守りたい、君のこと

外伝②「ケンジのライバル心と友情」

放課後の校舎は、
オレンジ色の夕日に包まれていた。
僕、ケンジは教室のドアの影に隠れながら、
加西の姿を確認する。

――今日もユアトと一緒にいる。

肩を並べて歩く二人を見ているだけで、
胸の奥がざわつく。
俺だって……加西のこと、
ただのクラスメイトとしてじゃない。
でも、ユアトが近くにいる以上、
簡単に手を出せないのも事実だった。

「ふん……チッ、悔しいな」

心の中で舌打ちしながらも、
表情は平静を装う。
加西は相変わらず、
照れた笑顔でユアトに話しかけている。
肩が触れそうになる距離に、俺の胸も痛む。

――やっぱり、俺はライバルだ。

でも、ユアトは友達だから、
ぶつかるわけにもいかない。
だから、
こうして遠くから見てるしかないんだ。
心の奥では「俺の方が加西のことわかってるのに」
と思う瞬間もあるけど、言えない。

その時、加西が歩幅を調整して
ユアトに合わせているのを見て、
俺は少し考え込む。
――なんであんなに自然なんだ……。

ふと、加西が立ち止まり、
何か小さく呟いた。
「……ありがとう」

ユアトが優しく答える。
「いいんだよ」

――チッ、なんだよそのやり取り……。

心臓がざわつくのを感じながら、
俺はそっと視線を逸らす。
でも、目を離すことはできなかった。
加西の笑顔、声のトーン、仕草……
全部が、俺にとって少し悔しくて、
でも眩しい。

「……あーあ、やっぱり俺じゃダメか」

独り言を呟きながらも、
どこか安心している自分がいる。
だって、加西が笑ってるのは、
俺にとっても嬉しいことだ。
ユアトには敵わなくても、
加西が穏やかに過ごしているなら、
それでいい――そう思う自分もいる。

廊下の端で立ち止まり、二人を見守る。
ユアトは加西に何気ない声をかけ、
加西は少し照れながら答える。
肩がかすかに触れる距離を、
二人は自然に保っている。

――くそ、余計にムカつく
……でも、眩しい。

俺の胸の中で、ライバル心と嫉妬と、
ほんの少しの羨ましさが入り混じる。
でも、笑顔を見せる加西を目にすると、
文句を言うどころか心が少し温かくなる。

「……ふん、いいさ。俺は俺のやり方で勝負する」

夕日に照らされる加西の横顔を見ながら、
俺は心の中で密かに決める。
ユアトには敵わなくても、
俺なりの方法で加西に近づく
――その日が来るまでは、
影から見守るだけだ。

風が少し冷たくなり、
教室の影が長く伸びる。
でも、俺の心は不思議と熱く、
ざわついていた。
加西が笑うたび、心臓が跳ねる。
ライバルであり、友達であり、
そして――気になる存在。

今日も、俺は影から二人を見守る。
遠くからでも、加西の笑顔を守りたい
――そう思いながら、
少し照れくさい気持ちを抱えて
帰路についた。

廊下の端で二人を見守りながら、
俺はふとため息をつく。
「……ああ、加西の笑顔、
見てるだけでムカつくな。
でも、消したくはない」

心の中で葛藤しながらも、
少し近づいて声をかける。
「加西、ちょっとこっち来いよ」

加西は驚いた顔でこちらを見る。
「え…何？」

軽く肩を叩いて笑うと、
少し照れた表情で答える。
「別に、大したことじゃないよ」

――やっぱり素直すぎる。
その無邪気さに、
俺の胸がぎゅっとなる。
嫉妬しつつも、
守りたくなる気持ちが芽生えてくる。

後ろからユアトの声がかかる。
「ケンジ、何してるんだ？」

俺は少し身構える。
でも、ユアトは笑っているだけで、
敵意はない。
友達だから、
ぶつかるわけにはいかないのも分かってる。

「いや、ちょっと加西に話しかけただけだ」

笑ってごまかす俺に、
ユアトは軽くうなずく。

「そっか、ならいいけど」

二人の距離を見守るしかない俺にとって、
少しの会話も貴重だ。
加西が笑うと、胸が熱くなり、
夕日の光に照らされる顔がやけに眩しい。

「……くそ、やっぱり俺、
影から見てるだけじゃ満足できねぇな」

そう思いながらも、
今日も俺は影から二人を見守る。
ライバル心と羨ましさと、
守りたい気持ちが入り混じったまま、
夕暮れの校舎を後にした。