守りたい、君のこと

第13話「勇気の一歩」

翌日、ユズホは朝から少しそわそわしていた。
胸の奥に、昨日先生に相談して得た
小さな勇気がまだ残っている。
その勇気を、今日の自分で確かめたいと思った。

教室に入る前、渡り廊下の端で立ち止まる。
窓から差し込む朝日の光が肩を温かく包み、
少しずつ心を落ち着かせる。
心の中で何度も呼吸を整え、少しずつ
勇気を絞り出す。

――行こう。

足を踏み出した瞬間、遠くから声が聞こえた。

「加西さん、またひとり？」
「どうせ今日も守られてるんだろ？」

昨日の出来事が蘇る。レイたちの挑発的な声に、
胸がぎゅっと締め付けられる。しかし、
ユズホは下を向かず、前をしっかりと見据えた。
昨日の自分とは違う。

今の自分は、
少しだけ勇気を手に入れたのだ。

そのとき、渡り廊下の先にユアトの姿が見えた。
彼は穏やかな表情で手を振る。

「おはよう、ユズホ」

その声が、心の奥の緊張を少しずつ溶かしていく。
ユズホは安心して、胸の中の不安を整理しながら、
一歩一歩進む。

「ユアト……昨日はありがとう」

小さな声で礼を言うユズホ。

ユアトは微笑みながら答える。
「いいんだよ。無理しなくていい。
今日は自分の気持ちを大事にすればいい」

その言葉で、ユズホの胸の中にさらに勇気が広がる。
守られるだけではなく、
自分から行動することもできる。
昨日の自分にはできなかったことだ。

ちょうどそのとき、
廊下の向こうからアオイとケンジの姿が見えた。
二人はまだ放課後の準備をしている途中だが、
休み時間の雰囲気に少し浮かれている。

「お、ユズホちゃん、元気？」
アオイが柔らかく微笑む。

「お、昨日は大丈夫だったか？」
ケンジも声をかけてくれる。

ユズホは少し緊張しながらも、
昨日の感謝を伝えた。

「昨日は、本当にありがとう。
みんなに守られてばかりで
……でも、少し勇気が出た」

アオイは優しく肩に手を置いた。
「その勇気、とても素敵よ。
無理しないで、自分のペースでね」

ケンジも少し照れたように言う。
「そうだな。ユズホが困ってたら、
俺らも力になる」

その言葉に、ユズホは胸の奥が
じんわり温かくなるのを感じた。
守られるだけでなく、感謝を伝えることも、
自分の小さな勇気の一歩になるのだ。

ユズホは少し歩幅を大きくし、
廊下をゆっくり歩き始めた。
いつもなら足がすくんでしまう渡り廊下も、
今日は自分の足で進むことができる。

窓の外から吹き込む風が髪を揺らし、
オレンジ色の光が肩に触れるたびに、
心も少しずつ晴れていく。

遠くで男子の声が聞こえる。
昨日と同じように挑発的で、
ユズホの胸を締め付ける。

「加西さん、またひとりじゃん」
「どうせ今日も守られてるんだろ？」

だが、今日は違う。ユズホは下を向かず、
深呼吸して言葉を飲み込む。
怖さはあるけれど、
昨日より強くなった自分を信じることができる。

その瞬間、ユアトがそっと隣に立った。
「大丈夫だよ。俺がいるから」

その一言で、ユズホの心は少し軽くなった。
守られるだけでなく、
自分も少しずつ動けるのだと確信する。

休み時間が終わり、教室に戻る道すがら、
ユズホは小さな笑顔を浮かべた。もう、
昨日のように一人で縮こまることはない。
守ってもらうだけじゃなく、
自分からも行動できる。

窓の外に差し込む夕日を見上げながら、
ユズホは心の中でつぶやいた。

――よし、少しずつでも前に進もう。

勇気の一歩を踏み出したユズホ。
今日の小さな行動が、
明日の大きな変化につながることを、
彼女はまだ知らない。