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突然の同居 5
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(もうもうバカバカ! 信じられないっ)
ラルフの早朝鍛錬の後、ダイニングで一緒に朝食を取りながら、オーレリアはじっとりと目の前に座る彼を睨みつけた。
汗を流して白いシャツを着たラルフは、鍛錬のあとで腹がすいているのか、目の前の食事をもりもり食べている。
ラルフはクリスの護衛官を仕事に選んだけれど、書類仕事も有能で、執務室にたまっていた書類の大半がすでに片付けられたらしい。
オーレリアは知らなかったが、近くの村から農業用のため池を作ってほしいと申請が上がっていたらしく、ラルフは明日にでもその村を視察に行くそうだ。
もともとラルフはバベッチ家の使用人たちにもウケがよかったが、最近ではオーレリアとラルフが結婚すると勘違いしたメイドの一部が、「お嬢様とラルフ様がご結婚なさったら、バベッチ家も安泰ですね!」などと言い出す始末だ。そのたびにオーレリアは赤くなって返答に困ってしまうからやめてほしいのに、メイド頭であるドーラも、彼女たちに好きに言わせていて咎める様子はない。むしろ、ドーラまで「ラルフ様はお嬢様をとても大切になさっていますから、おすすめです」と言うのだ。我が家にはラルフの味方しかいないらしい。
(別にさ、ラルフが嫌って言うんじゃないんだけど……)
家族を失って、急にいろいろなことが変わりはじめて――ラルフだけは変わらないと思っていたのに彼も変わってしまったようで、心が追いつかない。
それに、ギルバートのこともある。ラルフを選べばギルバートの求婚はお断りしなくては行けなくて、その逆も然りで、どちらを選んでも大切な人を一人失ってしまうようで怖いのだ。
ラルフがもっと早く求婚してくれればよかったのに。そうしたらオーレリアだって――
そこまで考えて、オーレリアはハッとした。
(やだ、わたし、何を考えようとしていたの?)
これではまるで、本当はラルフを選びたいのに選べないと、そう思っているようなものだ。
(違うわ、違う違う! ラルフは大切な家族だもの! 今のはなしなし!)
オーレリアは大口を開けて、もぐっとクロワッサンにかじりつく。
「いい食べっぷりだなあ」
大きな口を開けてパンにかじりつくなんて、伯爵令嬢としては不合格のはずなのに、ラルフがそう言って笑った。
「食欲が出てきたみたいでよかったな」
「……うぅ」
見られた。目の前にいるのだから当たり前だが、見られてしまった。
オーレリアだって、普段はちゃんとお上品に食べるのだ。ただ余計なことを考えてしまったせいで頭の中がぐるぐるして、ついお上品さを忘れてしまっただけで。
オーレリアの両親は些事にこだわるような性格ではなかったので、オーレリアはのびのびと育てられた。もちろん、人前でのマナーはきちんとしつけられたけれど、人前でなければかなり目こぼしをもらっていて――その癖が、ついぽろっと出てしまったのだ。ラルフにはお上品でないオーレリアなんて今更かもしれないけれど、どうしてか、今のラルフには見られたくなかった。
「オレンジ食べるか?」
「…………うん」
ラルフが自分の皿にあったオレンジを差し出してきたので、オーレリアは素直に受け取る。一番好きなのはイチゴだが、オレンジも大好きだ。というか、フルーツはどれも好き。
オレンジをもらった代わりに、ラルフには残していたソーセージをあげると、彼は「ありがとな」と言って皿ごと受け取った。
家族が死んでから、一人ぼっちで食べることが多かったので、正直、ラルフがここで生活するようになって、一緒に食事を取ってくれて、とても嬉しい。
ラルフがここで執務の代行を行ってくれるのは一か月だけだというが、もしラルフと結婚したら、こんな日々が日常になるのだろうか。
(ラルフと結婚するって決めたわけじゃないけど、……それはなんだかとても、幸せな気がするわ)
ラルフからもらったオレンジを頬張って、オーレリアはそう思った。
ラルフの早朝鍛錬の後、ダイニングで一緒に朝食を取りながら、オーレリアはじっとりと目の前に座る彼を睨みつけた。
汗を流して白いシャツを着たラルフは、鍛錬のあとで腹がすいているのか、目の前の食事をもりもり食べている。
ラルフはクリスの護衛官を仕事に選んだけれど、書類仕事も有能で、執務室にたまっていた書類の大半がすでに片付けられたらしい。
オーレリアは知らなかったが、近くの村から農業用のため池を作ってほしいと申請が上がっていたらしく、ラルフは明日にでもその村を視察に行くそうだ。
もともとラルフはバベッチ家の使用人たちにもウケがよかったが、最近ではオーレリアとラルフが結婚すると勘違いしたメイドの一部が、「お嬢様とラルフ様がご結婚なさったら、バベッチ家も安泰ですね!」などと言い出す始末だ。そのたびにオーレリアは赤くなって返答に困ってしまうからやめてほしいのに、メイド頭であるドーラも、彼女たちに好きに言わせていて咎める様子はない。むしろ、ドーラまで「ラルフ様はお嬢様をとても大切になさっていますから、おすすめです」と言うのだ。我が家にはラルフの味方しかいないらしい。
(別にさ、ラルフが嫌って言うんじゃないんだけど……)
家族を失って、急にいろいろなことが変わりはじめて――ラルフだけは変わらないと思っていたのに彼も変わってしまったようで、心が追いつかない。
それに、ギルバートのこともある。ラルフを選べばギルバートの求婚はお断りしなくては行けなくて、その逆も然りで、どちらを選んでも大切な人を一人失ってしまうようで怖いのだ。
ラルフがもっと早く求婚してくれればよかったのに。そうしたらオーレリアだって――
そこまで考えて、オーレリアはハッとした。
(やだ、わたし、何を考えようとしていたの?)
これではまるで、本当はラルフを選びたいのに選べないと、そう思っているようなものだ。
(違うわ、違う違う! ラルフは大切な家族だもの! 今のはなしなし!)
オーレリアは大口を開けて、もぐっとクロワッサンにかじりつく。
「いい食べっぷりだなあ」
大きな口を開けてパンにかじりつくなんて、伯爵令嬢としては不合格のはずなのに、ラルフがそう言って笑った。
「食欲が出てきたみたいでよかったな」
「……うぅ」
見られた。目の前にいるのだから当たり前だが、見られてしまった。
オーレリアだって、普段はちゃんとお上品に食べるのだ。ただ余計なことを考えてしまったせいで頭の中がぐるぐるして、ついお上品さを忘れてしまっただけで。
オーレリアの両親は些事にこだわるような性格ではなかったので、オーレリアはのびのびと育てられた。もちろん、人前でのマナーはきちんとしつけられたけれど、人前でなければかなり目こぼしをもらっていて――その癖が、ついぽろっと出てしまったのだ。ラルフにはお上品でないオーレリアなんて今更かもしれないけれど、どうしてか、今のラルフには見られたくなかった。
「オレンジ食べるか?」
「…………うん」
ラルフが自分の皿にあったオレンジを差し出してきたので、オーレリアは素直に受け取る。一番好きなのはイチゴだが、オレンジも大好きだ。というか、フルーツはどれも好き。
オレンジをもらった代わりに、ラルフには残していたソーセージをあげると、彼は「ありがとな」と言って皿ごと受け取った。
家族が死んでから、一人ぼっちで食べることが多かったので、正直、ラルフがここで生活するようになって、一緒に食事を取ってくれて、とても嬉しい。
ラルフがここで執務の代行を行ってくれるのは一か月だけだというが、もしラルフと結婚したら、こんな日々が日常になるのだろうか。
(ラルフと結婚するって決めたわけじゃないけど、……それはなんだかとても、幸せな気がするわ)
ラルフからもらったオレンジを頬張って、オーレリアはそう思った。
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