守りたい、君のこと

最終話「夕陽の告白」

放課後の校舎は、文化祭の準備で少しざわついていた。
机や椅子が並び、ポスターや装飾が貼られる中、
ユアトは少し早めに教室を出た。
渡り廊下に差し込む夕陽が、
オレンジ色の光で校舎を染めている。

心臓が少し早く打つのを感じながら、
彼は自分の手のひらを見つめる。
今日、ユズホに気持ちを伝える
――それを決めていたのだ。

廊下の角を曲がると、
彼女が一人で机の上に資料を広げていた。
文化祭の準備で忙しいはずなのに、
ユズホは集中して作業をしている。
夕陽に照らされた彼女の横顔は、
普段よりも柔らかく、
少しだけ笑みを浮かべているように見えた。

ユアトは深呼吸を一つし、そっと近づく。

「……ユズホ、少し話せる？」

その声に、
ユズホは驚いたように顔を上げる。
「ユアト……？うん、いいけど……」

声は少し照れくさそうで、
でも心なしか安心しているようにも見える。
二人は自然に人が少ない廊下の隅に移動した。
周りには準備に夢中なクラスメイトたちがいるが、
二人だけの空間が少しだけ出来ているようだった。

「実は……前からずっと、言いたいことがあったんだ」

ユアトはゆっくりと視線を合わせ、
ためらいながらも心の中の言葉を紡ぐ。
「ユズホ……俺は、ずっと君のことが好きだった。
最初は友達として、でも気づけば
……特別な存在になってた」

ユズホの心臓はドキリと跳ねた。
少しの間、沈黙が二人を包む。
夕陽が二人の影を長く伸ばし、
廊下を柔らかく染めている。

「……そ、それは……」

ユズホは言葉を探す。顔が赤くなり、
視線を逸らしながらも、
胸の奥では嬉しさが膨らんでいた。
「私も……ユアトのこと、
ずっと気になってた……」

言葉が重なった瞬間、
ユアトはほっと笑みを浮かべる。
そして、そっと手を差し出した。

「もし……よければ…なんだけど、
付き合ってくれないか？」

ユズホは一瞬戸惑うが、
すぐに小さくうなずく。
「うん……よろしく、ユアト」

二人の手が重なる。
軽く握り合うだけの仕草だが、
その温もりがこれまでの緊張や不安を
すべて溶かすようだった。

その瞬間、遠くでアオイとケンジが気づき、
控えめに笑みを浮かべる。
二人の関係を温かく見守る目。
クラスメイトのざわつきの中で、
二人だけの小さな世界が確かに生まれた。

「……これからも、一緒にいたいな」

ユアトの言葉に、ユズホは自然に微笑む。
「私も……一緒に」

夕陽はさらに深く、赤橙色に空を染めていく。
校舎の影と二人の影が重なり、
これからの未来への
希望を象徴しているかのようだった。

廊下の角で見守るアオイとケンジは、
そっと肩を寄せ合い、笑顔で小さくつぶやく。
「やっとだな……」

二人の心は、文化祭前日の放課後、
穏やかで温かい幸せに包まれた。ユ
アトとユズホの新しい一歩は、
夕陽と共に静かに始まったのだった。

文化祭は無事に終わり、
楽しく終わることができ、
日はどんどん過ぎていく