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第六章 初デートと夏休み旅行
33.BBQと線香花火
しおりを挟む午後四時頃に海遊びを切り上げて戻ってきたメンバー達と共に、皆で夜に行うBBQのための買い出しに出掛けた。
スーパーと道の駅が近くにあるとの事だったので、そこに寄る。
スーパーでは、主に肉類と野菜類を、道の駅では新鮮な魚介類を買い、別荘に戻ると、夜の訪れを待った。
黄昏の空が、青、オレンジ、ピンク、そして紫と色鮮やかなグラデーションを描き、日が海に沈んでいく。
一日の終わりと、夜の始まり。
その宵の口に、別荘の屋外にあるデッキでは、コンロに置かれた炭が赤々と燃えていた。
火起こし役は朝倉が担当したのだが、林間学校の時にしたレクチャーが無駄にはならなかったようだ。
「このエビ、ぷりぷりの甘々で極上ー!」
「このキンメも脂がのっていて上品な旨味で絶品
ね。流石は特産品というだけはあるわ」
「肉もうめー! やっぱカルビは最高だぜ!」
「伊豆のアスパラも中々イケるね」
「昼間は男達の肉を観賞して昂り、夜はBBQで肉を食べて舌鼓を打つ。完璧な肉ループの完成だね」
白鳥、涼葉、朝倉、鳴宮、橘が、口々に感想を述べる。
一人料理以外の感想を述べている者がいるが、気にはすまい。
来栖は未だ元気がなく、食欲もないらしく余り食べていないし、口数も少ない。
──怜愛がフォローしてくれれば一気に復活するんだろうけれど、それは望めないからなぁ⋯⋯。
などと来栖の扱いについて頭を悩ませていると、その怜愛から話し掛けられた。
「ねぇ、せっかくだから、この機会に皆に手料理を振る舞ってみたら?」
「手料理か」
「これまで余りいいところを見せる事が出来ていないし、ここで皆の舌を唸らせて大量にポイントゲットだよ」
怜愛に鼓舞されて、
「それじゃあ、新鮮な魚介類は余る程ある訳だし、海鮮ときのこのアヒージョでも作ってみるか」
「何それ! 響きからして、既に美味しいやつ!」
耳聡く俺達の話を聞きつけた白鳥が、身を乗り出して食い付いてきた。
「早く食べたい! 緋本君、最&高なやつよろしく!」
「そう慌てるな。すぐに作るから」
キッチンに大きめな鍋が置いてあったので、それを使い、調理を始めた。
十五分程で完成し、デッキで待つ皆の元へと持っていく。
オリーブオイルとにんにく、鷹の爪やハーブの香ばしさが一体となって食欲をそそる海鮮ときのこのアヒージョは、一瞬で皆の心を掴んだ。
「うまー! 私、これ好きー!」
「海鮮の旨味がオイルに溶け込んでいて濃厚ね」
「マッシュルームの食感が良くてジューシーだぜ!」
「唐辛子のピリッとした辛味が全体の味を引き締めているね」
「官能を呼び起こすような味。幾らでも食べれそう」
皆が絶賛する。BBQの締めとしては上出来だっただろう。
「君のちゃんとした手料理を食べる事が出来て嬉しいよ。けれど、次は二人切りの時に作って欲しいな」
怜愛に耳元で囁かれ、俺はドギマギしながら、アヒージョのホタテを箸から零してしまった。
彼女は時折、ストレートに想いを伝えてくるから困る。
§
「きゃははっ! 見て、涼! きれーい!」
「姫、振り回しちゃ危ないでしょ。もっと落ち着いて楽しみなさい」
華やかな火花を四方に散らすスパーク花火を手に持って振り回し、子供のようにはしゃぐ白鳥を、涼葉が窘める。
「うひゃあっ!」
「あははっ! 不様だね、大翔」
橘の放り投げたねずみ花火に追いかけられ、懸命に逃げ惑う朝倉。
「ほら、理人も楽しもう」
「ああ⋯⋯」
鳴宮が声を掛けるが、来栖はあまり乗り気ではないようだ。
「はい、一緒にやろう」
皆の様子を少し距離を置いて眺めていると、怜愛に線香花火を手渡されて誘われた。
「おう」
頷きつつそれを受け取り、二人でその場に両膝を折ってしゃがみ、線香花火に火をつける。
「何か懐かしい感じがするな」
その慎ましく火花を散らす様を見て言う。
「ね。線香花火って、ノスタルジーに溢れてる。夕焼けの路地裏、子供の頃の思い出、レトロな古い街並み──そういった情景を思い起こさせるような」
怜愛が、作家らしいレトリックで言葉を返した。
「過去には良い思い出も悪い思い出も両方あるけれど、記憶が人を形作るっていうのなら、俺はかなり両極端な存在なのかもしれない」
「君は内面が歪だけど、それも大分矯正されてきたと思うよ。今の君は、光と陰の両方を上手く引き出して描き出す事が出来るはずだ。新作、期待してるよ」
「ご期待に添えるように力を尽くすよ。ねーじゅさんの新作には到底及ばないだろうけどな」
そこで会話は途切れ、パチパチと小さく鳴る線香花火が、一本、また一本と、近付く終わりに向かって色を変えながら火花を落としつつ散っていく。
「──終わるね」
怜愛のその呟きと共に、線香花火は光を失い、すぐ消え去る夏の思い出みたいに、あえかにその短く儚い生を終えた。
この瞬間が永遠であればいいと願っても、時間は瞬きの内に過ぎ去っていく。
それを引き止める事は叶わず、ただ受け入れるしかない。
玉響の思い出を、一輪挿しの花として胸の奥に飾りつつ。
──今の俺は、無常を抱いて、少しばかり感傷的になっているらしい。
「私はそろそろ部屋に戻るよ。じゃあね」
そんな俺を、怜愛は、小物入れに収めたお気に入りの大切な物を見るような視線で優しくそっと撫でて、その場から離れていった。
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