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番外編第3話 夏休みの始まり
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「……また話せたら、嬉しいです」
自分の声が、ひどく遠くで響いた気がした。
言葉を口に出すまで、
心臓がどくどくとうるさくて、
息が浅くなっていた。
あのとき、
先輩の顔をちゃんと見られなかった。
顔を上げたら、
きっと私が泣きそうになっているのが
バレてしまうと思ったから。
だって、本当にうれしかった。
私みたいに何も取り柄のない人間に、
あんなにまっすぐで、
優しい気持ちを向けてくれたことが。
でも、どうしても
「はい」とは言えなかった。
きっとそれは、
心が追いつかなかったからだと思う。
いきなり恋愛になるのが、
怖かった。
私なんかじゃだめなんじゃないか。
もし一緒にいて、
幻滅されたらどうしよう。
先輩を困らせたらどうしよう。
そんなふうに、
ぐるぐる頭の中で不安が渦巻いた。
だから、「また話しましょう」と言った。
それは、私にとって
少しだけ猶予をもらう言葉だった。
でも、ちゃんと繋がりを残す言葉でもあった。
その夜、布団に入っても眠れなかった。
胸の奥が、ずっと熱くて、
少し苦しかった。
あのときの先輩の表情。
驚いたような、
でも少しほっとしたような顔が
何度も思い出された。
……私、本当に好きになってしまったんだ。
そう思ったとき、泣いてしまった。
声を殺して、枕を濡らした。
自分でもよくわからない涙だった。
悲しいわけじゃなくて、
苦しいわけでもなくて、
ただどうしようもなく
あたたかい涙だった。
夏休みは、思った以上に長かった。
校舎も、教室も、
体育館も静まり返って、
先輩と出会ったあの日の光景が
遠い夢みたいに思えた。
何度も「やっぱりちゃんと答えなきゃ」
と思った。
でも同じくらい
「もう一度会うのが怖い」とも思った。
……でも、たぶんわかっていた。
あの人はきっと、
私を急かしたりしない。
ちゃんと待っていてくれる。
私が自分の気持ちを整えるまで。
だからせめて、夏休みが終わったら、
今度はもう一歩だけでも進もうって決めた。
あのときの「また話しましょう」は、
「もう少しだけ時間をください」
っていう意味だったけど、
「また会いたいです」っていう気持ちも、
確かに含まれていたから。
……早く、夏が終わればいいのに。
そう思ったのは、生まれて初めてだった。
自分の声が、ひどく遠くで響いた気がした。
言葉を口に出すまで、
心臓がどくどくとうるさくて、
息が浅くなっていた。
あのとき、
先輩の顔をちゃんと見られなかった。
顔を上げたら、
きっと私が泣きそうになっているのが
バレてしまうと思ったから。
だって、本当にうれしかった。
私みたいに何も取り柄のない人間に、
あんなにまっすぐで、
優しい気持ちを向けてくれたことが。
でも、どうしても
「はい」とは言えなかった。
きっとそれは、
心が追いつかなかったからだと思う。
いきなり恋愛になるのが、
怖かった。
私なんかじゃだめなんじゃないか。
もし一緒にいて、
幻滅されたらどうしよう。
先輩を困らせたらどうしよう。
そんなふうに、
ぐるぐる頭の中で不安が渦巻いた。
だから、「また話しましょう」と言った。
それは、私にとって
少しだけ猶予をもらう言葉だった。
でも、ちゃんと繋がりを残す言葉でもあった。
その夜、布団に入っても眠れなかった。
胸の奥が、ずっと熱くて、
少し苦しかった。
あのときの先輩の表情。
驚いたような、
でも少しほっとしたような顔が
何度も思い出された。
……私、本当に好きになってしまったんだ。
そう思ったとき、泣いてしまった。
声を殺して、枕を濡らした。
自分でもよくわからない涙だった。
悲しいわけじゃなくて、
苦しいわけでもなくて、
ただどうしようもなく
あたたかい涙だった。
夏休みは、思った以上に長かった。
校舎も、教室も、
体育館も静まり返って、
先輩と出会ったあの日の光景が
遠い夢みたいに思えた。
何度も「やっぱりちゃんと答えなきゃ」
と思った。
でも同じくらい
「もう一度会うのが怖い」とも思った。
……でも、たぶんわかっていた。
あの人はきっと、
私を急かしたりしない。
ちゃんと待っていてくれる。
私が自分の気持ちを整えるまで。
だからせめて、夏休みが終わったら、
今度はもう一歩だけでも進もうって決めた。
あのときの「また話しましょう」は、
「もう少しだけ時間をください」
っていう意味だったけど、
「また会いたいです」っていう気持ちも、
確かに含まれていたから。
……早く、夏が終わればいいのに。
そう思ったのは、生まれて初めてだった。
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