見せかけだけの優しさよりも。

aito

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幸も不幸も折半で

風紀の知り合い

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コンコン──
『はいはいー、今開けますー』

と、風紀室のドアをノックすると関西地方独特のイントネーションの敬語が厚い筈の扉越しに聞こえてくる。……相当大きな声を出しているのだろう。

カチャ──

扉を開けて顔を出したのはやはりというか幸運にも顔見知りの風紀委員だった。

「桜井やんか!久しぶりやなぁ、はよ入り!」
「うん、お邪魔します」

風紀委員の西園(ニシゾノ)に手を引かれて風紀室室に入ると、今はみな巡回中なのかガランとしていて俺たち以外誰もいなかった。西園に書類の入った封筒をいくつか渡すと「どーもぉ、ほーんま今日もお疲れさんやねぇ」と頭を撫でられた。
久しぶりの知人に甘やかされて思わず飛びついた。

「ほんと久しぶりだね、西園っ」
「うわぁっ──」

俺は西園に抱きついてだらしなく笑う。

「ッ急に抱きつかんといてや!誰かに見られたら──」
「今ここ誰も居ないでしょ?」
「せやけどー…委員長等に見られたら俺……で………ね…ど……」

後半は何を言っているか分からなかった。こんなに近くにいるのに聞こえないってどれだけ小さい声で言ってるんだろうか。……抱きついてても聞こえないくらいの言葉って最早声に出す意味はなくないかな。……なんか気になるじゃないか。聞かせるつもりがないならやめて欲しい。

──と、いうより……なぜ委員長たち?

よく分からないけど……うちの親衛隊は統率が取れてるから制裁されたり虐められたりとかは無いはずだ。なんせ風紀のお墨付きなんだから。

「見られても制裁なんてされないよ?」
「……………………せやね」
「西園……まだ、疑ってる?」
「?……あぁ、ちゃうちゃう。桜井の親衛隊のこと考えてたんと違うよ」

本当だろうか。元々生徒会の親衛隊は総じて治安が良くない事で有名だ。親衛隊員の中でも下に行くほど制裁や嫌がらせ行為を働きやすく風紀からの警戒は強くなる。
けど……俺の親衛隊はちゃんと隊長さんが統率してくれてるし、上でも下でも優先順位など関係無くお茶会に参加できるようになってる。普段から不満がたまらないように俺自身も気を使っているから。

「──こら。せやから、違う言うてるやろ?そない悲しそな顔しぃな…こっちまで悲しくなるやんか」

抱きついたまま体を少し離している体勢。西園は俺の少しくせ毛な前髪で覆われたおでこをコツンとノックして、思考を停めさせる。それに一瞬キョトンとしてから、言われた事をゆっくり咀嚼して頷くと西園はどこか満足そうに笑った。

「桜井がそこんトコよう頑張ってるのん知ってるよ?俺が桜井の頑張り疑う訳ないやんか、信じて?」
「ふふ……うん、ありがと西園っ」

西園の言葉が嬉しくて嬉しくて……離れていた体をもう一度近づけギューッと強く抱き締める。感情の昂るままに西園を揺らした。俺はその間、終始笑顔でご機嫌だ。対して西園は結構な厚さのある封筒をいくつも片手に鷲掴んでおり、それが落ちそうだと騒いでいる。

「ちょおやめっ……書類落ちるやんかっ」
「ええやんかー、西園握力あるねんからー(棒)」
「おい!馬鹿にしとんか!喧嘩なら買うで?!」
「あはははっ西園不良みたいっ」
「笑っとんちゃうぞワレェ!!」

まるでクラスやF棟で見かける友達みたいな会話。俺に友達は居ないからいつも見ていてどんな気分なのか気になっていた。
こういうのって楽しいんだなぁ、西園が俺の友達だったら良かったのに。なんて──友達の定義もよく分からない俺は、別に友達って認識がなくても西園が話してくれるのはわかってるし、まぁいいかと思考を切った。
ふと頭を撫でてくる大きくて暖かい掌に、俺の細く続いていたどこか幸せな笑いが止まった。

「?……なに」
「まぁ……兎に角やな。桜井が頑張ってるんも勿論やけど、親衛隊の子らの努力あってこそやろ?お前が不安になってどないするん」
「……そうだよね、ごめん」

そうだった。頑張ってたのは俺じゃなくて親衛隊の子達だ。いつも小さな体で頑張ってくれる大好きな子達。親衛隊内も仲が良く1ヶ月に2度程のお茶会も和気あいあいとしていて楽しいものだ。そんな空気を作れているのもみんなで頑張っているからだ。

「謝らんでええよ、そないな事よか胸張っとり。桜井はあの子ら自慢の優秀な親衛対象やねんから」
「ふふ、ありがと!」

嬉しい言葉を聞けて頬がゆるゆると持ち上がるのがわかる。

そんな俺を、やっぱ笑てる方が可愛ええで、なんて茶化してくる西園に淡く笑い、やっとのことで離れた。





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