月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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斗真引退

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「…………」

皆が口を継ぐんで、その時を待った。
今、第一声を発するべきなのは、1人しかいなかった。

キュッと結んだ口元から、その想いが滲む。

「凌空」

長い長い沈黙を破ったのは、弦だった。

「なんだよ」
「なんか言えよ」
「なんで俺なんだよ」
「お前の言葉を待ってるんだろーがよ」

投げ出していた長い足を折りたたんで、その膝に顎を乗せた。まるで拗ねた子供のように、凌空は一点を見つめる。

「言うことなんかねぇよ……」


沈黙が、その場を支配する。

斗真と、凌空と弦。
そして、主要スタッフがそこに集った。

「斗真が、最近なんか考えてんのはわかってた。あーそういうことだったのか……って感じだよ」
「ごめん……」
「なんで謝んだよ」
「新人も入って、これからだってゆーのはわかっとる」
「それでも辞めんだろ?」
「ごめん……」
「決めたんなら謝んなよ」
「凌空!」

拗ねたように仏頂面で畳み掛ける凌空を、堪らず弦が制した。

「でも凌空の言う通りだよ」

弦はテーブルに肘をつき乗り出すと、ジッと斗真を見た。

「おい斗真、顔上げろよ。下向くんじゃねぇよ」

その声に、視線を落としていた斗真が顔を上げる。

「永遠にココにいることはできねぇ。そんなことはわかりきったことだよ。いつかは来るんだ。それが今だったんだろ? なぁ、斗真」

いつの間にか消えていくモデルの方が圧倒的に多い。
自分で区切りをつける=『引退』。
それを選択して発表して、見送られるモデルはほんの一握り。

そしてそれを決められるのは、自分しかいない。

そんなことは、ここにいる誰しもが、わかっていることだった。

「斗真、ちゃんとお前の口から聞かしてくれよ、SUUからじゃなくて。斗真から」

凌空の言葉に、斗真はすぅーっと息を吸った。

「俺、引退……決めた」
「はぁー!?」

張り詰めた空気の中、斗真が絞り出すように発した言葉。それに重ねるように凌空は、大きな声をあげた。皆が一様に凌空を見る。

「なにお前そのカタコト! 最後くらい決めろよぉ」
「はぁ!? なんやねん誰がそんなとこつっこむねん今空気ちゃうやろ!」
「だってナニ!? オレ、インタイ、キメタ」
「うるせぇよ!」
「かっこ悪ぅー今の撮ってないの?  KANちゃん撮っとけよぉー」
「撮ってどないすんねん使えへんわ!」

2人がいるから、賑やかだった。
2人がいるから、撮影が進まなくて、
2人がいたから、今、この場所がある。

SUUは静かに、空を見上げた。
窓から見える小さな空は、どんよりとした雲に覆われていて、月も、星も、見えない。

それでも、この2人が輝いた場所。
この2人が灯した光。
それを、消してはいけない。
ずっと、守りたいと、見えない星に誓った。
 
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