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誰のせい(前編)
しおりを挟む「あれ? KANちゃん帰った?」
「掃除機かけて帰ったー」
わしゃわしゃと濡れた髪をタオルで拭きながら、朔良はダイニングの横を通り過ぎた。
キッチンの冷蔵庫をあけ、ガシャンと冷蔵庫の扉を開ける。
「そいやKANちゃんが3Pできたって置いてったよ」
すでにビールを片手にした櫂が、ソファに寝転びテーブルを指さした。
「置いてかれてもなぁ……」
同じくビールを手にした朔良は、プシュッと音を立ててグビグビと流し込んだ。
まだ透明のケース。
最終チェック前の、映像。
「見ていい?」
「え、なんで?」
「いやさっきは切り貼りのヤツ見たから、あれがどーなるんかなぁと思って」
「え、なんかすげぇ恥ずかしいんだけど」
「ええやん、今更なんやねん」
「いきなりめっちゃ関西弁、なにそれ」
ガシャガシャとDVDを取り出し、プレイヤーに差し込む櫂を横目に、朔良はソファにドサッと腰を下ろす。
「自分のとかどんな顔して見りゃいーの」
「反省会的な?」
「なんだそれ」
まだ、完成ではないらしいその映像は、オープニング画面もなにもない。再生した瞬間、絡みが始まった。
「え、いきなり?」
「これをSUUさんがチェックすんだって」
「へぇ……」
自らの身体を、まじまじと眺めることなんてなくて。
自らの声を、画面を通して聞くことなんてなくて。
そしてそれは、SEXという行為をしていて。
朔良はビールの開け口に視線を落とした。
一方櫂は、「えっろいなぁ~」「弦くんかっこいいなぁ」「あははウケるわぁー」と、いちいち反応しながらその画面に見入っている。
「なぁココ! これ気になってたんだよこれさぁ、凌空くん誘導しとる?」
視線を上げるとそこには凌空に挿入した自分が、弦に差し出された大きく勃ち上がったモノを目の前にしているところで、櫂はピッとリモコンを押し画面の時を戻した。
「いや戻すのかよ」
「ココココ! 凌空くんがほっぺ触ったら朔良見上げてんだよ弦くんのこと!」
「すげぇなやっぱわかるんだ……こん時余裕なくてさ、凌空くんが顎をグッて上に押し上げてんの」
「すっげぇ!」
「俺がイクときもだよ、弦くんが後ろから腕ぐいって引っ張って撮れるようにしたんだよ」
「まじ! 早送りしよ」
早送りしたり、戻してみたり、忙しく櫂は画面をいじる。その度に凌空や弦の技を見つけ、「すげーすげー」と騒ぐ。
「なぁなぁ櫂。ラストの俺、どんな顔に見える?」
「え? ソファから落とされたところ?」
「うん、そこめっちゃ何回も撮り直したんだよ」
「えー、うーん……結局そういうことかよ……的な?」
「だよなぁ~そう見えるよなぁ……」
「違うの?」
あの時、背後に凌空と弦を感じながら、瞳をそちらへ向けた。その表情を、何度も何度も撮り直し、イク寸前の弦を何度も止めた。
「さくちゃん、ドM感出していいよ」
「ふたりの間で刺激になれて幸せです的な」
「え、全然わかんねぇ……切ない顔じゃなくて?」
「それで終わったら見ててモヤっとしちゃう人おるやろ? この状況すら幸せって方がええ気がする」
「うん、今までのエロさからいくとそのくらい変態な方が合う」
何度も、何度も。
イキそうな弦を止めて。
「あーー待ってまじまじ……イクってぇぇえ」
「いやもうホント申し訳ないっす……」
「いやいや大丈夫気にすんな……ちょっと違うこと考える……ふぅーーー」
そうして、出来上がったこの表情。
何が違うのか、自分でもよくわかっていなかった。
「それは……なかなか難しいな」
「やっぱ伝わんねぇかぁーー」
素直な櫂は、少しだけ申し訳なさそうに頭をかいて、そう言った。
「あ、今度俺らの演技モノ企画あるらしいよ」
「えぇ? 俺ら?」
「ほら、さっきKANちゃんがシナリオ書いてた」
櫂がパサッとその紙を朔良の前に差し出した。
受け取ったそれに、視線を落とす。
『お前わかっとる!? 俺男やぞ?』(壁ドン)
『わかってるけど……どうしたらいいんだよ……』
『そんな顔すんなよ……』
(朔良顔を上げる)
『そんなんされたら……変な気持ちんなる』
「セリフ細かっ! またこーゆう難しいヤツを……」
「演技なんてできねぇよなぁ……」
「今度の作品はがっつりドラマだなぁ」
朔良は小さく、その言葉を呟く。
隣で櫂は、朔良の手にもつ台本をじっと見つめる。
「俺さ……櫂のそういうとこ見てらんねぇよ……」
「朔良……なに言っとんの……?」
「櫂には……諦めて欲しくない」
「は? 意味わかんねぇよ朔良にんなこと言われたくねぇよ」
「気になるんだよ! 櫂のことが気になって仕方ねぇんだよ!」
「どういう意味だよ……」
「そのまんまだよ……櫂のことが……」
「お前わかっとる!? 俺男やぞ?」
言葉をなぞる。
呟くように、朔良が言葉にして、それに応えるように隣で櫂が、それに続いた。
櫂の、いつもより少し低い声が、朔良の耳に響く。
吐き出される息が、耳元をなぞり、甘い香りが頬を撫でる。
思わず朔良の脳内を過ぎる、あの日の記憶。
消えていく太陽の光に包まれた、櫂の優しくて、少し寂しげな瞳。
少しだけ冷えた指先。それに重ねた自らの手に伝わる、小さく震える櫂の心。
「俺、櫂のこと本気で好きなんかなって思った」
イベントで凌空が言った。
その言葉を朔良は、必死で思い出す。
櫂の香りに包まれながら、それに引き込まれないように。それに抗うように朔良は、凌空の言葉を脳内に反芻して、小さく笑った。
「壁ドンだってよ」
脳内の記憶をかき消すように、朔良は言った。
その瞬間、朔良は肩に大きな衝撃を感じた。
視界が、回転した。
天井が見えて、握られていた台本が、手元からバサリと落ちた。
目の前に、眉を下げた櫂の顔が在った。
その瞳は、困惑と寂しさと、そんな感情が入り混じり、揺れていた。
「か……い……?」
「お前、……わかっとる? 俺……男やぞ?」
「……わかってる……けどどうしたらいいんだよ……」
これは、練習。
台本を読んでいる。
ただ。それだけ。
朔良は、必死で脳内に溢れる感情を振り切ろうと、呪文のように何度も何度もそう言い聞かせた。
それでも、目の前にある櫂の瞳に感情が、心が、騒がしい。
「そんな顔すんなよ……そんなんされたら……変な気持ちんなる……」
そう言って櫂は、朔良を見つめる。
頬の真横に置かれた櫂の腕。
ほんの20センチほどの距離にある、櫂の顔。
動けなかった。
その先の台詞は、覚えていない。
その先になにがあるのか、知らない。
「これは……壁ドンじゃないな……」
「ふっ……いきなり戻ったな……床ドンてやつだろ?」
必死で戻ろうと。
朔良ではない自分に。
「展開がさ……急だよな、いつも」
「まぁ、やんなきゃいけないからな……」
わずかに口角を上げて、櫂は言った。
戻ろうとする意識の中で、20センチの距離にいる櫂になぜか、呑まれそうになる。
「なぁ朔良……」
「ん?」
少しだけ視線を落とした櫂の頬が少し、染まっている。
「どう……しッーー?」
唇に、柔らかいものが触れた。
理解するのに、時間はかからなかった。
その柔らかさは、知っている。
温かくて、ほんのりビールの香りが漂う。
その唇を、ゆっくりと重ね合う。
櫂の腰にある服に、そっと触れた。
「この先……どうなるかな」
唇を合わせたまま、小さく櫂が、呟いた。
「ん……なだれ込む……だろうな……」
「だよな……」
穏やかな顔で、口角を上げて。
櫂は朔良の唇を指で、そっと撫でた。
「最初は……」
「俺が攻める……」
その指で唇を割って、舌をなぞりながら櫂は、朔良の首筋に舌を這わせた。
腹の中に押し込めた感情が、溢れ出そうになる。
キュッと朔良は、櫂の背にしがみついた。
櫂の生あたたかい息が肌に触れ、その度にビクンと跳ねる、朔良のカラダ。
「敏感……なんだな」
「知ってるだろ……」
「知らねぇ……」
「そっか……初めて、だもんな……」
めくり上げた服から覗く、引き締まった腹の筋肉。
その割れ目をなぞるように櫂は、キスをした。
「なぁ……」
「なに?」
「……触って……」
櫂の手を、自らのモノに誘導する。
「え?」
目を丸くして朔良を見上げる櫂。
その手の先には、ラフなパンツを押し上げる立派なモノが存在を主張していて。
「え、早くねぇ?……まだ触ってねぇよ?」
「なんでだろ……櫂が……エロいから?」
エロいから。
櫂が。
そう言うのが、精一杯だった。
エロい櫂のせいにして。
朔良は、湧き上がる感情を解放した。
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