魔女の復讐は容赦なし?~みなさま覚悟なさいませ?~

狭山ひびき

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金色の蛇は魔女がお好き?

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 なぜこんなことになっているのだろう。

 メリーエルは頭を抱えたくなったが、自業自得という言葉が脳裏によぎって、はあーっとため息をつく。
 すべては数時間前に遡る。



 国に強制送還させられそうになったナナリーは、ユリウスに泣きついて一晩だけの滞在を勝ち取ると、ユリウスがきれいに直した邸の一室でナイトキャップをかぶって眠りに落ちていたはずだった。

 しかし、なぜか彼女は夜中にメリーエルの部屋に訪れると、メリーエルをたたき起こしてこう言ったのである。

「あんた、一応魔女なんでしょ?」

「一応じゃなくてれっきとした魔女よ!」

「魔力ほとんどないくせに」

 ナイトキャップをかぶった子龍というのも妙なもので、「龍の姿で髪なんてないくせにナイトキャップは必要なのか」と思わないでもないが、一つ突っ込むと倍以上の文句が帰ってきそうなので黙っておく。

 夜中にたたき起こされた機嫌の悪いメリーエルがじろりとナナリーを睨みつけるが、彼女はどこ吹く風で、

「あんた、魔法薬が得意なんだってね。ちょっと手伝いなさいよ」

 と偉そうに告げた。

 メリーエルはベッドの上に膝を立てて頬杖をついた。

「なんでわたしがあんたを手伝わなきゃいけないのよ」

 この子龍は、自分がメリーエルに何をしたかを忘れているのだろうか。いきなり火の玉を投げつけられ、邸まで半壊させられた恨みはメリーエルの中にまだ残っている。しつこいと言われようと、子供のすることだと諭されようと、そう簡単には消えない恨みだ。

 暖炉の中の火はまだくすぶっているが、消えかかっているため、部屋の温度は少し低い。まだ寒いほどではないものの、さっさと布団にもぐりこんで、幸せな眠りを享受したいメリーエルは早々にナナリーを追い出すことにした。

「さっさと出て行かないと、ユリウスを呼びつけるわよ」

 すると、ナナリーは目に見えて狼狽えた。

 どうやら、ユリウスはナナリーには激甘のようだが、しつけに関してはそれなりに厳しいらしい。メリーエルから見れば充分甘いと思うのだが、怒られることを想像して怯えたような目をするナナリーの様子から、ユリウスの名前はそれなりに有効だと知る。

「わかったら、さっさと部屋に戻りなさいよ」

 メリーエルはそう言うと、ナナリーを無視してベッドに横になった。布団をかぶると、欠伸を一つして目を閉じる。

「出て行くときには明かり消して行きなさいよね」

 ナナリーに背を向けてそう告げるが、次の瞬間、メリーエルは「ぐえっ」とカエルが押しつぶされたような声をあげた。

 子龍ナナリーが、ベッドの上――メリーエルの腹の上に飛び乗ったからだ。

「寝るんじゃないわよっ」

 相手が子供とはいえ、メリーエルの中に小さな殺意が沸いた。

 メリーエルの腹の上でふんぞり返っている子龍は、大きなくりっとした目ですがるようにメリーエルを見つめた。

「わたし、トゥーリに会いたいの!」

「だから、そのトゥーリって誰よ?」

「トゥーリは、わたしのお友達なの。一角獣の国の王様の孫なのよ!」

「一角獣?」

 メリーエルはパチパチと目を瞬いた。

 メリーエルも魔女の端くれ。一角獣の国がどこかに存在していることは知っていたが、その存在は、龍の国よりもはるかに情報が少なく、一生をかけても国を見つけることは不可能だと言われている。

 メリーエルは大きく息を吸い込むと、勢いよく飛び起きた。

 その拍子に、腹の上に乗っていたナナリーがころんとベッドから転がり落ちる。

「あんたの友達、一角獣なの!?」

「だから、そう言っているじゃないの」

 なんてことだ。すると、幻と言われる一角獣の国にのみ生息しているという青い薔薇の、『光る青い薔薇の実』を手に入れることができるかもしれない。

 メリーエルはキラキラと目を輝かせると、ベッドから落とされて「痛い」と両手で頭をおさえているナナリーを見た。

「それで、あんたはどうしてその一角獣――トゥーリに会いたいの?」

「お友達だもの。わたしが国から出られないから、トゥーリはたびたび会いに来てくれていたんだけど、国の入口の洞窟に蛇が居座って、国から出られなくなったみたいなの! 蛇を追い出さなきゃ、わたし、もうトゥーリの遊べないっ」

「それだったら、ユリウスがどうにかするって言っていたじゃない」

「わたしは、すぐに会いたいのっ。それに、もし蛇のせいでトゥーリに何かあったらどうするの? 早く無事な姿を見たいの!」

 メリーエルは少し考え込んだ。ナナリーの頼みを聞いてやる義理はないが、ユリウスに任せるよりも、ナナリーに味方して、友達のトゥーリとやらに口をきいてもらい、『光る青い薔薇の実』を譲ってもらった方が、メリーエル的には美味しい。

(あの実があれば、きっとダイエット薬も完成すると思うのよ)

 メリーエルは子龍を見下ろして、にんまりと笑った。

「そうね。手伝ってやってもいいわよ。ただし、わたしのお願いを聞いてくれたらね」

 こうして、メリーエルはユリウスには秘密で、ナナリーと約束を交わしたのだった。
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