月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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旅の出会いー朔良×櫂ー(前編)

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「なぁ、今日の段取りは?」
「今、弦ちゃんとりっちゃんが絡み撮ってるから、そのあとつなぎの撮影して、夕飯の時間になるかなー」
「俺は今回は凌空との絡みだけでいいやんな?」
「うん、夕飯後に、朔良と櫂の絡みかな」
「いきなり新人同士なんて、思い切ったことすんねんなー」
「ふたりとも勘はいいからな~時間はかかると思うけど」

旅館は2部屋予約されていて、1部屋は撮影&モデル宿泊用。もう1部屋は待機&スタッフ宿泊用となっていた。

畳にゴロンと大の字で横になった斗真は、「凌空2発目とかすげぇなぁ~」と呟き天井を見つめた。

「どこで撮ってきたんすか?」
「え? 外」
「外? 野外?」
「そやねんで」
「すげぇー……」
「お前らもいつかやるで。多分なー」

ニヤリと笑った鋭い視線は、一瞬朔良と櫂を見て、そしてまた天井に移った。その目は鋭さを残しつつも少しだけ寂しげで、その意味を考えながら朔良は、お茶をズズっと啜った。





「つなぎ、いけるー?」

心地よいゆったりとした時間の流れに少しウトウトし始めた頃、部屋のドアが開き SUUが入ってきた。

「ねむぅーー今もうみんなでお昼寝するとこやったわ」

よいしょっと上体を起こして頭を掻きながら斗真が言った。

「でも早かっただろ?」
「俺と凌空のが早いで」
「お、ジェラシー?」
「弦はライバルやからな」

どこまでが本心でどこまでが設定なのか。
 SUUと斗真のやりとりを聞き、朔良はふと、弦との絡みを思い浮かべた。

自分と絡みをした弦が、今、凌空と絡んでいる。そして自分は今日、櫂と絡む。

そこに、なんの感情もなかった。

凌空と絡む弦が、自分の時と何か違うのか、そんなことを考えもしなかったし、この後、櫂とどんな撮影をするのか、そちらの方が気になっていた。


「3人で買い物から帰ってきた設定で、なんか勘付きながら斗真は嫉妬感満載でよろしく」

SUUからの説明を受け、斗真の勢いについていくように朔良と櫂は、演技をした。








「櫂、ちょっとそのへん歩かない?」
「なに?」
「いや、なんかちょっと、2人で話したいなと思って……こんな機会なかなかないし」
「なに? どしたん? なんか悩んでんの?」
「そうそう、ちょっとな」
「うん、まぁ、いいけど」

畳にうつ伏せで寝転がり、スマホでピコピコと音を鳴らしてゲームをしていた櫂は、そんな朔良の提案にしぶしぶ了解をした。

傾きはじめた太陽が、影を伸ばす。

「櫂……影んなると宇宙人みたいだな」
「は?」
「手足長すぎ。顔小さすぎ」
「あ、本当だ! なんかバランスおかしすぎるな!? すげー!」

旅館の近くには海があり、その砂浜を歩く。
ザザーッとした音が、近くなり、また遠くなり、少しずつ変わるその音が、心地よい。

たわいない会話をしながら、歩く。
ふと途切れた会話に、櫂が口を開いた。

「なんか悩んでんの?」

悩みがあると誘い出したからだろう。
櫂が朔良を見下ろす。

「んや……別に。ただ、弦くんと凌空くん、なんかあったのかなーとか」
「あぁ……、なに?気になるの?」
「そういうわけじゃねぇけど……」

悪戯顔した櫂が、朔良を覗き込み、朔良は少し恥ずかしくなって、下を向いた。その頬はほんのり赤く染まり、それは傾きかけた太陽のせいか、上気した熱のせいか。

「え、え、なに? 朔良そーゆー感じ? どっちー!?」
「ちっげぇよ!」

勢いよくあげた朔良の視線の先には、無邪気に笑う櫂。そして、水平線に沈もうとしている、真っ赤な太陽。

「俺さぁ、朔良のそーゆーとこ好き」
「え?」
「クールなくせに結構ムキんなるよな」
「うっせぇよ」
「そーゆーとこだってー!」

あははと笑いながら櫂は、朔良の肩にパンチをした。自然と膨らませていた頬が緩み、笑みが溢れる。



うまくできたシナリオだと、朔良は思った。

思ったままを口にしてよく笑う櫂と、頭で先に考えて、口数多くない朔良。

「演技シーンあるけど初心者用。無理ない感じのシナリオになっとるでな」

KANがそう言った意味が、よくわかる。
自分のままで、スラスラとその言葉が出てくる。



「そーやって笑ってる顔、すげぇいいよ」

そう言って櫂は、朔良の頬に手を当てた。

「……櫂?」

さっきまで大きな口を開けて子どものように笑っていた櫂が、真顔で、朔良の目をじっと見つめる。

その瞳は、まっすぐ朔良の瞳を見ていて、朔良は、逸らさずその瞳を見返すことに、必死だった。痛いくらい真っ直ぐなその瞳から、思わず逸らしてしまいそうで。

その眩しさは夕陽のせいか。
違う、これは、櫂の瞳のせい。

朔良は思わず目を細めた。

「俺、好きだよ。朔良の、高い鼻とか……切れ長の目とか、あと……エロい唇……」

そう言って櫂は、ひとつひとつ、そのパーツに触れる。少しだけ涼しくなったとはいえ、夏のはじめの夕刻。まだまだ、蒸し暑さが残るというのに、櫂のその手はひんやり冷たくて、そして少し、震えていた。

朔良は思わず、その手に、自ら手を重ねた。
櫂の目が、少しだけ見開かれた気がした。

「櫂……?」

櫂の背には今、水平線に落ちて行こうとしている太陽が空をオレンジに染める。

オレンジに包まれた櫂の瞳は、優しくて、でも少し怯えているようで、朔良は重ねた手に、キュッと力を込めた。

「朔良……」

櫂の顔が、少しずつ近づいてくる。
自然と朔良は、目を瞑った。

重なる唇が、あたたかい。
聞こえるのは、静かな波の音。

少し震えたその唇を、ゆっくりと味わおうとした。

そのとき、

「ちょちょちょ! もーちょっと角度! こっちに変えて!」

KANのその声に、ふたりは我に返った。

「あ! キスの角度そのまんま! 影がいい感じに撮れるから! すげぇ奇跡のキスやー!」

興奮気味のKANがカメラを回し、そしてその隣で SUUが、カシャカシャと写真を撮る。

一瞬で引き戻れた撮影という現実に、朔良は動揺していた。

これは、撮影。
撮影のはずだった。

一瞬、ほんの一瞬。

怯えたような櫂の瞳を見た朔良は、それを、おそらく忘れた。

どんな感情だったかは、わからない。
でも、冷たく震える櫂の手に、自然に手を重ねた。近づく櫂のキスを、自然に受け入れた。

多分、その状況に、少し、ドキドキしていた。

「いい写真撮れたわー奇跡やでー!」

興奮気味にカメラのディスプレイを覗き込む SUUとKANの声を聞きながら、隣に立つ櫂の顔を見上げた。

櫂は、今まさにその姿を消そうとしている太陽を見つめていた。

その横顔は、少しだけ寂しげで、でもすごく、優しい顔をしていた。
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