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金色の蛇は魔女がお好き?
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(うう……、欲に負けたわたしが憎い!)
メリーエルは、金色の蛇に巻きつかれながら、自分の愚かさを嘆いていた。
ナナリーと約束をした翌朝、彼女がユリウスをひきつけているうちに一角獣の国の入口の洞窟に向かったメリーエルは、そこで蜷局を巻いている大きな金色の蛇を見つけた。
ナナリーは大蛇だと言っていたが、とんでもない。大蛇なんて可愛らしいものではなく、蛇の頭だけでナナリーの身長はあろうかという、とんでもなく巨大な化け物蛇だ。
それを見た途端、ああ無理だと即座に判断したメリーエルは、慌てて踵を返した。しかし――
「誰だ」
地を這うような低い声とともに、蛇は頭をもたげると、洞窟の壁に張り付くようにして立っているメリーエルを見た。
「人間か?」
「と、通りがかりのものです! 今すぐ帰りますからっ」
メリーエルは蛇に答えると、洞窟の入口に向かって走り出した。だが、大蛇はあっという間にメリーエルを捕えて、その巨体の中に閉じ込めるように、彼女の体に巻きついたのだ。
(ひいっ)
絶体絶命とはこのことだろうか。
メリーエルは青を通り越して白くなりながら、硬い蛇の体の中で身を縮こませる。
幸い、それほど力は入れられていないので、苦しくも痛くもないが、大きな蛇の体はメリーエルにとっては壁のようで、閉じ込められた恐怖は計り知れない。
あがいて抜け出せるような生半可なものではなく、蛇が少しでも力をこめれば、おそらくメリーエルの体は押しつぶされるだろう。
すべては欲に負けてナナリーのお願いを聞いてしまったメリーエルが悪い。
(でも、こんなに大きいなんて聞いてないわよーっ)
これはもはや異次元の存在だ。龍の姿に戻ったユリウスと大きさはほとんど変わらないではないか! 長さがある分、こちらの方が大きいかもしれない。
(ユリウスーっ、ユリウス助けてーッ)
こんな大きなものに立ち向かえるのは、もう、ユリウスしかいない。
(勝手なことをしてごめんなさいぃー! しばらくおやつ抜きでもいいから、助けてーっ)
心の中で必死にユリウスに呼びかけるが、心の声が届くはずもない。
蛇に巻きつかれた体制のまま、メリーエルは自分自身の馬鹿さ加減にほとほと辟易した。よくよく考えれば――いや、よく考えなくとも――、子供とはいえ龍が太刀打ちできない化け物級の蛇に、魔力もほとんどないメリーエルが太刀打ちできるはずがないのだ。
(ううう、光る青い薔薇の実に目がくらんだわたしの馬鹿……)
魔法薬の貴重な材料には目のないメリーエルだが、さすがに今回はよく考えるべきだった。
所詮蛇だと高をくくっていたが、さすがにこの大きさは想像しなかった。そして、もっと愚かなことに、撃退するために持って来たのは、例の「筋肉も脂肪も溶かしてしまう魔法薬」だ。蛇の体はほとんど筋肉のはずだからちょうどいい――なんて考えていたが、どうやってこの薬を飲ませると言うのだ。口を開けた大蛇に、薬を持ったメリーエルごと食べられるのは絶対にご免である。
メリーエルが蛇に巻きつかれたまま、ぐすんと鼻を鳴らしたときだった。
「お前、魔女か?」
頭上から声が聞こえて顔をあげれば、金色の蛇がじっとこちらを見下ろしていた。
「そうだけど……」
「その目、なかなか綺麗な色をしている」
光によって金色の光彩を放つ緑色の目は母譲りで、メリーエルも気に入っている。
大蛇はその目を食い入るように見つめたのち、メリーエルの目尻に涙が盛り上がっているのを見て「ふむ」と唸った。
「そんなに小さいと、この姿は恐ろしかろう」
そう言うと、ぽんっと音を立ててメリーエルの目の前から大蛇が消えた。驚いた直後に、すぐそばに長い金色の髪をした色白の背の高い男が立っていることに気がつく。ぽかんと見上げた男の顔は、ユリウスと比べても遜色がないほどに整っていた。
「魔女に会うのは久しぶりだな。ずいぶんと弱そうな魔女だが、まあいい」
男は赤い瞳を細めて微笑むと、メリーエルの細い腕をつかむ。
「え……?」
気がついた時には、ころんとその場に転がされていた。
「ここにいて一角獣の雌でも攫って娶ろうと思っていたが、私はついている」
すぐ目の前には、男の整った美貌。
「一角獣より魔女の方が面白い。何より、その顔はなかなか好みだ」
「は――?」
メリーエルが男に組み敷かれていると気がついたのは、男がぺろりと赤い舌で唇を舐めたときで――
「うそでしょーっ!?」
これもある意味絶体絶命だとわかったメリーエルは、絶叫した。
メリーエルは、金色の蛇に巻きつかれながら、自分の愚かさを嘆いていた。
ナナリーと約束をした翌朝、彼女がユリウスをひきつけているうちに一角獣の国の入口の洞窟に向かったメリーエルは、そこで蜷局を巻いている大きな金色の蛇を見つけた。
ナナリーは大蛇だと言っていたが、とんでもない。大蛇なんて可愛らしいものではなく、蛇の頭だけでナナリーの身長はあろうかという、とんでもなく巨大な化け物蛇だ。
それを見た途端、ああ無理だと即座に判断したメリーエルは、慌てて踵を返した。しかし――
「誰だ」
地を這うような低い声とともに、蛇は頭をもたげると、洞窟の壁に張り付くようにして立っているメリーエルを見た。
「人間か?」
「と、通りがかりのものです! 今すぐ帰りますからっ」
メリーエルは蛇に答えると、洞窟の入口に向かって走り出した。だが、大蛇はあっという間にメリーエルを捕えて、その巨体の中に閉じ込めるように、彼女の体に巻きついたのだ。
(ひいっ)
絶体絶命とはこのことだろうか。
メリーエルは青を通り越して白くなりながら、硬い蛇の体の中で身を縮こませる。
幸い、それほど力は入れられていないので、苦しくも痛くもないが、大きな蛇の体はメリーエルにとっては壁のようで、閉じ込められた恐怖は計り知れない。
あがいて抜け出せるような生半可なものではなく、蛇が少しでも力をこめれば、おそらくメリーエルの体は押しつぶされるだろう。
すべては欲に負けてナナリーのお願いを聞いてしまったメリーエルが悪い。
(でも、こんなに大きいなんて聞いてないわよーっ)
これはもはや異次元の存在だ。龍の姿に戻ったユリウスと大きさはほとんど変わらないではないか! 長さがある分、こちらの方が大きいかもしれない。
(ユリウスーっ、ユリウス助けてーッ)
こんな大きなものに立ち向かえるのは、もう、ユリウスしかいない。
(勝手なことをしてごめんなさいぃー! しばらくおやつ抜きでもいいから、助けてーっ)
心の中で必死にユリウスに呼びかけるが、心の声が届くはずもない。
蛇に巻きつかれた体制のまま、メリーエルは自分自身の馬鹿さ加減にほとほと辟易した。よくよく考えれば――いや、よく考えなくとも――、子供とはいえ龍が太刀打ちできない化け物級の蛇に、魔力もほとんどないメリーエルが太刀打ちできるはずがないのだ。
(ううう、光る青い薔薇の実に目がくらんだわたしの馬鹿……)
魔法薬の貴重な材料には目のないメリーエルだが、さすがに今回はよく考えるべきだった。
所詮蛇だと高をくくっていたが、さすがにこの大きさは想像しなかった。そして、もっと愚かなことに、撃退するために持って来たのは、例の「筋肉も脂肪も溶かしてしまう魔法薬」だ。蛇の体はほとんど筋肉のはずだからちょうどいい――なんて考えていたが、どうやってこの薬を飲ませると言うのだ。口を開けた大蛇に、薬を持ったメリーエルごと食べられるのは絶対にご免である。
メリーエルが蛇に巻きつかれたまま、ぐすんと鼻を鳴らしたときだった。
「お前、魔女か?」
頭上から声が聞こえて顔をあげれば、金色の蛇がじっとこちらを見下ろしていた。
「そうだけど……」
「その目、なかなか綺麗な色をしている」
光によって金色の光彩を放つ緑色の目は母譲りで、メリーエルも気に入っている。
大蛇はその目を食い入るように見つめたのち、メリーエルの目尻に涙が盛り上がっているのを見て「ふむ」と唸った。
「そんなに小さいと、この姿は恐ろしかろう」
そう言うと、ぽんっと音を立ててメリーエルの目の前から大蛇が消えた。驚いた直後に、すぐそばに長い金色の髪をした色白の背の高い男が立っていることに気がつく。ぽかんと見上げた男の顔は、ユリウスと比べても遜色がないほどに整っていた。
「魔女に会うのは久しぶりだな。ずいぶんと弱そうな魔女だが、まあいい」
男は赤い瞳を細めて微笑むと、メリーエルの細い腕をつかむ。
「え……?」
気がついた時には、ころんとその場に転がされていた。
「ここにいて一角獣の雌でも攫って娶ろうと思っていたが、私はついている」
すぐ目の前には、男の整った美貌。
「一角獣より魔女の方が面白い。何より、その顔はなかなか好みだ」
「は――?」
メリーエルが男に組み敷かれていると気がついたのは、男がぺろりと赤い舌で唇を舐めたときで――
「うそでしょーっ!?」
これもある意味絶体絶命だとわかったメリーエルは、絶叫した。
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