公爵令嬢は占いがお好き

四宮 あか

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第5話 逃げるが勝ち

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 私とセバスを取り巻く光が消えてゆっくりと目をあけると。
 そこはもう王都の一室の怪しげな占いの館占いの館ではなく。



 
 店は閉まっており、通りを歩く人っ子一人もいない。王都から徒歩60日弱、馬車45日、僻地マクミラン領の公爵家が直接治める領地主都マクミランの中央広場であった。


「お嬢様……」
 猫の姿のままセバスは私に声をかける。
「流石に引き時はわかってるわよ。あの部屋の天窓とっても気にいっていたけれど。あの部屋は解体ね。あーんなのに目をつけられたら、たまったもんじゃないわ。アイツ勝つまでしつこくやってくるタイプよ」
 占いや加護を頼らなくてもわかる。
 あの手は輩はしつこい、かかわらないに越したことはない。


「かしこまりまして」
「占いも不本意ですがしばらくは自粛いたします。取り次ぎはお断りしてちょうだい」
「はい、それを聞いてセバスは安心いたしました。天窓はお屋敷に造ればいいのです。そうすれば、王都であのようなことをしなくても、毎日素敵な月の光や星の輝きを楽しめることでしょう」
 セバスは、黒猫の姿から元の執事の格好に戻ると私に手を差し出す。
 私はそれに手を重ねる。
「さぁ、セバス。少し早いけれど家に戻りましょう」
「かしこまりまして」



 ノア・ヴィスコッティは王城で行われた仮面パーティーを抜け出し、街の占いの館で金貨10枚ぼられて――それで物語は終わりになると、私もセバスも思っていた。


◆◇◆◇



「ノア様、例の件の調査報告書が上がってきております」
 王城で行われた春の収穫祭を祝う仮面パーティー。今度こそ主は、いい相手をみつけるかもと思ったのに。
 まだ、月も高い位置にある間に転移魔法で帰ってきたから慌ててお出迎えをしたのはいいけれど。
 恰好一番主の口から矢継ぎ早に言われたことは、浮ついた話しではなく。
 どう考えても、王城で開かれた仮面パーティーに参加した人物が口にするのはおかしいことであった。


「王都の大通り王城から南に150m進んで、東の細い通りにはいって20mほど進んだところにある、古いレンガ造りの建物の外階段を登った2階にある店を調べろ」である。
 今回もまた変なことに坊ちゃん首突っ込んできちゃってる……とノアの2つ年上である執事、ヴィンセントは頭を抱えた。


 なぁーーにが『坊ちゃんもそろそろ適齢期ですし。性格は……確かに多少変わったところがございますが、私は坊ちゃんほど優れた魔法の使い手にお会いしたことがございません。もともと縁談のお話は山のように来ておりますし。今日は普通のパーティーではなく、仮面パーティーですから、誰か一人くらい坊ちゃんに面白いと興味を持たせる令嬢が現れるはずです』だ!
 パーティーが始まる前に公爵様にそう声をかけた自分をぶんなぐりたい気持ちにヴィンセントはなった。


――今回もどう考えもきな臭い厄介事の香りがぷんぷんする。
 坊ちゃんの口癖を拝借するなら面白いことを見つけて帰ってきちゃったよ……
 そう思うとなんかもう頭が痛くなってきた気がするとヴィンセントはまたもこめかみを抑えた。
 ヴィンセントの立場的に主にノーと言えるはずもなく。無茶苦茶な命令に今回も従うことになったのだけれど。



 後日報告する前からヴィンセントは、胃がシクシクと痛んでいた。
 わざわざ調べろと奇人である主人がいうのだから、何かがそこであったに決まっている。
 だからこんな報告書の内容でいいはずがないのだ。

「ご苦労。仕事はこの通り終わらせた。それでは先日任せたことの報告を聞こう」
 ニコっと輝かんばかりの顔を主はヴィンセントに見せた。
 なぜこの顔を意中の女性ではなく、報告書の結果に見せちゃうんだから……
「ハイ……」
 報告書の結果を見せることをちらつかせて、十九歳にも関わらず処理能力の高い主に振り分けられていた仕事をさせたのはいいのだけれど。
 珍しくまじめに打ち込むものだから、余計に調査結果をこのまま言って大丈夫なのかヴィンセントは不安になる。
 それでもヴィンセントは言うしかないのだ。


 やばいよなって表情をヴィンセントがしていたのをみて、ノアが素早く調査記録をヴィンセントの手から奪い取った。
「あっ!?」


※調査報告書※
 該当の建物の一室は、収穫祭の日の翌日午後の段階で、すでにもぬけの殻になっていた。
 さらにその次の日には、取り壊しが決定し、即日実行され現在すでにほぼ更地となっている。

 取り壊し理由は建物の老朽化だと解体業者から申告有。
 誰が取り壊しを命じたのかさらに調べようとしたが、該当の建物の登記が少々ややこしく、業者は誰が最終的に取り壊しの権限があったのかわからない言ってきた。

 誰が取り壊しを命じたかはわからなかったが、業者にはきちんと即金で代金が支払れ、書類上の処理も問題なくすんでいるということで法で裁かれることはないでしょう? と業者はのたまった。

 登記を確認したところ、1年半ほど前から該当の土地・建物の登記がころころ変わったり複数名義になったりと不審な点は多々。
 それ以前の所有者は10年ほど前に亡くなっている。

 飛ばしを考えてかなり前から緻密にやられた物件である可能性が高い。



 周辺住民に聞き込みを行ったが、何人か人の出入りがあったようだが、出入りしていた人物の顔を誰ひとりとして思いだせないとのことから。
 出入りしていた人物は何らかの認識阻害の魔具を所持していたか、はたまた建物に認識疎外の魔具があったかのどちらか。



 このことからやり手の魔導師が出入りを目撃したならともかく、一般人からどんな客が出入りしていたかを突き止めることはかなり難しいと推測される。

 建物から手際よく、中の物が運び出され、建物自体がつぶされたことから、何かあったときのことをはじめから想定していたと推測される。




「おもしろいことしてくれるじゃないか」
 ノアは意味のない報告書を握りつぶし、ヴィンセントは下を向いた。


 ぼそりとノアはつぶやいた。
「彼女は最初から私に次の勝負などさせる気はなかったのだ」
 これがたいていのことは努力せずとも出来てしまったゆえに、面白さを追求することにのめり込んだノアの心に完全に火をつけた。


「あの女は二度目の勝負を私とする気はさらさらなかった。私から逃げ切るつもりだったのだ初めから。なぁ、ヴィンセント。これはなんとしても、あの女ともう1度会って、勝負をしなければならない」




――――ノアはとっておきの面白いことを見つけてしまったのだ。


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