月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

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fan side……

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凌空くんのラストイベント。


いつも通り、音楽と光の演出の後、モデルが登場した。しかしその後は、いつもよりゆったりとした空気が流れていて、モデルはステージ上で椅子に座りゆるりとトークを繰り広げた。

そして、写真撮影タイムや、30秒の1対1でのトークタイムが、設けられた。


BL好きな友達に勧められて、そこにいたデビューしたばかりの凌空くんに、心奪われた。気づけば友達以上に、ハマっていた。

出会ってもう、何年になるだろう。

凌空くんに夢中になるあまり、婚期を逃した気がする。それでも良かった。幸せな時間だった。

でももう、二度と彼には会えない。
二度と、彼に触れることはできない。
二度と彼の、『今』を知ることはできない。

トークタイム。

ひとり30秒間与えられる。
そこで、言葉を交わし、ハグをする。


聖也くん、可愛いそのまんまでいてね
碧生くん、師匠を支えてね

可愛い後輩たちに、伝える。
これからこの事務所を引っ張って行くのは、きっと彼ら。

そして、朔良くんの前に立つ。
朔良くんは、じっと目を見て話を聞いてくれる。

「もう……なんて言っていいかわかんない……」
「なんも言わなくていいんじゃない?」

そう言って朔良くんは、私を抱きしめた。

「いつもありがとう」

なにも言わない私に朔良くんは、そう言った。

「朔良くんは、引退とか考えてるの?」

小柄だけど、しっかりとした男の子の身体。
すっぽりと彼の腕の中に収まって、回した腕に感じる背中は、筋肉があって、映像とのギャップにドキッとする。

「……考えないこともないよ」
「そうだよね……」
「もう、誰かが辞めて行くの見たくない……」
「……辞めても、凌空くんはずっといるよ。モデル『凌空』は、永遠に残る」
「でも、もう会えない」
「……ずっと、凌空くんを想ってください」
「ずっと想ってる」
「それが、いちばん嬉しいです」
「ずるいなぁー」
「なんで?」
「そんなこと言われたら、ファン辞めらんないじゃん」
「ハハハッ」

ふわっと身体が軽くなる。
後ろで、30秒終了を知らせるスタッフの声が聞こえる。

「ありがとう」
「じゃぁね」

朔良くんは目を見て笑って、私が次の人、凌空くんに視線を移すまでずっと、その目を離さなかった。

朔良くんは、そういう人。
本当にずるい。
ちゃんと凌空くんのファンであることを知っていて、一歩引きながらも、大切にしてくれる。


最後にいるのは、凌空くん。
デビュー後のイベントから、毎回会いに来た。
手紙もたくさん出したし、プレゼントもたくさんした。彼がそれを喜んでくれたのか、迷惑だったのかは、わからない。

それでも、伝えたい一心だった。

あなたのことを、こんなに好きな人がいるよ。
この世界にいてくれて、ありがとう。


きっと、嫌なことも辛いことも逃げたいこともたくさんあって、それでも少しでも長く見ていたいから、その想いを伝え続けた。

これが、彼に想いを伝えられる、最後の時間。


何を伝えれば良いのか、わからかった。
もう何をいっても、凌空くんはこの世界から、いなくなる。

私を見た凌空くんは、まるで古い友人に会ったかのような、そんな顔をした。まるで、「あ、久しぶり」とでも言いたそうな、そんな顔だった。

初めて会ったとき、真っ直ぐ顔を見ることができなかった。それくらい、眩しくて綺麗な瞳だった。

今、真っ直ぐ、彼の瞳を見つめる。
黒い瞳。
その瞳に、吸い込まれそうになる。

そしてなぜか、視界がぼやける。

あぁ、もうこの瞳を見つめることができない。
そしてもう、この瞳に自分が映ることは、二度とない。

彼は何も言わず、手を広げた。
ぼやけた視界の向こうに見えた彼の表情は穏やかで、むしろ、「何泣いてんだよ」とでも言いたげに笑っているようにも見えた。

「うぇーん」と子どものように泣きながら、彼の胸に飛び込んだ。大きな彼の胸の中で、ただ、泣いた。

「ずっといてくれて、ありがとう」

耳元で、彼は言った。

「それは……こっちのセリフだよ……」

背中を、ギュッと握った。

「ありがとう……お疲れさま……」
「うん……ありがとう」

30秒は、短くて、長い。

「ここにきて、沈黙?」
「ふふふっ……なんか言いたいことないの?」
「え、俺から?」
「だってもう、私からはいっつも伝えてる」
「そうだったね……」
「好きって。うざいくらいにさ」
「……」

また、流れる沈黙。
これだけいるファンのひとり。
誰よりも多いファンを抱えて、その中の1人に言いたいこともないかと、離れようとしたその時。

「凌空でいられて、ーーに出会えて、幸せだったよ」

ビクンと、カラダが跳ねた。
足の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。

聞き逃してしまいそうなほど、小さく囁くように、彼は言った。

初めて呼ばれた、名前。
ちゃんと、覚えてくれていた。

「なにもうーしっかりしろー」

蹲って泣く私の背中を、ポンポンと叩きながら、凌空くんは笑った。そんなところまで凌空くんらしくて、そんな凌空くんがやっぱり、大好きだと思った。

「ありがとう」

そう言って彼は私の頭をポンポンと叩いた。
スタッフに支えられて、彼の前から離れた。

もう、凌空くんと話すことはない。
凌空くんの『今』を知ることはない。


さようなら。
大好きな人。


今まで残してくれた数々の作品を大切に、これからもあなたのことをずっと、想っているよ。
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