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霧男の目的
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まるで巨大な落とし穴のようなその場所に、それはあった。
もともとは地下泉であったそこは、水脈が断たれたこの五十年ですっかりと干上がって、はるか上の小さな穴から零れ落ちる陽光が岩肌に虚しく突き刺さる。
泉の底であった場所には七色の光を放つ大きな水晶があった。
水晶のそばには一人の男がたたずんでいる。
背が高く、目深に帽子をかぶり、深緑のコートを着た男だった。
男は水晶のつるりとした肌を撫でながら、切なそうに瞳を揺らす。
「待っていてください。絶対に、あなたを救って差し上げますから――」
少しかすれた低い声。けれどもその声には、例えようのない後悔と思慕が含まれていた。
「あなたを救えるのなら、この手がどれほど赤く染まろうともかまわない。だからどうか、待っていて……。もうすぐ、だから」
あと一人なんだと、男は口の中でつぶやく。
そして、名残惜しそうに水晶の肌をもう一撫でして、くるりと踵を返した。
水晶に背を向けて三歩ほど進んだ男の姿は、ふっと煙のようにこの場からかき消える。
誰もいなくなった干上がった泉の底に落ちた静寂の中、小さな音が響く。
――お願いだから……。
それは声なのか、風の音なのか、誰もいなくなったこの場に、それ知るものは誰もいなかった。
もともとは地下泉であったそこは、水脈が断たれたこの五十年ですっかりと干上がって、はるか上の小さな穴から零れ落ちる陽光が岩肌に虚しく突き刺さる。
泉の底であった場所には七色の光を放つ大きな水晶があった。
水晶のそばには一人の男がたたずんでいる。
背が高く、目深に帽子をかぶり、深緑のコートを着た男だった。
男は水晶のつるりとした肌を撫でながら、切なそうに瞳を揺らす。
「待っていてください。絶対に、あなたを救って差し上げますから――」
少しかすれた低い声。けれどもその声には、例えようのない後悔と思慕が含まれていた。
「あなたを救えるのなら、この手がどれほど赤く染まろうともかまわない。だからどうか、待っていて……。もうすぐ、だから」
あと一人なんだと、男は口の中でつぶやく。
そして、名残惜しそうに水晶の肌をもう一撫でして、くるりと踵を返した。
水晶に背を向けて三歩ほど進んだ男の姿は、ふっと煙のようにこの場からかき消える。
誰もいなくなった干上がった泉の底に落ちた静寂の中、小さな音が響く。
――お願いだから……。
それは声なのか、風の音なのか、誰もいなくなったこの場に、それ知るものは誰もいなかった。
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