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霧男の目的
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ここはどこだろう。
メリーエルは茫然とあたりを見渡した。
さっきまで、メリーエルは確かにユリウスたちと湖にいたのだ。
歩きつかれたメリーエルは、湖のほとりに座って、城から持ってきていたマフィンを食べていた。
あまり広くない湖だが、湖水の透明度が高く、日差しを浴びてキラキラと輝く水面の下で魚が泳いでいる影が見える。
これで冬でなければ、湖の中に足を入れたい気分だ。
そんなことを思いながら、歩きつかれた体を休めていた時だった。
最初は、小さな違和感だった。
湖の白く水が濁ったような気がしたのだ。
だが、それは濁ったのではなく、水面を濃い霧が覆いはじめたのだと気がついた次の瞬間には、視界が真っ白に塗りつぶされた。
「ちょ、嘘でしょ!? ユリウスーっ」
メリーエルは慌てて立ち上がって、近くにいるはずのユリウスの名を呼んだ。
しかし、ユリウスからの返事はなく、不安になって、濃い霧の中、探るように手を動かしながらユリウスがいるはずの方向へ足を向ける。
「ユリウス? ねえ、聞こえてる?」
おかしい。
視界が霧に覆われているだけで、声が聞こえなくなるはずはないのに、いるはずのユリウスの声がしない。
それどころか、メリーエルの耳には自分が発する声しか聞こえてこなかった。ほかに、何の音も聞こえない。
(なに、これ……)
メリーエルは外套のあわせをぎゅっと握りしめた。
異常な霧だ。まるでミルクの中に落とされたかのような霧。こんな深い霧は見たことがない。
メリーエルはむやみに歩き回るのをやめて、霧が晴れるまでじっとしておくことにした。
大丈夫、だってユリウスがいる。彼がいれば、何があっても大丈夫だと、メリーエルは確信を持っている。
きっとユリウスが何とかするだろう。大丈夫だったかと、あの過保護な自称保護者はすぐに助けてくれるはず。
そう思って、メリーエルは霧が晴れるのを待っていたのだが――
(さっきまで湖にいたはずなのに……)
ようやく霧が晴れたかと思えば、全然知らない場所に立っていた。
目の前にあったはずの湖はなく、周囲を高い木々に覆われている。
右も左もわからないし、どこをどう歩けば元居た場所に戻るのかもわからない。
そして、何よりも頼りにしているユリウスの姿がない。
「どこよここ―――!」
メリーエルはやけになって叫んだ。
歩く気力もなく、近くの木の幹に背を預けるように座り込む。
「ユリウスー、どこー?」
メリーエルはため息をついて、空を仰いだ。
高い木々の間から、青空がのぞいている。まだ日は高いようだけど、夜になってきたらどうだろう。あたりは真っ暗闇に覆われてしまうかもしれない。
光の弾一つ生み出すだけでも精いっぱいなメリーエルの魔力では、こんな森の中で一人夜を過ごすには心もとなさすぎる。
「ゆりうすぅ」
メリーエルは膝を抱えて、その膝がしらに額をつけると、半べそでユリウスの名をつぶやいたのだった。
メリーエルは茫然とあたりを見渡した。
さっきまで、メリーエルは確かにユリウスたちと湖にいたのだ。
歩きつかれたメリーエルは、湖のほとりに座って、城から持ってきていたマフィンを食べていた。
あまり広くない湖だが、湖水の透明度が高く、日差しを浴びてキラキラと輝く水面の下で魚が泳いでいる影が見える。
これで冬でなければ、湖の中に足を入れたい気分だ。
そんなことを思いながら、歩きつかれた体を休めていた時だった。
最初は、小さな違和感だった。
湖の白く水が濁ったような気がしたのだ。
だが、それは濁ったのではなく、水面を濃い霧が覆いはじめたのだと気がついた次の瞬間には、視界が真っ白に塗りつぶされた。
「ちょ、嘘でしょ!? ユリウスーっ」
メリーエルは慌てて立ち上がって、近くにいるはずのユリウスの名を呼んだ。
しかし、ユリウスからの返事はなく、不安になって、濃い霧の中、探るように手を動かしながらユリウスがいるはずの方向へ足を向ける。
「ユリウス? ねえ、聞こえてる?」
おかしい。
視界が霧に覆われているだけで、声が聞こえなくなるはずはないのに、いるはずのユリウスの声がしない。
それどころか、メリーエルの耳には自分が発する声しか聞こえてこなかった。ほかに、何の音も聞こえない。
(なに、これ……)
メリーエルは外套のあわせをぎゅっと握りしめた。
異常な霧だ。まるでミルクの中に落とされたかのような霧。こんな深い霧は見たことがない。
メリーエルはむやみに歩き回るのをやめて、霧が晴れるまでじっとしておくことにした。
大丈夫、だってユリウスがいる。彼がいれば、何があっても大丈夫だと、メリーエルは確信を持っている。
きっとユリウスが何とかするだろう。大丈夫だったかと、あの過保護な自称保護者はすぐに助けてくれるはず。
そう思って、メリーエルは霧が晴れるのを待っていたのだが――
(さっきまで湖にいたはずなのに……)
ようやく霧が晴れたかと思えば、全然知らない場所に立っていた。
目の前にあったはずの湖はなく、周囲を高い木々に覆われている。
右も左もわからないし、どこをどう歩けば元居た場所に戻るのかもわからない。
そして、何よりも頼りにしているユリウスの姿がない。
「どこよここ―――!」
メリーエルはやけになって叫んだ。
歩く気力もなく、近くの木の幹に背を預けるように座り込む。
「ユリウスー、どこー?」
メリーエルはため息をついて、空を仰いだ。
高い木々の間から、青空がのぞいている。まだ日は高いようだけど、夜になってきたらどうだろう。あたりは真っ暗闇に覆われてしまうかもしれない。
光の弾一つ生み出すだけでも精いっぱいなメリーエルの魔力では、こんな森の中で一人夜を過ごすには心もとなさすぎる。
「ゆりうすぅ」
メリーエルは膝を抱えて、その膝がしらに額をつけると、半べそでユリウスの名をつぶやいたのだった。
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