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記憶のカケラ②

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【side アオ】

闇雲に探しても、何も見つからない。
闇雲にすごしても、何も、わからない。

そんなことはわかっているのに、なにをどうしたら良いのかわからなくて。

変わらずに依頼される仕事をして。
何かを探して、飛び回って、歩き回った。

何かを失くした喪失感、孤独感は大きくて、でもそれが何かわからないモヤモヤは、消えない。


ローブを羽織り、今日も仕事をする。

ふわりと舞い降りたのは、担当範囲にある大きい病院。ローブで姿を隠して、静かにその時を迎える。

小さな子どもが横たわって。
その周りに家族がいて、そして医師や看護師が、静かに佇む。

こうなることをわかっていた死、なのだろうか。

すでに弱々しい音。
でもそこには、優しい雰囲気が溢れていて。
笑顔が、溢れていて。 
でもその瞳は、みんな真っ赤で。


「ーーちゃん、先生もうすぐって、言ってたよ」
「外勤終わって向かっとるでな」
「ーーちゃんは仲良かったからなぁ先生と」
「そうやんね、先生が子どもみたいやからなぁ」


誰かを失う時。
どんな別れをするか。
それは、多分、残された人にとってとても重要で。
俺はその誰かわからない待ち人を、待った。

時間まで、あと少しで。
間に合わなかったら、やるしかない。
けど、出来るだけ待ってやりたい。

「あ、きた!先生!」

走って息を切らして入ってきた人。
慌てて白衣を羽織りながら駆け込んできた。

背が高くて。
丸い目を少しだけ潤ませて、眠るその子を覗き込んだ。

「ーーちゃん、先生来たで? 約束やったやん、持ってきたで、かざぐるま」
「かざぐるま?」
「今年お祭り行けんかったで、先生のかざぐるま見せたるわーって、約束しとってん。家にあったの持ってきた」

かざぐるまを、ふーっと吹いて、カラカラと回す。それは、赤い、かざぐるま。

なんだ。
なんでアイツが持っているんだ。
偶然か?かざぐるまなんて腐るほど世の中にはあるだろう。

でもなんだ、この、気持ちは。

「でもあげへんからな? これは先生のやから」
「えー! ケチやー!」
「あかんよこれはー!」

笑いに、包まれる。
その部屋は、幸せに満ち溢れているように見えた。

そろそろ、時間だ。
この時間を、終わらせたくない。
でも、終わらせなければ。
終わらせなければ、いけない。
それが、仕事だから。

俺は、すでに弱くて小さい音を、静かに消した。

笑い声も、消えた。
静かな部屋に、泣き声が小さな小さな泣き声が、響いた。

その時、かざぐるまの人が部屋を見渡した。
そしてふと、俺のいる場所で、視線を止めた。

なんやろう。
この感じ。
以前も感じたことがある、この視線。

でもそれがなんなのかわからなくて。
でもすごく、懐かしい感じがして、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

その人はふと息を吐いて、今音が消えた子どもに、視線を落とした。








誰やったんだろう。
あの感じは、なんだろう。
彼が、彼が俺の、探している人なのか?
あのかざぐるまは、俺が兄ちゃんを思い出した鍵となった、かざぐるまなのか。

「サツキさん、俺なんて言っとったんやっけ」
「え? 空から見えやすい家?」
「それって、どんな家?」
「知るか!」

仕事を終えて、兄ちゃんを探していたサツキさんと待ち合わせた。黒づくめで、商店街を歩く。

「兄ちゃんおった?」
「おったらお前なんかと会ってへんわ」
「そやね……どっか心当たりないん?」
「……海が見える、あのテーマパークあるやん? あの近くやないかなーと、思っとる」
「え。すげぇ具体的やん」
「やねんけど、おらへんねん!」
「兄ちゃん、そこ好きやったん?」
「俺の部屋から見える景色を絵に描いとってさ、あの辺を切り取った絵が好きやってん、アキ。あの絵、持っとると思うわ……」
「じゃ、絵見せたら思い出すかな……」
「と思って、同じようなん持っとるんやけど会えへんねん」う


ハハハと笑いながら、サツキさんは遠くを眺める。
遠くの太陽が見えなくなって、空が赤く染まる。

商店街の中程で、立ち止まった。
ココで、何をしていたんだろう。
何かが起こる前に、俺はサツキさんとココで会った。

「さっき、かざぐるま持っとる人と会った」
「は?」
「病院におった。多分医者やってん」
「へ?」
「なんや懐かしい感じとかしたんやけど、全然思い出せへんしピンと来なかった……」
「は?」

サツキさんは「はぁ!?」と更に大きい声を出して、バコンと俺の頭を叩いた。

「いってぇ……すげぇ本気やん」
「なんで後つけるとかせぇへんのや!」
「え? だって全然ピンと来んくって……」
「アホやん! チャンスやん!」
「でもその病院におるんかもしれんやな!?」
「……その人がなんか絡んどるなら……やけど……」

叩かれた後頭部に手を当てて、目の前の不動産屋に目をやった。店の前に貼られた間取り図を眺めた。この辺りの高層マンション、学生向けのアパートなど幅広い。

そこに、見覚えのある言葉。

『空から見ると星の形に見えます!』

という文字。その隣には『空から見ることなんて滅多にないですが(笑)』と、書き加えられている。

空から、星……。
サツキさんが、バシンと俺の背を叩いた。

「ここやん!?」
「……行って……くる」
「俺も、行こか?」
「……来てくれるん?」
「なんもわからんかったときにひとりやと虚しいやろ」
「……ありがとう」

ふたり、走り出した。
商店街の人混みを抜けて、細い路地に入る。周囲を確認して、そして上方を確認する。何も、ないことを確認して。走りながらローブをふわりと纏う。

次の瞬間に、飛び立った。
高く、高く。

星の形の家を、目指して。
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