月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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悪いお兄ちゃんー弦×朔良×凌空ー(前編)

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斗真の引退は、会員専用のSNSで一報を報じられた。そしてその1週間後に、ライブ配信で斗真自身から、引退が語られた。

「ファン離れするかなぁ」
「どうだろなぁ……斗凌ファンはとりあえず様子見そうだけど……」

一通りのファンへの発信が済んだ後、モデル全員が集められた。そこにはもう、斗真はいなかった。

「てゆーかさ、なんで櫂と朔良はこないだ話し合いいなかったの?」
「え? 呼ばれてないです」
「は!? なんで!?」
「いやだってまだ入ったばっかりだしさ……」
「だからそーいうのやめようってー」

凌空は机をパシンと叩きSUUを睨みつけた。

「もう櫂も朔良もココのモデルなんだろ? 同じ土俵で話しなきゃまた溝できるじゃん。」
「まぁ、その溝が埋められなくて辞めた奴もいるよな」
「同じなんだからさぁ……俺もう誰かが辞めんの嫌だ」


力無く凌空が呟き、SUUが小さく息を吐いた。
広くない部屋の、ローテーブルを囲うように、ソファに座る凌空と弦、向かい合うように朔良と櫂が床に座り込み、その様子をじっと見つめていた。

弦が、何も言わず凌空の膝にポンと手を置く。
俯いた凌空の唇が、震えていて、なんとなく朔良はそれを見てはいけないような気がして、視線を逸らした。

「俺……辞めないっすよ」

櫂が、凌空に向かって言った。
あげた凌空の瞳は揺れていて、櫂はその目を見つめ返す。

「いや……そんな目で見ないでください……仔犬やん」
「櫂と朔良はさ、優等生だよなぁ」
「んや……んなことないっすよ」
「でもいつかは終わりが来る……それがこの業界なんだよなぁ」

いつかは訪れる引退。
考えたこともなかった。
そんな引き際があるということ。
そして小さな部署であるこの事務所から一人欠けるだけで、どれだけ大きな影響を及ぼすか。

憔悴する凌空を見て、そしてあの日、イベントで自分たちに向けられたファンの顔を思い出し、朔良は心が抉られるような思いがした。







「なんで? ここにきてここで3P?」
「後輩を可愛がる悪いお兄ちゃんたち設定」
「なんだそれ! そんなんみんな見たがる?」
「わからん」
「即答かよ」

斗真が引退して、モデルが4人になった。
バリエーションを増やすためにも、新人発掘は急務で、SUUとKANは日中スカウトに出ることも多くなった。

そんな中、次の作品の撮影が行われた。

「え、朔良は3Pじゃん? 櫂は?」
「んーーー近所のお兄ちゃんとヤッちゃって、お兄ちゃん逃げる的な?」
「はぁー? もう1パートは?」
「悪いお兄ちゃん同士やん」
「はぁーーー!?」
「でもあれやで? SEXそのものは愛あるSEXやで?」
「あたりまえだろ。激しいのはやだ」
「あ、でもそのうちやるで? 櫂と朔良からの下克上」
「なんだそれ! 俺ら掘られんの?」

事務所に着いたらそこには弦と凌空がいて、この事務所としては珍しい3Pの撮影だった。複数といえば湧き上がるのがアノ撮影だが、なんとなくココで撮ることに抵抗はなく、むしろ安心感が朔良を包み込んでいた。

「朔良は圧倒的ネコキャラだなぁ」
「ネコ?」
「ネコ。ウケのこと。タチとネコって言うんやで」
「タチは聞いててわかりましたけど、ネコって……」
「凌空も俺とだとネコが多いし、結構いい具合にバランス取れてんだなぁ」
「確かに櫂はタチっぽいしな」
「うん、でも下克上では朔良タチな? 弦相手にするか?」

斗真の引退を聞いたあの日、ココの空気は重いと言うより、不安と悲しみに溢れていた。仲間が去るという悲しみ。ここの立ち上げメンバーであり圧倒的なファンの支持を受けている斗真が去る、という不安。

それでも、新しいことをやろうというSUUやKANの思いが、この撮影に見てとれた。

「KANちゃぁーん! 今日パンツ何色?」
「そこに置いといたやろ? りっちゃんは赤や」

シャワーを浴びた凌空が、撮影用のパンツを履きながらリビングへ出てきた。

事務所の撮影スペースでの撮影は、朔良には2回目で、1回目は初めての時の撮影であったことを思い出す。初めて、弦と出会い、初めて、挿入された日。たった約半年前の出来事、それは遠い昔のように、朔良は感じていた。

事務所での撮影は、SUUやKAN以外にもスタッフがいて、なんとなく慌ただしい印象を受け、そして少し、緊張感がある。

「朔良、シャワー浴びてきな」
「あぁ、はい」

事務所にいると忘れかける『ミツキ』という自分。『ミツキ』である自分のままでは、恐らくその行為は難しく、なんとなく自分の中で『朔良』というもう1人の自分に切り替えているような感覚になる。それはきっとこの、シャワーの中であると、朔良は感じていた。

ぬるめのお湯を頭から浴びて、静かに泡で包み込む。包み込んだその泡を洗い流し終えた特には、『朔良』として出ていく。

用意された撮影用のブルーの下着を身につける。
局部が強調されるデザイン。撮影用の下着は大抵このデザイン。自分では絶対に選ばない下着に対する羞恥心も、今は、ない。

「さくちゃん、先輩の家に遊びに行ったら、そんな雰囲気になってやっちゃうみたいな感じかな」
「ふっ……ちょっとヤッちゃうの意味がわかんないすけど。普通ヤんないでしょ」
「やんねん! やらな作品にならんやん!」
「どんな感じでそーなるんすか」
「朔良可愛いなぁみたいな感じで、朔良も甘えたらいいんじゃねぇ?」
「俺らは最初からそれ狙いってことだろ?」
「悪いなぁーでも俺も最中はただ楽しんでるってことすか?」
「ノリすぎるのもあれやし、恥ずかしがりながらも……みたいな感じでええんちゃう?」

一応台本はあるが、雰囲気で変わっていくこともあるシナリオ。それぞれの設定を一致させることが重要で、それにまず、時間をかける。

「よし、じゃぁ、いける?」

全てを統括するSUUが、開始の合図をする。





「凌空、紹介するよ。朔良」
「おぉ、こないだ言ってた後輩? 男前じゃん」
「いや何言ってるんすか。俺、邪魔じゃないすか?」
「全然、いいよ。飲もうぜ」

弦に連れられて凌空に紹介される。
そしてソファに座り、酒を飲み、なんでもない話をする。そんな導入の後、絡みの撮影に入る。

「なぁ、朔良ぁ~今彼氏いんの?」
「今いないんすよー」
「え、俺らだったらどっちが好み?」
「えぇぇ選べないですよ~ふたりともカッコイイじゃないすか」
「俺、朔良好みだよ」

弦が、ぐいっと朔良に近づいた。
その唇が触れるか触れないか、その距離で、弦は朔良を見つめた。

焦点の合わない距離で、見つめる弦の顔、そして鼻に抜ける煙草の香りに朔良は、気持ちを昂らせていく。

「そんな目で見られたら変な気ぃ起こしそう……」
「起こしてもいいんじゃねぇの?」
「いや……ダメでしょ……」

反応を楽しむように朔良の足に、手を這わせる。
そしてそれをニヤニヤしながら見つめる凌空。

「なんだよお前ら……俺も朔良可愛いと思ってんだけど」

凌空が朔良の背後に回り、耳元にふっと、息をかけた。ゾワゾワとした感覚が背を駆け巡り、朔良は肩を竦めた。

「朔良……可愛い……」

耳元で囁く凌空の声を合図に、今にも触れそうな距離にいた弦の唇が、朔良の唇を捉えた。

当たる髭がくすぐったい。
違和感のある感触。
でもそれに、嫌な感情はない。

ゆっくりと味わうように動く唇に、髭が肌と擦れる。

応えるように唇を合わせながら、朔良は弦の首筋に手を当てた。

「髭……くすぐったい……」

額を合わせながら小さく囁いた朔良に、「朔良なんだよその顔……火ぃつけんなよ……」と、弦は一気に朔良の服を剥ぎ取った。

露わになる白い肌、うっすらとそこに存在感を示す腹の筋肉。後ろから凌空がその割れ目をなぞるように手を当てる。

「俺のこと忘れてねぇ?」

耳元で囁き凌空は、朔良の肩にキスをした。

ぞくぞくと、背筋に走る僅かな電流のような感覚が、朔良を襲う。

撫でられる大きな手、口もとに感じる髭、鼻に抜ける煙草の香り、耳元で囁く低い声。

それ自体になんの興味もない。

彼らが生み出す空気。
そこに漂う妖艶な色。

朔良はそれに頬を染め、唇を震わせた。
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