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お猫様はどこに消えた!?
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ちゃぷん、と動くたびに水音がする。
スノウを足の間に座らせて、ヴィクトールは赤い薔薇の花びらの浮かぶ湯船を見やった。
二人入ると少し狭い湯船は、身動きすると湯が溢れていきそうだ。
狭い浴室はむせ返るような薔薇の香りであふれており、スノウは湯に浮かぶ薔薇の花びらを救い上げては満足そうな様子だ。
髪を一つにまとめ上げているので、火照ってピンク色に染まったうなじがたまらない。
衝動のままちゅうっとうなじを吸い上げれば、スノウがビクンと肩を揺らした。
「ヴィ―、悪戯はだめなのよ」
肩越しに振り返って、スノウは口を尖らせる。
スノウの顔が赤くなっているのは気のせいではないだろう。
何度も一緒に入浴したというのに、どうやら裸で一緒に湯につかるのは恥ずかしいらしく、スノウはいつも硬くなる。
ついつい悪戯したくなって、するっと湯の中でスノウのわき腹に手を回せば「ぴやぁ!」と悲鳴を上げて逃げようとした。
途端にぱしゃんと湯が跳ねて、浴槽の淵からあふれていく。
「こらこら、暴れたらお湯が溢れるだろう?」
苦笑しながらたしなめれば、ぷうっとスノウの頬が膨らんだ。
「ヴィ―が悪いもん」
「んー?」
「今のは、ヴィーが悪いんだもん」
「そうだねぇ」
ヴィクトールがスノウの肩に腕を回して、自分の胸に抱き込むように引き寄せると、上を見上げたスノウと目が合う。
たまらなくなってチュッとキスをすれば、「みぃ」とスノウが猫のように鳴いた。
よほど恥ずかしいのだろう、ぎゅっと肩に力を入れているのが可愛くて仕方ない。
「髪を洗ってあげようね」
「一人で洗えるよっ」
「でも、洗ってあげようね」
有無を言わさずわきの下に手を入れてスノウを抱き上げれば、スノウは耳まで真っ赤に染めたが、抵抗はしなかった。
シャボンを泡立てて、スノウの髪を丁寧に洗っていく。
背を向けて座っているスノウの、背中から腰に掛けて、赤く細い線がいくつも浮かび上がっていた。
普段は消えて見えなくなっているが、肌が火照るといまだに浮かび上がる、鞭のあと。
スノウがどういう生活をしていたのか、詳細まではわからない。この鞭のあとは、ヴィクトールと出会うずっとずっと前のものだそうだ。それでも、無数に走る背中の鞭のあとを見るたびに思う。スノウに鞭打った人物を見つけ出したときは、おそらくヴィクトールはその人物を生かしてはおかないだろう、と。
微かに仄暗い感情を覚えながらスノウの髪を洗っていると、泡が入らないようにきつく目を閉ざしたスノウがポツンと言った。
「ビビアンさんのお友達の猫ちゃんも、いなくなったんだって」
「うん?」
「今日ね、シロが戻っていないかなって探していたら、ビビアンさんが教えてくれたの。そういえば友達の飼っている猫もいなくなったのよって」
「……ちなみに、どんな猫なのかは聞いた?」
「金色の目をした珍しい猫なんだって。金色の毛に黒の丸い模様がたくさん入ってるんだって。ちょっと大きくて、見た目は怖そうだけどおとなしい猫だったのよって言ってた」
「なるほどね……」
「誰か猫攫いがいるのかなぁ」
「猫攫い?」
まるで人攫いのように言うスノウにヴィクトールは吹き出した。
「どこで覚えたの、そんな変な言葉」
「ビビアンさんが言っていたの。猫攫いかしらって。珍しいから誰かが盗んで言っちゃったのかしらねって。……誰かのものまで取っちゃうなんて、猫ちゃんが大好きな人なのかな」
スノウらしい感想に、ヴィクトールは青銀色の双眸を細める。
「そうだね……、スノウ、流すから目をぎゅっとしていてね」
「ん!」
ヴィクトールはゆっくりとスノウの頭に湯をかけながら、シャボンを洗い流していく。
そのあとスノウの体もぴかぴかに磨き上げながら、ヴィクトールは昨日の夜にサーカス団の女から聞いた言葉を考えていた。
スノウを足の間に座らせて、ヴィクトールは赤い薔薇の花びらの浮かぶ湯船を見やった。
二人入ると少し狭い湯船は、身動きすると湯が溢れていきそうだ。
狭い浴室はむせ返るような薔薇の香りであふれており、スノウは湯に浮かぶ薔薇の花びらを救い上げては満足そうな様子だ。
髪を一つにまとめ上げているので、火照ってピンク色に染まったうなじがたまらない。
衝動のままちゅうっとうなじを吸い上げれば、スノウがビクンと肩を揺らした。
「ヴィ―、悪戯はだめなのよ」
肩越しに振り返って、スノウは口を尖らせる。
スノウの顔が赤くなっているのは気のせいではないだろう。
何度も一緒に入浴したというのに、どうやら裸で一緒に湯につかるのは恥ずかしいらしく、スノウはいつも硬くなる。
ついつい悪戯したくなって、するっと湯の中でスノウのわき腹に手を回せば「ぴやぁ!」と悲鳴を上げて逃げようとした。
途端にぱしゃんと湯が跳ねて、浴槽の淵からあふれていく。
「こらこら、暴れたらお湯が溢れるだろう?」
苦笑しながらたしなめれば、ぷうっとスノウの頬が膨らんだ。
「ヴィ―が悪いもん」
「んー?」
「今のは、ヴィーが悪いんだもん」
「そうだねぇ」
ヴィクトールがスノウの肩に腕を回して、自分の胸に抱き込むように引き寄せると、上を見上げたスノウと目が合う。
たまらなくなってチュッとキスをすれば、「みぃ」とスノウが猫のように鳴いた。
よほど恥ずかしいのだろう、ぎゅっと肩に力を入れているのが可愛くて仕方ない。
「髪を洗ってあげようね」
「一人で洗えるよっ」
「でも、洗ってあげようね」
有無を言わさずわきの下に手を入れてスノウを抱き上げれば、スノウは耳まで真っ赤に染めたが、抵抗はしなかった。
シャボンを泡立てて、スノウの髪を丁寧に洗っていく。
背を向けて座っているスノウの、背中から腰に掛けて、赤く細い線がいくつも浮かび上がっていた。
普段は消えて見えなくなっているが、肌が火照るといまだに浮かび上がる、鞭のあと。
スノウがどういう生活をしていたのか、詳細まではわからない。この鞭のあとは、ヴィクトールと出会うずっとずっと前のものだそうだ。それでも、無数に走る背中の鞭のあとを見るたびに思う。スノウに鞭打った人物を見つけ出したときは、おそらくヴィクトールはその人物を生かしてはおかないだろう、と。
微かに仄暗い感情を覚えながらスノウの髪を洗っていると、泡が入らないようにきつく目を閉ざしたスノウがポツンと言った。
「ビビアンさんのお友達の猫ちゃんも、いなくなったんだって」
「うん?」
「今日ね、シロが戻っていないかなって探していたら、ビビアンさんが教えてくれたの。そういえば友達の飼っている猫もいなくなったのよって」
「……ちなみに、どんな猫なのかは聞いた?」
「金色の目をした珍しい猫なんだって。金色の毛に黒の丸い模様がたくさん入ってるんだって。ちょっと大きくて、見た目は怖そうだけどおとなしい猫だったのよって言ってた」
「なるほどね……」
「誰か猫攫いがいるのかなぁ」
「猫攫い?」
まるで人攫いのように言うスノウにヴィクトールは吹き出した。
「どこで覚えたの、そんな変な言葉」
「ビビアンさんが言っていたの。猫攫いかしらって。珍しいから誰かが盗んで言っちゃったのかしらねって。……誰かのものまで取っちゃうなんて、猫ちゃんが大好きな人なのかな」
スノウらしい感想に、ヴィクトールは青銀色の双眸を細める。
「そうだね……、スノウ、流すから目をぎゅっとしていてね」
「ん!」
ヴィクトールはゆっくりとスノウの頭に湯をかけながら、シャボンを洗い流していく。
そのあとスノウの体もぴかぴかに磨き上げながら、ヴィクトールは昨日の夜にサーカス団の女から聞いた言葉を考えていた。
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