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第11話「揺れる想い」
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昼休みが終わりに近づき、
教室のざわめきは
次の授業に向けた準備で満ちていた。
筆箱を出す音、友達同士の小さな会話、
笑い声。けれど、
その中に混じってユズホの耳には、
はっきりと自分の名前が混ざって聞こえてくる。
「加西さん、また男子に囲まれてたんだって」
「しかも転校生の霧島くんまで?
ほんとすごいよね」
「でもあれってさ……結局、
いい意味なのか悪い意味なのか」
わざと聞こえるように言っているのか、
それとも自然に届いてしまうのか。
どちらにせよ、
ユズホの胸には小さな棘が突き刺さる。
机の上に置いた両手を
ぎゅっと握りしめるけれど、
その力では
心のざわめきを抑えることはできない。
「よう、加西さん」
その声に、心臓が跳ねた。
顔を上げると、レイが机に片肘をつき、
挑発的な笑みを浮かべて立っていた。
教室中の空気が一瞬止まる。
「ちょっと話さねぇ?」
「……」
ユズホは喉が凍りついたみたいに
声が出なかった。
「おい、レイ」
真っ先に立ち上がったのはケンジだった。
椅子をがたんと鳴らして立ち、
レイを睨みつける。
「加西に何の用だよ」
「そうよ。毎回毎回、
休み時間の度に寄ってきて
……いい加減にしてくれる?」
アオイも席を立ち、
腕を組んで強い視線を送る。
けれどレイは怯むどころか、
余裕の笑みを浮かべたままだった。
「別にぃ?俺はただ“知りたい”だけなんだよ。
噂の中心にいる彼女のことをさ」
「……」ユズホは下を向いた。
教室の視線が突き刺さる。
笑われるのも怖い。だけど、
守られている自分を見るのも辛かった。
――わたし、また誰かに助けてもらってる。
その瞬間、ふわりと肩に温もりが触れる。
「大丈夫だよ、ユズホちゃん」
ココネが優しく微笑みかけていた。
「わたし、女子だから。いつでも一緒にいるから」
その言葉に、
胸の奥の張り詰めたものがほんの少しだけ和らぐ。
けれど同時に、弱い自分を突きつけられたようで、
情けなさも込み上げてきた。
「レイ。やめろ」
今度はユアトが立ち上がった。
その声は低く落ち着いていた。怒鳴るでもなく、
ただ静かに。しかしその冷静さの裏に、
燃えるような怒りが潜んでいるのがわかる。
「へぇ、ユアト」レイは口角を上げる。
「お前がいるから彼女は守られてるってわけか。
いいなぁ、そういうの」
「……」ユアトは黙ってレイを見つめる。
「でも俺はやめねぇよ。
興味あるんだ。加西さんがどこまで耐えられるか」
挑発的な言葉を残して、
レイはひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
残された空気は重く、
誰もすぐには口を開けなかった。
「……ごめん」小さな声で、ユズホが言った。
「また、みんなに守られてばっかりで……」
「なに言ってんの」アオイが首を振る。
「友達を守るのは当たり前でしょ」
「そうだぞ。俺らが勝手にやってんだ」
ケンジも言葉を重ねる。
「ユズホは悪くねぇ」
「それに」ユアトが静かに言った。
「ユズホが謝ることじゃない。
むしろ……俺たちが勝手に守りたいんだ」
その一言に、胸が熱くなる。
でも同時に、
どうしようもない悔しさもこみ上げてくる。
――わたしは、このままでいいの?
守られるだけで、何もできないままで。
その葛藤は小さな芽のように、
ユズホの胸の奥で確かに芽生え始めていた。
教室のざわめきは
次の授業に向けた準備で満ちていた。
筆箱を出す音、友達同士の小さな会話、
笑い声。けれど、
その中に混じってユズホの耳には、
はっきりと自分の名前が混ざって聞こえてくる。
「加西さん、また男子に囲まれてたんだって」
「しかも転校生の霧島くんまで?
ほんとすごいよね」
「でもあれってさ……結局、
いい意味なのか悪い意味なのか」
わざと聞こえるように言っているのか、
それとも自然に届いてしまうのか。
どちらにせよ、
ユズホの胸には小さな棘が突き刺さる。
机の上に置いた両手を
ぎゅっと握りしめるけれど、
その力では
心のざわめきを抑えることはできない。
「よう、加西さん」
その声に、心臓が跳ねた。
顔を上げると、レイが机に片肘をつき、
挑発的な笑みを浮かべて立っていた。
教室中の空気が一瞬止まる。
「ちょっと話さねぇ?」
「……」
ユズホは喉が凍りついたみたいに
声が出なかった。
「おい、レイ」
真っ先に立ち上がったのはケンジだった。
椅子をがたんと鳴らして立ち、
レイを睨みつける。
「加西に何の用だよ」
「そうよ。毎回毎回、
休み時間の度に寄ってきて
……いい加減にしてくれる?」
アオイも席を立ち、
腕を組んで強い視線を送る。
けれどレイは怯むどころか、
余裕の笑みを浮かべたままだった。
「別にぃ?俺はただ“知りたい”だけなんだよ。
噂の中心にいる彼女のことをさ」
「……」ユズホは下を向いた。
教室の視線が突き刺さる。
笑われるのも怖い。だけど、
守られている自分を見るのも辛かった。
――わたし、また誰かに助けてもらってる。
その瞬間、ふわりと肩に温もりが触れる。
「大丈夫だよ、ユズホちゃん」
ココネが優しく微笑みかけていた。
「わたし、女子だから。いつでも一緒にいるから」
その言葉に、
胸の奥の張り詰めたものがほんの少しだけ和らぐ。
けれど同時に、弱い自分を突きつけられたようで、
情けなさも込み上げてきた。
「レイ。やめろ」
今度はユアトが立ち上がった。
その声は低く落ち着いていた。怒鳴るでもなく、
ただ静かに。しかしその冷静さの裏に、
燃えるような怒りが潜んでいるのがわかる。
「へぇ、ユアト」レイは口角を上げる。
「お前がいるから彼女は守られてるってわけか。
いいなぁ、そういうの」
「……」ユアトは黙ってレイを見つめる。
「でも俺はやめねぇよ。
興味あるんだ。加西さんがどこまで耐えられるか」
挑発的な言葉を残して、
レイはひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
残された空気は重く、
誰もすぐには口を開けなかった。
「……ごめん」小さな声で、ユズホが言った。
「また、みんなに守られてばっかりで……」
「なに言ってんの」アオイが首を振る。
「友達を守るのは当たり前でしょ」
「そうだぞ。俺らが勝手にやってんだ」
ケンジも言葉を重ねる。
「ユズホは悪くねぇ」
「それに」ユアトが静かに言った。
「ユズホが謝ることじゃない。
むしろ……俺たちが勝手に守りたいんだ」
その一言に、胸が熱くなる。
でも同時に、
どうしようもない悔しさもこみ上げてくる。
――わたしは、このままでいいの?
守られるだけで、何もできないままで。
その葛藤は小さな芽のように、
ユズホの胸の奥で確かに芽生え始めていた。
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