降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

文字の大きさ
42 / 101
第七章 サイン会と暴露

40.女の子同士の秘密


 あの後のサイン会は、まぁ大変だった。

 まず、登場したねーじゅ先生が、同じクラスの怜愛だったと知った秋里さんが、フロア中に響き渡る奇声を上げて、その場を騒然とさせた。
 古参勢を名乗る程のファンなのだから、そうなるのも致し方なし。
 彼女は真っ黒な歴史を作る事になってしまった。
 どうか、安らかにお眠りください。

 次に、和咲だが、一番目にねーじゅ先生の前に立つと、本にサインをしてもらいつつ、溢れんばかりの作品に向ける愛を、怒涛のように捲し立てる事三分強──。
 その勢いにたじろいだスタッフが、暫くして何とか持ち直し彼女を引き剥がしたものの、後ろに並んでいた参加者等は、皆唖然としていた。
 昨日俺の存在を無視して、あれだけ怜愛と語り合っていたくせに、未だ彼女を満たすには足りなかったらしい。
 事前にあれだけ念押ししていたというのに、兄として不甲斐なさを感じるばかりだ。

 このようにして、ねーじゅ先生のサイン会は、初っ端から大荒れの出だしとなってしまったのだった。


   §


「いやー、昨日はホント面白いサイン会だったねー」

 ローテーブルの前でクッションに座る怜愛がからからと笑う。
 
 危うく初のサイン会という大事なイベントを台無しにされるところだったというのに、寛大なものだ。

「君はポジティブな物の見方が出来ていいな。俺は身内として、羞恥で死にそうだったっていうのに⋯⋯」

 ベッドに腰を下ろした俺が嘆く。

 お泊り会も三日目となる和咲もいるが、彼女は、昨日買ったばかりの『変調愛テロル』二巻をソファに寝転びながら熟読している。
 既に二周目で、今度はじっくりと噛み締めながら楽しむらしい。

「でも、どうするつもりなんだ? 委員長に正体がバレてしまって、マズイんじゃないのか?」

 と俺は危惧している事を挙げた。

「彼女、自分から言い触らす事はしないと思うよ」

 怜愛は気にする素振りもなく、平然としている。

「俺も委員長の人柄はある程度知ってるから、そう思いはするんだけど、万が一って事もあるだろ? 何かの弾みでポロッと口から漏れちゃったりとか」
「もう、この際だから、思い切って皆にバラしちゃおうか。その事で周りの興味を引いて、根掘り葉掘り聞かれたりもするだろうけど、そんなのは今まで通り無視しちゃえば言い訳だからね。私の影響力が増せば、相対的に、その私と親しくしている君の株も上がるよ」

 開き直ったような提案をする怜愛。

「そうは言ってもなぁ⋯⋯煩わしい事が増えるのは確かだろ?」
「私はメンタルつよつよだから、何の問題もないよ。なんたって、孤高の存在──『雪氷の美姫』だからね」

 とその豊満な胸を張りながら。

「その二つ名、気に入ってたのか?」
「悪くはないんじゃない? 美姫ってのはちょっと痛々しいかもしれないけれど、雪氷って言葉は好き。どこか神聖で静謐な響きがして」
「君は雪の生まれ変わりみたいな存在だからな」
「お? 文学青年らしい比喩表現だね。今のは結構ポイント高いよ」

 彼女の琴線に触れたらしい。

「実は今執筆している新作ラブコメで、ヒロインの表現として使ってるんだ」

 その事実を打ち明ける。

「なるほど。私がモデルだから、ぴったりって事だね」
「あっちも、『雪花の美姫』だからな」

 俺は答えると共に立ち上がった。

「それじゃあ、そろそろ昼飯にするか。何か食べたい物でもあるか? 昨日和咲と近くのスーパーに買い出しにいったから、カレー、ハンバーグ、唐揚げ、炒飯、オムライスとかだったらすぐに作れるけど」
「蒼兄さん、私は、オムライスを所望します」

 手にした文庫本から目を離す事なく、和咲が伝えた。

「君、一昨日も昨日も食べたじゃないか」

 と呆れながら。

「蒼兄さんのオムライスは至高です。何度食べても問題ありません。むしろ、毎食オムライスでもいいくらいです」

 俺の指摘は意に介さず、そんな事を言い出す。

「はぁ⋯⋯栄養が偏ると思うんだけどな⋯⋯まぁたまにだからいいか。それで、怜愛はどうする?」
「私も同じものでいいよ。色んな料理作るのって手間が掛かるでしょ?」
「和咲にも見習って欲しい謙虚さだな⋯⋯」

 俺は溜息混じりに呟いた。


   §


「それじゃあ和咲。向こうに戻っても元気でな」
「さよなら、和咲ちゃん。青黎は、十月の頭に文化祭があるから、またその時にでもこっちに遊びにきてよ」
 
 最寄り駅の改札前で、怜愛と共に、和咲に別れの言葉を告げる。

「うぅ⋯⋯帰りたくない⋯⋯このままずっと二人と一緒に過ごしていたいです⋯⋯」

 和咲はそうぐずるが、電車は待ってはくれない。
 後ろ髪を引かれるように何度もこちらを振り返りながら、キャリーバッグを引き、改札を潜っていった。

「いっちゃったね」
「次に会えるのは、何もなければ、早くても文化祭か。それまで、また寂しい一人暮らしだな」

 胸の中に隙間が出来たような侘しさに、眉尻を下げた。

「一人でいるのには慣れてるんじゃなかった?」
「最近そう思えなくなってきたんだよなぁ。君と親しくするようになってからかもしれない」
「ふふっ。大丈夫。それは君にとって決して悪い事じゃないから。もちろん、私にとってもね」

 これまでに何度も見せられた、彼女の悪戯っぽい笑み。
 柔らかく細められたそのアーモンドアイの黒目がちな瞳の無邪気な輝きを見ていると、何だか本当に彼女の言った通りのような気がしてくるから不思議だ。

 石鹸で擦って輝きを取り戻した鏡のように、寂しさに曇っていた心が晴れて澄んだ気持ちになった俺。
 そこで、一つ気になっていた事を尋ねてみた。

「そう言えば、和咲が帰る前に、君に耳打ちしていたよな。なんて言ってたんだ?」

 けれど、彼女は人差し指をそのぷるんと瑞々しい唇に当て、パチリとウインクをしながら、

「女の子同士の秘密だよ」

 その悪戯っぽい笑みをさらに深めた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。