67 / 90
凌空と弦②
しおりを挟む「凌空くん、弦くんどうですか?」
「まだ連絡とれん……」
「仕事、終わります? 一緒に店行ってみましょ」
「うん……」
頻繁に凌空と連絡を取り合ったが、弦の足取りは、掴めなかった。大学の前に凌空の車が止まる。真っ白の車に駆け寄り、乗り込む。
もう殆ど大学もなくて、同級生ももう、殆ど登校していない。
「大丈夫すか?」
「うん……」
言葉少ない凌空の心は、完全に憔悴している様子が、見て取れた。弦の店は、事務所と大学から歩いて行ける距離。あっという間に店の前に車をつけた。
やはりオレンジのランプは消えていて、今日は店の前に貼り紙があった。
『都合によりしばらくお休みさせていただきます』
血の気がひいていくのを、朔良は感じた。
凌空もまた、同じだろう。
「凌空くん、家とか……行っていいすか? それか事務所とか……」
「え?」
「ひとりだと……心細いじゃないすか、明日休みでしょ?」
「あぁ……うん、そうだな、いいよ」
再び車に乗り込み、出発する。
明らかに凌空は動揺していて、その姿を目の前に放っておけないと、朔良は思った。そして何より、自分自身が、落ち着くためにも時間を共に過ごしたいとも思った。
凌空の家は綺麗ではあるが庶民的なマンションで、カチャリとドアを開けると、洒落た家具で統一されていた。
「お邪魔しまーす……」
「どぉぞ~」
殆ど反射的に声を発し凌空は、朔良を部屋に招き入れた。
「晩飯どーする? デリバリーでも頼むか?」
「そうっすね……なんでもいいですよ」
しばらくして届いたピザを口に運ぶ。
テレビに映し出されるバラエティ番組が、賑やかにチカチカ光る。
テレビの脇には観葉植物。
ホコリひとつない部屋は、掃除が行き届いているのだろう。
「凌空くん、部屋綺麗すね」
「あぁ……汚いと弦ちゃんに怒られる」
「え?」
「あ、一緒に住んでるとかじゃないよ? よく遊びに来る」
「へぇ……」
出会った頃、弦を心底カッコいい人だと思った。そして、凌空と弦の間にある何か特別なモノを感じて、少しだけ、羨ましいと思った。あの頃はその気持ちがなんなのかわからなかったけれど、きっとあれは、2人にしかわからない絆のようなものに対して、羨ましさを感じていたのだと思う。
「こんな時さ、弦ちゃんになんかあったとしてさぁ、俺らに連絡なんてあるわけないじゃん……事務所にも……あんなに一緒にいるのにさぁ……俺らの関係って、なんなんだろうなぁ……」
俯き加減に凌空は、朔良に語りかける。
笑ってふざけてばかりだが、誰より真剣にあの場所で作品をつくり、トップモデルとしてあの場所を支えてきた。そして、同じ時間を弦と共に過ごしてきた。
「あそこはさ、なんだろうな……家族なんだよな……」
その横顔をじっと見つめながら、朔良は温かい声を聞く。凌空の、まぁるい声が、朔良に染み込んでくるようだった。
「それわかる……本当に家族みたいで、居心地がいい」
「家族なのに……なんでこんな時、なんもできないんだろうなぁ……あぁ、櫂のことも、そうだよなぁ。結局、なんもしてやれない……」
「凌空くんは、いっつもみんなのこと考えてくれて、みんなのこと見てくれてる兄貴みたいすよ……」
「頼りない兄貴だなぁ……」
「なに言ってるんすか、弦くんとふたりで、あそこ支えてきてくれたじゃないですか」
「うん……」
凌空は静かに、目を閉じた。
込み上げる想いを抑えるように、細く長く、息を吐いた。
「凌空くん、眠れてる? ちゃんとご飯食べてた?」
「寝てたし食べてたよ…仕事行かなきゃいけないしさ、なんも変わらないんだよ。弦ちゃんだけがいないんだよなぁ……」
「……凌空くんと弦くんて……さ……」
凌空の蒼白な顔。
か細い呼吸。
俯くその姿。
それは明らかに、大切な人を失った姿。
「……なに?」
「いや……」
「なんもないよ」
「うそ……」
「なんもないんだよ、あまりに一緒にいすぎて、なんもない。デビューも近くてさ……でも別に固定でカップリングされてたわけでもない。だからちょうどいい距離感で、ただいつも一緒にいた」
凌空は丸い目の奥の瞳を潤ませながら、そう言った。隣に座りながら凌空は、その瞳を覗き込むように見上げる。
「弦はさぁ、あの店開けるのが夢でさ。あそこが、誰かの居場所になればいいって。この仕事もさ、最初は多分、店開けるための金だったんだろうな……店開けたら辞めるって言うかなって思ってた……けど辞めなかった。俺すごい嬉しくてさ……店開いて、事務所もいろいろあったけどモデルも増えてさ……弦ちゃんがいて、朔良がいて……弦ちゃんはさ、どんな時も隣にいてくれたんだよなぁ……」
言葉に詰まりながら目を赤くして、それでもしっかりと凌空は話した。それは、ずっとあの場所でエースとして立ち続けた凌空の素直な心のウチだと、朔良は思った。
そしてそこに、ずっと共に立ち続けた弦に対する想い。
「凌空くん……、弦くん戻ってきたら、ちゃんと言ってくださいね」
「なにを?」
「その気持ちですよ……」
「なんで?」
「言わなきゃ……わかんないすよ……言わなきゃ伝わんない。どうしたいかはその後でいいから……ちゃんとその嬉しかったって気持ち、伝えてください……」
素直に、思った。
弦がもし帰って来なかったら。
そんなこと微塵も考えていなくて、このふたりにどうなって欲しいかなんて、それこそなにも考えていなくて。
ただ、そんな大切な想いをちゃんと伝えるべきだと、そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第3巻 - 甘美な檻と蹂躙の獣
大の字だい
BL
失われかけた家名を再び背負い、王都に戻った参謀レイモンド。
軍務と政務に才知を振るう彼の傍らで、二人の騎士――冷徹な支配で従わせようとする副団長ヴィンセントと、嗜虐的な激情で乱そうとする隊長アルベリック――は、互いに牙を剥きながら彼を奪い合う。
支配か、激情か。安堵と愉悦の狭間で揺らぐ心と身体は、熱に縛られ、疼きに飲まれていく。
恋か、依存か、それとも破滅か――。
三者の欲望が交錯する先に、レイモンドが見出すものとは。
第3幕。
それぞれが、それぞれに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる