の孫なのよ!」
「一角獣?」
メリーエルはパチパチと目を瞬いた。
メリーエルも魔女の端くれ。一角獣の国がどこかに存在していることは知っていたが、その存在は、龍の国よりもはるかに情報が少なく、一生をかけても国を見つけることは不可能だと言われている。
メリーエルは大きく息を吸い込むと、勢いよく飛び起きた。
その拍子に、腹の上に乗っていたナナリーがころんとベッドから転がり落ちる。
「あんたの友達、一角獣なの!?」
「だから、そう言っているじゃないの」
なんてことだ。すると、幻と言われる一角獣の国にのみ生息しているという青い薔薇の、『光る青い薔薇の実』を手に入れることができるかもしれない。
メリーエルはキラキラと目を輝かせると、ベッドから落とされて「痛い」と両手で頭をおさえているナナリーを見た。
「それで、あんたはどうしてその一角獣――トゥーリに会いたいの?」
「お友達だもの。わたしが国から出られないから、トゥーリはたびたび会いに来てくれていたんだけど、国の入口の洞窟に蛇が居座って、国から出られなくなったみたいなの! 蛇を追い出さなきゃ、わたし、もうトゥーリの遊べないっ」
「それだったら、ユリウスがどうにかするって言っていたじゃない」
「わたしは、すぐに会いたいのっ。それに、もし蛇のせいでトゥーリに何かあったらどうするの? 早く無事な姿を見たいの!」
メリーエルは少し考え込んだ。ナナリーの頼みを聞いてやる義理はないが、ユリウスに任せるよりも、ナナリーに味方して、友達のトゥーリとやらに口をきいてもらい、『光る青い薔薇の実』を譲ってもらった方が、メリーエル的には美味しい。
(あの実があれば、きっとダイエット薬も完成すると思うのよ)
メリーエルは子龍を見下ろして、にんまりと笑った。
「そうね。手伝ってやってもいいわよ。ただし、わたしのお願いを聞いてくれたらね」
こうして、メリーエルはユリウスには秘密で、ナナリーと約束を交わしたのだった。
メリーエルは頭を抱えたくなったが、自業自得という言葉が脳裏によぎって、はあーっとため息をつく。
すべては数時間前に遡る。
国に強制送還させられそうになったナナリーは、ユリウスに泣きついて一晩だけの滞在を勝ち取ると、ユリウスがきれいに直した邸の一室でナイトキャップをかぶって眠りに落ちていたはずだった。
しかし、なぜか彼女は夜中にメリーエルの部屋に訪れると、メリーエルをたたき起こしてこう言ったのである。
「あんた、一応魔女なんでしょ?」
「一応じゃなくてれっきとした魔女よ!」
「魔力ほとんどないくせに」
ナイトキャップをかぶった子龍というのも妙なもので、「龍の姿で髪なんてないくせにナイトキャップは必要なのか」と思わないでもないが、一つ突っ込むと倍以上の文句が帰ってきそうなので黙っておく。
夜中にたたき起こされた機嫌の悪いメリーエルがじろりとナナリーを睨みつけるが、彼女はどこ吹く風で、
「あんた、魔法薬が得意なんだってね。ちょっと手伝いなさいよ」
と偉そうに告げた。
メリーエルはベッドの上に膝を立てて頬杖をついた。
「なんでわたしがあんたを手伝わなきゃいけないのよ」
この子龍は、自分がメリーエルに何をしたかを忘れているのだろうか。いきなり火の玉を投げつけられ、邸まで半壊させられた恨みはメリーエルの中にまだ残っている。しつこいと言われようと、子供のすることだと諭されようと、そう簡単には消えない恨みだ。
暖炉の中の火はまだくすぶっているが、消えかかっているため、部屋の温度は少し低い。まだ寒いほどではないものの、さっさと布団にもぐりこんで、幸せな眠りを享受したいメリーエルは早々にナナリーを追い出すことにした。
「さっさと出て行かないと、ユリウスを呼びつけるわよ」
すると、ナナリーは目に見えて狼狽えた。
どうやら、ユリウスはナナリーには激甘のようだが、しつけに関してはそれなりに厳しいらしい。メリーエルから見れば充分甘いと思うのだが、怒られることを想像して怯えたような目をするナナリーの様子から、ユリウスの名前はそれなりに有効だと知る。
「わかったら、さっさと部屋に戻りなさいよ」
メリーエルはそう言うと、ナナリーを無視してベッドに横になった。布団をかぶると、欠伸を一つして目を閉じる。
「出て行くときには明かり消して行きなさいよね」
ナナリーに背を向けてそう告げるが、次の瞬間、メリーエルは「ぐえっ」とカエルが押しつぶされたような声をあげた。
子龍ナナリーが、ベッドの上――メリーエルの腹の上に飛び乗ったからだ。
「寝るんじゃないわよっ」
相手が子供とはいえ、メリーエルの中に小さな殺意が沸いた。
メリーエルの腹の上でふんぞり返っている子龍は、大きなくりっとした目ですがるようにメリーエルを見つめた。
「わたし、トゥーリに会いたいの!」
「だから、そのトゥーリって誰よ?」
「トゥーリは、わたしのお友達なの。一角獣の国の王様の孫なのよ!」
「一角獣?」
メリーエルはパチパチと目を瞬いた。
メリーエルも魔女の端くれ。一角獣の国がどこかに存在していることは知っていたが、その存在は、龍の国よりもはるかに情報が少なく、一生をかけても国を見つけることは不可能だと言われている。
メリーエルは大きく息を吸い込むと、勢いよく飛び起きた。
その拍子に、腹の上に乗っていたナナリーがころんとベッドから転がり落ちる。
「あんたの友達、一角獣なの!?」
「だから、そう言っているじゃないの」
なんてことだ。すると、幻と言われる一角獣の国にのみ生息しているという青い薔薇の、『光る青い薔薇の実』を手に入れることができるかもしれない。
メリーエルはキラキラと目を輝かせると、ベッドから落とされて「痛い」と両手で頭をおさえているナナリーを見た。
「それで、あんたはどうしてその一角獣――トゥーリに会いたいの?」
「お友達だもの。わたしが国から出られないから、トゥーリはたびたび会いに来てくれていたんだけど、国の入口の洞窟に蛇が居座って、国から出られなくなったみたいなの! 蛇を追い出さなきゃ、わたし、もうトゥーリの遊べないっ」
「それだったら、ユリウスがどうにかするって言っていたじゃない」
「わたしは、すぐに会いたいのっ。それに、もし蛇のせいでトゥーリに何かあったらどうするの? 早く無事な姿を見たいの!」
メリーエルは少し考え込んだ。ナナリーの頼みを聞いてやる義理はないが、ユリウスに任せるよりも、ナナリーに味方して、友達のトゥーリとやらに口をきいてもらい、『光る青い薔薇の実』を譲ってもらった方が、メリーエル的には美味しい。
(あの実があれば、きっとダイエット薬も完成すると思うのよ)
メリーエルは子龍を見下ろして、にんまりと笑った。
「そうね。手伝ってやってもいいわよ。ただし、わたしのお願いを聞いてくれたらね」
こうして、メリーエルはユリウスには秘密で、ナナリーと約束を交わしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる