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霧男の目的
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ピチャン―――
小さな音を立てて鼻先に落ちてきた水の粒の感触に、メリーエルはゆっくりと顔をあげた。
暗い。右も左もわからない闇というわけではなかったが、ほとんど光が入らない場所なのか、よくよく目を凝らさないとあたりの様子を確認できなかった。
ズキズキと頭の奥が痛む。
(……えっと……、なんでここにいるんだっけ?)
側頭部をおさえながらメリーエルは考える。
ユリウスと合流して、知り合いの邸があるから向かうと言う彼について歩いていたことは覚えている。
そう――、しばらく一緒に歩いていると、足元から徐々に霧が立ち込めてきたのだ。
怖くなってユリウスの腕にしがみつこうとして――、そこからプツリと記憶が途絶えている。
(わたし、またはぐれたのかしら……?)
そして、また、知らないうちに違う場所にいる。
二回目だ。十中八九、あの霧が関係していると考えていいだろう。だが、霧の正体はわからない。ここにユリウスがいれば、まだ何か掴めたかもしれないのに。
手のひらに伝わる感触はひんやりとごつごつしていて、岩肌のように感じられる。すると、ここは洞窟の中かそれに近い場所だろうと推測できた。
いつ獣が襲い掛かってくるかわからない森の中よりはましなのかもしれないが、安全とは言い難い。それに、とっても寒いし、今が昼か夜かはわからないが、このまま一夜を明かして凍死するのは勘弁だ。
(魔力少ないし、からっ欠になるとつらいからあんまり使いたくないんだけどなぁ)
メリーエルは大きく息を吐きだしてから、両手をつきだして深く集中した。
「えっと……、とりあえず、薪!」
手のひらに真食を集中すると、頭痛がひどくなる。額から汗が出てきて、かなり疲れたが、やがて目の前に大量の薪が出現した。これだけでもかなりふらふらしたが、力を振り絞ってその薪に火をつける。
薪に火がつくと、メリーエルはぐったりとその場に横になった。
「疲れたぁ……」
メリーエルは魔力が少ないだけで、魔法が使えないわけではない。魔法については幼いころから母にみっちり教えられた。母の魔力を補助につればそれなりに難しい魔法だって使える。
だが、メリーエル一人の魔力だけだと、これが限界だ。これだけで相当疲れたし、できることならこのまますぐにでも眠りにつきたい。
薪はできる限り大量に出しておいたので、しばらくは持つだろう。火が燃え移らないように、火をつけなかった薪を炎から遠ざけて、その一部を枕にして、メリーエルはもう一度横になる。
パチパチと爆ぜる炎を見て、これで凍死の心配はなくなったなとメリーエルはホッとした。
(おなかすいたぁー。ユリウスぅ……)
ユリウスがいないと心細い。出会ってまだ一年と少ししかたっていないのに、すっかりあの自称保護者に頼り切っていたらしい。でも、仕方がないと思う。だってユリウスは口うるさいけど甲斐甲斐しいし、なんだかんだとメリーエルに甘いし、ぬるま湯につかってゴロゴロしているような生活を送っていれば誰だってこうなるはずだ。
(……ユリウスがいつまで一緒にいてくれるのかもわからないのに、こんなことじゃ、ユリウスがいなくなったら生きていけなくなるかも……)
彼は龍族の王子様だ。今は彼の気まぐれでメリーエルのそばにいてくれるが、いついなくなろうとも彼の自由。そう考えると、メリーエルはずーんと重たい気持ちになる。
いまだってユリウスが助けに来てくれると信じている。彼が来ないなんてこれっぽちも疑っていない。それだけ、ユリウスに依存している。――このままだと、ユリウスが出て行くと言ったときは、両親がいなくなったときの何倍も何十倍もショックを受けるに決まっていた。
「こんなことじゃだめね。自力で何とかする方法を考えないと」
メリーエルは魔力がすっからかんになったせいで倦怠感の残る体を起こすと、赤々と燃える炎を見つめて考える。そのとき――
「あのう……、あなた、魔法使いさんなんですか?」
突然、横から声が聞こえてきて、メリーエルは飛び上がらんばかりに驚いた。
振り向けば、金髪の小柄な少女がそこにいて―――
「ぎゃあああああ―――! ゆーうーれーいぃ―――――――!」
メリーエルは力の限り、絶叫した。
小さな音を立てて鼻先に落ちてきた水の粒の感触に、メリーエルはゆっくりと顔をあげた。
暗い。右も左もわからない闇というわけではなかったが、ほとんど光が入らない場所なのか、よくよく目を凝らさないとあたりの様子を確認できなかった。
ズキズキと頭の奥が痛む。
(……えっと……、なんでここにいるんだっけ?)
側頭部をおさえながらメリーエルは考える。
ユリウスと合流して、知り合いの邸があるから向かうと言う彼について歩いていたことは覚えている。
そう――、しばらく一緒に歩いていると、足元から徐々に霧が立ち込めてきたのだ。
怖くなってユリウスの腕にしがみつこうとして――、そこからプツリと記憶が途絶えている。
(わたし、またはぐれたのかしら……?)
そして、また、知らないうちに違う場所にいる。
二回目だ。十中八九、あの霧が関係していると考えていいだろう。だが、霧の正体はわからない。ここにユリウスがいれば、まだ何か掴めたかもしれないのに。
手のひらに伝わる感触はひんやりとごつごつしていて、岩肌のように感じられる。すると、ここは洞窟の中かそれに近い場所だろうと推測できた。
いつ獣が襲い掛かってくるかわからない森の中よりはましなのかもしれないが、安全とは言い難い。それに、とっても寒いし、今が昼か夜かはわからないが、このまま一夜を明かして凍死するのは勘弁だ。
(魔力少ないし、からっ欠になるとつらいからあんまり使いたくないんだけどなぁ)
メリーエルは大きく息を吐きだしてから、両手をつきだして深く集中した。
「えっと……、とりあえず、薪!」
手のひらに真食を集中すると、頭痛がひどくなる。額から汗が出てきて、かなり疲れたが、やがて目の前に大量の薪が出現した。これだけでもかなりふらふらしたが、力を振り絞ってその薪に火をつける。
薪に火がつくと、メリーエルはぐったりとその場に横になった。
「疲れたぁ……」
メリーエルは魔力が少ないだけで、魔法が使えないわけではない。魔法については幼いころから母にみっちり教えられた。母の魔力を補助につればそれなりに難しい魔法だって使える。
だが、メリーエル一人の魔力だけだと、これが限界だ。これだけで相当疲れたし、できることならこのまますぐにでも眠りにつきたい。
薪はできる限り大量に出しておいたので、しばらくは持つだろう。火が燃え移らないように、火をつけなかった薪を炎から遠ざけて、その一部を枕にして、メリーエルはもう一度横になる。
パチパチと爆ぜる炎を見て、これで凍死の心配はなくなったなとメリーエルはホッとした。
(おなかすいたぁー。ユリウスぅ……)
ユリウスがいないと心細い。出会ってまだ一年と少ししかたっていないのに、すっかりあの自称保護者に頼り切っていたらしい。でも、仕方がないと思う。だってユリウスは口うるさいけど甲斐甲斐しいし、なんだかんだとメリーエルに甘いし、ぬるま湯につかってゴロゴロしているような生活を送っていれば誰だってこうなるはずだ。
(……ユリウスがいつまで一緒にいてくれるのかもわからないのに、こんなことじゃ、ユリウスがいなくなったら生きていけなくなるかも……)
彼は龍族の王子様だ。今は彼の気まぐれでメリーエルのそばにいてくれるが、いついなくなろうとも彼の自由。そう考えると、メリーエルはずーんと重たい気持ちになる。
いまだってユリウスが助けに来てくれると信じている。彼が来ないなんてこれっぽちも疑っていない。それだけ、ユリウスに依存している。――このままだと、ユリウスが出て行くと言ったときは、両親がいなくなったときの何倍も何十倍もショックを受けるに決まっていた。
「こんなことじゃだめね。自力で何とかする方法を考えないと」
メリーエルは魔力がすっからかんになったせいで倦怠感の残る体を起こすと、赤々と燃える炎を見つめて考える。そのとき――
「あのう……、あなた、魔法使いさんなんですか?」
突然、横から声が聞こえてきて、メリーエルは飛び上がらんばかりに驚いた。
振り向けば、金髪の小柄な少女がそこにいて―――
「ぎゃあああああ―――! ゆーうーれーいぃ―――――――!」
メリーエルは力の限り、絶叫した。
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