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旅の出会いー朔良×櫂ー(後編)
しおりを挟む「はい1回止めてー、どーする? 1回休む?」
「んや、やります」
「でもちょっと気持ち切り替えたら? このまんまじゃキツイでしょ」
「とりあえず1回休もや、煙草でも吸ってきたらえーやん……ってまだハタチやないか」
夕陽をバックに奇跡のキス写真を撮影した後、夕飯を挟み朔良と櫂は、絡みの撮影に入った。
朔良も櫂も、撮影は2回目。
「チャレンジャーや」
と斗真が言っていたことからも、この組み合わせでの撮影が大変だということは、なんとなくわかっていた。
それでも、1回目の撮影を思い出しながら、良いものを創ろうと臨んだ。
しかし始まってみれば、結果は散々。
「はいストップー。これはね、『なんとなく意識し始めたふたり』のSEXなんだ。」
「ちょっとスムーズすぎるかな。少しの照れ、ぎこちなさ、まだ付き合っていないのにその雰囲気になるっていうドキドキ感。それがほしい。」
スタートから、何度もストップがかかり、その撮影は、一向に、進まなかった。
くそっ……
撮影を止めては穏やかに語りかけるSUUの言葉に、心の中で朔良は、何度も呟いた。
どう表現したらそれが、伝わるのか。
櫂も困惑した表情で、唇を噛んでいた。
「少し自由にしてきいや。こっちは先にオフショとかジャケ写用の撮影しとるで。気にせんと大丈夫やから。こんな仕事やんか、気持ち持ってけん時は思い切って休むことも必要や。」
KANが、朔良と櫂の背中をパシンと叩いて、そして、無言で佇むふたりを残し、部屋を出て行った。
パタンと、扉が閉まった。
「くっそーーーー」
その声に振り返ると、櫂が布団に飛び込み手足をバタバタと布団に叩きつけていた。ふわふわの掛け布団に吸い込まれてその長い手足は、ぼふぼふと鈍い音を立てた。
「ふっ——」
雑誌モデルのような彼の、その間抜けな姿に朔良は、思わず小さく吹き出した。
「なに!? 朔良おまえ! 悔しくないん!?」
「いや、すげぇ悔しい。でもなんか今の櫂、ちょっと可愛いかった」
「はぁ!? なんだよそれ」
反応に納得いかないのか、櫂はうつ伏せのまま朔良をじとりと見つめ頬を膨らませた。
何がいけないのか。
いけないことはわかっている。
「SUUさんの言ってることはわかるんだよ」
「なんか違うこともわかってんだよ」
「なにをどうしたらいいのかがわからん」
「まぁなんせ、初めてだからな……」
うーんと唸って、そして、沈黙が流れる。
初めての絡みのとき、弦の進めるその行為についていくことが、精一杯だった。
絡みとなれば自分から攻める場面もあるわけで、それでも、「俺のも舐めて……」「俺ここが弱いんだよね……」その言葉に応えるように、その行為を必死でこなした。
「あの人たちのあの芸術感はなんだろな?」
「経験? 慣れ? わかんねぇ」
「俺らにはその経験はないからなぁ」
「俺らにしか出せない雰囲気ってことなんだろうなぁ……」
「あぁ……そか、俺、凌空くんとの絡み思い出しながらやってたわ」
「いや俺も。こん時弦くんはこうやってたなーみたいな」
はじめての絡みの撮影で言われたあの言葉。
『俺を好きだと洗脳しろ』
ふとその言葉が、朔良の頭を過ぎった。
「俺は櫂を好きにならなきゃいけないんだな……」
「俺は朔良を……か?」
「むずっかしぃなぁー」
思わず苦笑いした朔良に、櫂の顔が、ぐぃっと近寄ってきた。
「朔良、好きだ」
鼻と鼻がぶつかりそうなその距離で、真っ直ぐな視線を朔良にぶつけ、櫂は言った。突然近づいたその顔に朔良の思考は追いつかなくて、キョトンとした顔をした。驚くでも、ドキッとするでもなく、ただ、キョトンと、その顔を見つめ返した。
「ちっがうかぁー……」
その反応を確かめて櫂は、ガクッと肩を落として、そして「わっからーーん!」と大の字に転がった。
「いや、櫂……いいんじゃない?」
「は?」
真似じゃいけない
相手を好きになる
相手は、櫂で、そして、朔良。
「櫂のさー、その感じ? 俺嫌いじゃない」
「どの感じだよ」
「そのまんまだよ。なんか可愛いって素で思うわ」
「え、お前そっちなん?」
「あははっ! なんだよそれ」
「え、なに、どーゆーこと?」
「俺と櫂のらしさを出せってことだろ?櫂のその感じを可愛いと思う、それでいいんだよきっと」
・
「じゃ、再開しようか」
好きとかそんな気持ちを、コントロールできるわけがない。コントロールしたいなんて思わない。
好き、とかじゃなくて。
可愛いと思った、素直なその感情を、表現する。
「なぁ……朔良、目ぇ瞑って……」
「なに?」
「いいから……」
朔良はそっと目を閉じる。
目を閉じ、この先に待つのは、キス。
「…………」
の、はずだったのに。
なかなか訪れない感覚にそっと瞳を開けると、目の前にあるのは、ニヤリと笑った櫂の顔。
「え?」
「朔良のさー、なんか無防備な感じが可愛くて」
「は? なんだよそれ!」
「ははっ! ムキになんのも可愛いよなー」
声を上げて笑うその声に、朔良はぐいっと身体を起こし、そして組み敷いた櫂を見下ろした。
「櫂のそーゆー子どもみたいなところ、すっげー、むかつく」
「ふっ……結構好きなくせに」
「うん……嫌いじゃない」
「素直じゃねぇなぁ」
子どものように、無邪気に笑う。
なのに、一瞬見せるその顔は、男の鋭い視線。可愛いと思ったその瞬間に、その瞳に射抜かれたような、そんな感覚が、朔良を襲う。
同い年のくせにやけに落ち着いていて、口数少なくてなにを考えているかわからなくて。なのに、少し悪戯するとすぐムキになる。
その瞬間に見せる余裕のない顔が、可愛いくて、愛おしいと思う。そんな感覚が、櫂を襲う。
それに、抗うな。
その意味を、考えるな。
自然なその感情を、表現する。
ハハッと笑いながら、朔良は櫂に、キスをして。
頬を染め口角を上げて櫂は、朔良を受け入れた。
「いいじゃぁん!」
「どうしたん!? 良かったやんー!」
「なんだ全然平気やん、ダメや言うから見にきたのに」
「すげぇじゃんお前ら。自然すぎでドキドキしたわ」
「新人と思えないわ~」
導入の撮影にカットが入り、カメラを回すスタッフと、それを見にきていた斗真と弦、凌空が声を上げた。
勘が良いとか、新人ぽくないとか、そんなのはよくわからない。
でも相手を愛おしく想う気持ちを大切にする、それを素直に表す、その感覚は、なんだかわかる気がした。
だからと言って、経験のあるモデルのようには、いかない。その気持ちを表す技を、持っていないから。
「スイッチ入った瞬間あるやん?それはさ、軽く手首らへんを掴むとかで、そーゆーふうに見えんで」
斗真が櫂に代わり、朔良にまたがりそれを伝える。
「どっちがタチ? え、リバ? レベルたけぇなぁ。単調だと飽きるから、甘いときと攻めるときとハッキリ雰囲気変えた方がいい」
弦が煙草をふかしながら、口を出す。
「目ぇ閉じんな、ちゃんと相手を見る時間を作って。好きーって気持ちを送るんだよ」
思わず目を閉じてしまうその姿に、凌空は言う。
その言葉を聞き逃すまいと、その手本を見逃すまいと、朔良は目と耳と全ての神経をそこに注いだ。そして櫂も、真っ直ぐにそれを見つめ、頷きながら聞いていた。
「大丈夫……?」
「ん、ゆっくり……して」
初めて挿入したその場所に、違和感はなかった。
時折キツい締め付けを感じ、その度に櫂の顔を見ると、キュッと歯を食いしばっていて、朔良はそっと、頬に手を当てた。
「痛い?」
「大丈夫……朔良は? 気持ちいい?」
「うん……気持ちいい……」
あの日自分が感じた痛みと違和感が、あるんだろうか。それに耐えながら、「気持ちいい?」と聞いてくる櫂が、愛おしいと想う。
見下ろすそのカラダは、自分より大きくて。
6個に割れた腹の筋肉が彫刻のように浮き出て、大きな肩から伸びる長い腕には血管が隆起する。
胸に手を置いても、そこは平らな硬い胸筋があるだけで、女の柔らかさではない、男の、カラダがある。
なのに、そこに嫌悪感も違和感もなく、むしろ愛おしいという湧き上がる感情に朔良は、溺れていた。
頬に添えていた朔良の手に、櫂は自らの手を添えて、そしてそれを口元へと移動させる。
「はぁ……あぁーーー」と、少しくぐもった喘ぎ声を漏らしながら、櫂は朔良の指に、舌を絡めた。
「櫂……なにそれエロいっ——」
薄くあけた瞳で朔良を見つめ、すがるように指に舌を絡める。その姿に朔良は、自然と熱が背を駆け抜け、そして果てた。
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