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第10話「影と風」
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昼休み。
教室のざわめきは、
弁当を開く音や
パンを頬張る笑い声でいっぱいだった。
ユズホはユアト、アオイ、ケンジと机を囲み、
ささやかな時間を過ごしていた。前の騒動
――男子たちにからかわれた一件があった後だから、
周囲からの視線はまだ消えてはいない。
けれど、少なくとも
今日は大きな声を上げて笑う人はいなかった。
「なぁ、半分食うか?」
ユアトが手に持っていたメロンパンを差し出してくる。
「え、いいの?」
「俺、甘いの一個で十分だから」
その自然さにユズホの胸が温かくなる。
隣ではアオイが
「ほんっと、ユアトは優しいな」
と笑い、ケンジは
「加西、遠慮すんなよ」
と、わざとぶっきらぼうに言った。
――その瞬間だった。
「へぇ、これが“噂の加西さん”か」
低い声が教室に響き渡った。
振り返ると、
教室の後ろの扉にもたれかかる一人の男子。
黒いシャツに乱れた前髪。
整った顔立ちなのに、
目つきだけは鋭く獣のように光っている。
「霧島レイ。転校してきたんだ。よろしく」
そう言いながら、彼はわずかに笑った。
だがその笑みには、
歓迎の色など一切なく、
ただ挑発だけが含まれていた。
教室が静まり返る。
新しいクラスメイトを迎えるはずの場面なのに、
レイの存在は空気を張り詰めさせるばかりだった。
「……よろしく」
ユアトが立ち上がり、冷静に返す。
その声音は変わらず落ち着いていたが、
目だけはレイから逸らさない。
アオイとケンジも構えるように席をずらし、
視線を送った。ユズホは息を呑み、
机の下でぎゅっとスカートを握りしめた。
その緊張を破るように、別の声が廊下から届いた。
「おっと、レイ。転校初日から物騒すぎるだろ?」
姿を現したのはもう一人の男子。
柔らかな笑顔と落ち着いた雰囲気をまとった彼は、
空気を和らげるように歩み寄る。
「俺は月岡リョウ。同じく転校生。
ま、敵じゃないから安心してくれよ」
彼はユズホたちの机の横に腰を下ろし、
にこりと笑った。その飄々とした態度に、
周囲の緊張がわずかに緩んだ。
だが、レイの視線はユズホから外れない。
「……面白いな。弱いのに守られる加西さん。
今後が楽しみだ」
その言葉に、ユズホの背筋が冷たく震えた。
「おい、言い方考えろよ」
ケンジが椅子を蹴るように立ち上がる。
アオイも負けじと、
「あんた、初日から何様?」と声を上げる。
しかしレイは二人を相手にする様子もなく、
ただユズホを見据えたままだった。
その静かな圧に、教室全体が息を詰める。
――そのとき。
「ユアトくん!アオイちゃん!
……あ、はじめまして!」
弾むような声と共に、
小柄な女子が教室へ飛び込んできた。
明るい栗色の髪を揺らしながら笑うその子は、
真田ココネ。転校してきた二人と同じく、
今日からこのクラスの仲間になった。
彼女の笑顔は、張り詰めた教室の空気を
一瞬で柔らかく変えた。
「わ、転校生いっぱいだね!仲良くしよ!」
その一言に、数人の女子が
ほっとしたように笑い出す。
リョウは肩をすくめ、
「ココネはほんとに空気を変えるなぁ」
と小声で呟いた。
レイだけが無言で、窓の外を見つめていた。
――昼休みが終わるチャイムが鳴るまで、
ユズホの胸はずっと早鐘を打ち続けていた。
彼らは一体、敵なのか味方なのか。
新たに加わった影と風が、
これからの日々をどう揺らしていくのか
――ユズホにはまだ、知る由もなかった。
教室のざわめきは、
弁当を開く音や
パンを頬張る笑い声でいっぱいだった。
ユズホはユアト、アオイ、ケンジと机を囲み、
ささやかな時間を過ごしていた。前の騒動
――男子たちにからかわれた一件があった後だから、
周囲からの視線はまだ消えてはいない。
けれど、少なくとも
今日は大きな声を上げて笑う人はいなかった。
「なぁ、半分食うか?」
ユアトが手に持っていたメロンパンを差し出してくる。
「え、いいの?」
「俺、甘いの一個で十分だから」
その自然さにユズホの胸が温かくなる。
隣ではアオイが
「ほんっと、ユアトは優しいな」
と笑い、ケンジは
「加西、遠慮すんなよ」
と、わざとぶっきらぼうに言った。
――その瞬間だった。
「へぇ、これが“噂の加西さん”か」
低い声が教室に響き渡った。
振り返ると、
教室の後ろの扉にもたれかかる一人の男子。
黒いシャツに乱れた前髪。
整った顔立ちなのに、
目つきだけは鋭く獣のように光っている。
「霧島レイ。転校してきたんだ。よろしく」
そう言いながら、彼はわずかに笑った。
だがその笑みには、
歓迎の色など一切なく、
ただ挑発だけが含まれていた。
教室が静まり返る。
新しいクラスメイトを迎えるはずの場面なのに、
レイの存在は空気を張り詰めさせるばかりだった。
「……よろしく」
ユアトが立ち上がり、冷静に返す。
その声音は変わらず落ち着いていたが、
目だけはレイから逸らさない。
アオイとケンジも構えるように席をずらし、
視線を送った。ユズホは息を呑み、
机の下でぎゅっとスカートを握りしめた。
その緊張を破るように、別の声が廊下から届いた。
「おっと、レイ。転校初日から物騒すぎるだろ?」
姿を現したのはもう一人の男子。
柔らかな笑顔と落ち着いた雰囲気をまとった彼は、
空気を和らげるように歩み寄る。
「俺は月岡リョウ。同じく転校生。
ま、敵じゃないから安心してくれよ」
彼はユズホたちの机の横に腰を下ろし、
にこりと笑った。その飄々とした態度に、
周囲の緊張がわずかに緩んだ。
だが、レイの視線はユズホから外れない。
「……面白いな。弱いのに守られる加西さん。
今後が楽しみだ」
その言葉に、ユズホの背筋が冷たく震えた。
「おい、言い方考えろよ」
ケンジが椅子を蹴るように立ち上がる。
アオイも負けじと、
「あんた、初日から何様?」と声を上げる。
しかしレイは二人を相手にする様子もなく、
ただユズホを見据えたままだった。
その静かな圧に、教室全体が息を詰める。
――そのとき。
「ユアトくん!アオイちゃん!
……あ、はじめまして!」
弾むような声と共に、
小柄な女子が教室へ飛び込んできた。
明るい栗色の髪を揺らしながら笑うその子は、
真田ココネ。転校してきた二人と同じく、
今日からこのクラスの仲間になった。
彼女の笑顔は、張り詰めた教室の空気を
一瞬で柔らかく変えた。
「わ、転校生いっぱいだね!仲良くしよ!」
その一言に、数人の女子が
ほっとしたように笑い出す。
リョウは肩をすくめ、
「ココネはほんとに空気を変えるなぁ」
と小声で呟いた。
レイだけが無言で、窓の外を見つめていた。
――昼休みが終わるチャイムが鳴るまで、
ユズホの胸はずっと早鐘を打ち続けていた。
彼らは一体、敵なのか味方なのか。
新たに加わった影と風が、
これからの日々をどう揺らしていくのか
――ユズホにはまだ、知る由もなかった。
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