月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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凌空と弦①

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「聖也ほんとタチ苦手やな」
「タチ苦手って男としてどうなんですかぁ」
「そう思うなら頑張れよ」
「頑張ってるんですけどねぇ……」

結局、流れるように、日常は進んでいく。
変わらず大学にも行ったし、撮影も変わらず行われた。

いつの間にか新人もまた増えて、朔良はいつの間にか、ベテランと呼ばれるようになった。

「だからさぁ、どうしたら相手が気持ち良いかなぁって、ただそれだけだよ」
「うぅーーー朔良くんみたいにはできないっす」
「相手が気持ちいいと嬉しいしさぁ、それを素直に現せばいいんだよ」
「難しいってー」
「聖也ぁ、後輩に抜かれんぞ」

モデルの世代交代と共に、ファンも少しずつ変わる。

斗真の引退。
櫂の引退。

その度に減る、ファンの数。
そしてまた、少しずつじわじわと増えていく。

大々的な宣伝ができるわけでもない。
ファンも、周りに安易に広められる領域でもない。
だからこそ、ファンが増えるのは、じわじわと少しずつであった。


「朔ちゃん、仕事始まったらどこ引っ越すん?」
「ん? 県内だよ、都内は高いし。ちょっと都内よりになるかなってくらい」
「ここからは少し遠なるなぁ」
「そだねぇ……まぁ、同じ県内だしすぐだけどね」

少しずつ、自分の存在する場所が変わる。
人も、変わっていくのだろうか。

少なくともこの数年で、いろんな人と出会い、そして別れた。

「よし、写真撮りに行こかー」
「ふぁぁあい」
「なんや全然やる気ないやん」
「天気良すぎて眠いわぁ」
「りっちゃんと弦ちゃんは現地集合やでな」

次の作品は、長編ドラマもの。
凌空が主演で、朔良と付き合っていて、昔の男、弦が現れ揺れ動くというストーリー。

結局、弦と別れた原因に誤解があったことがわかり、凌空と弦が元鞘に戻る。

「なんで元カレ戻んの?  普通そこ戻る?」
「いいやんか朔ちゃんが身ぃ引くんだよ」
「わかんねぇわぁ~」

ぶつぶつと言いながら作品を撮り、あとはジャケットやポストカード用の撮影だった。

車で、川沿いに向かう。

「気持ちいいなぁ~」

川沿いに歩きメンバーが揃うのを待つ。

「お、りっちゃんやぁおつかれー」
「おぉーなぁなぁ弦ちゃんと連絡とれねぇんだけど」
「え? 寝とる?」
「かもなーアイツ朝まで仕事してるからなぁ」
「じゃぁ弦ちゃん以外のところ撮ろか」

SUUは事務所スタッフに弦に連絡を入れ続けるよう一報入れ、撮影を進めた。

土手には黄色い小さな花が、咲く。
もうすぐ、春が来る。

「聖也と朔良、並んでキメ顔~」
「朔良、聖也の肩に手ぇ置こうか」
「こう?」
「いいね、いや、ちょっと目ぇ開いてないよ!」
「眩しいんだって!」

様々な指示が飛び、ドラマ上絡む相手との写真を撮る。
遠くには遊ぶ子どもたち。
犬の散歩に歩く人。

なんの撮影かと、注目を浴びる。
しかしそれがわかるわけもなく、人々は通り過ぎる。

「次、りっちゃんと朔ちゃん行こかー」
「ふぁあーい」
「やる気! これ仕事やぞ!」

土手にある階段に座り、撮影をする。

「弦くん、どうしたんすかね?」
「知らんわーいっつも寝坊するしさー常習犯だわ」
「今日終わったら弦くんの店行きたいなぁ」
「アイツ最近忙しくて店行っても相手してくれないんだよ」
「いいことじゃないすか。商売繁盛」
「そーだけどさぁ」
「拗ねてるー寂しがりやの王子だなぁ」
「ちょっと! 喋りすぎ! 表情ブレるわ!」

カメラマンの声が飛ぶ。
要求に従って、笑ったり、ポージングを変えたり。
ほんの数年前には考えられなかった世界にいて。
それが、当たり前になりつつある。

「朔良ぁ、ごめんなぁ」
「なにが?」
「櫂……なかなか見つからんなぁ」
「……いやそんなん……謝ることじゃないよ」
「見つけてやりたくてさぁ……弦もいろいろ当たってくれてるんだけどなぁ」
「いいんだって! 仕方ない、こんなにみんなが気にかけてくれて再会できないなら、そういう運命だったんだって……思うしかない」

あれから、忘れた日なんてなかった。


青い空を見ては、櫂もこの空の下にいるのかと思い、
丸い月を見ては、櫂もこの月を見ているのかと思い、
降り積もる雪を見ては、櫂はこの下で震えてはいないかと、思った。

忘れたことなんてなくて、会いたい気持ちは募る一方で。それでも、見つからないものは仕方ないという気持ちもまた、持つようになっていた。

皆が心配してくれていること、気にかけてくれていることにまた、心苦しさも感じた。

「つぅか弦はどうした!」

隣で凌空が突然叫び、ビクッと跳ね上がった朔良は、ハハハと笑った。

「ほんと、弦くんいないとダメすね~寂しがりだわ」


予定の撮影を終えても、弦とは、連絡が取れなかった。

「今日はもう中止だねぇ……」

SUUは撮影機材を片付けるよう指示して、モデルにそう言った。

遅刻の常習犯。
撮影場所でも事務所でも移動の車の中でも、どこでも弦はいつも、眠っていた。

夜、店に出て、日中、撮影をする。

それは、眠いはずだ。
遅刻も笑って皆、受け入れていた。

「さすがに大丈夫?」

朔良は、凌空を見上げた。
凌空はイライラし始めたようで、不貞腐れた顔で「知らんわアイツなんなんだよ……」とブツブツと文句を言っている。

「送るで。弦ちゃんの店行くんやろ?」

KANは、事務所に荷物を下ろし、聖也を自宅へ送り、そしてそのまま凌空と朔良を乗せ弦の店へと向かった。

いつも点灯している、店先のオレンジのライト。
それが今日は、点いていない。

店の扉を押すと、ガンと音がして、鍵に阻まれ開かなかった。

「今日休み?」
「さぁ……」

さすがに、心に騒つくものがあって。
凌空の顔を見上げると、その顔は少しだけ、蒼白くこわばっているように見えた。

それから2日経っても、弦とは一切、連絡が取れなかった。
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