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第8話 盗み聞き
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辺境地への訪問者など、たいていいつも来る人は決まっているものだ。
隣接している領の人物なんかだと、わりと顔を見る機会があるけれど。
辺境地は辺境地の派閥や人間関係、王都は王都の派閥や人間関係があると思う。
王都方面の貴族の訪問者なんて、父の友人である特定の貴族の方か年に数回査察に人が訪れるくらいでほぼない。
王都の貴族の派閥に所属しているノア・ヴィスコッティがこの地にやってきたことが異色で異例なのだ。
「庭は公爵様のご趣味でしょうか? それとも姫君のご趣味で?」
ノアは占いの館で会った時とは違い、挑戦的な顔ではなく穏やかな笑顔で私に質問してくるのも……怖い。
あれは趣味ではなく、お金を稼ぐ目的のほうですだなんて言えないので。
「そんなところです……このようなところで立ち話も何ですから。どうぞ中へ」
ぎこちない笑顔を浮かべて室内へと招き入れるが……まずい。
ここに残っているのは私の護衛を兼ねているセバスくらいで、後のメイドはすべて庭と言う名の家庭菜園のほうに行ってしまっているのが辺境令嬢の悲しいところ。
メイドは畑にすべて出払っているので、呼んでくるなどと言えるわけがない。
そのようなことを言えば、完全に父のメンツをつぶしてしまう。
母は我が家唯一の馬車にのって、隣町に刺繍の集まりがあると出かけてしまってるし。
父はというと、今年の夏は暑いなぁと朝出かけてから姿が見えない。
私とはち合わせると、婚約を持ってこないと言われると思っているようで、何かしら理由をつけて父は私と二人きりにならないようにしているのだもの。
いつもであれば査察官なんかが来る日にあわせて、ちゃんと取り繕える程度にはメイドに室内業務をしてもらうなどしてもらっていたのに。
玄関に入ったのに迎えのメイドが誰ひとり出てこないあたり、ノアの訪問を知らなかったのはどうやら私だけではなかったようだ。
セバスにいったいどうなってるの? と問い詰めたいところだけれど。
お客様ご本人を前にしてそれをするわけにはいかない。
突然の訪問なんて我が家は想定される余剰人員などいないのだ。
メイドはもちろん公爵家だから何人か常駐しているが、そのほとんどの通常業務が庭にある菜園の手入れだし、メイドと農家どっちが本業なのか状態の我が家……
室内に入ったというのに、メイドが一人も出てこないものだから、不思議そうな顔でノアとお付きの従者が辺りを見渡す。
「先ほど、雨を降らせる魔法をつかったので……野菜によっては、雨粒を拭きとってやらないと、味には変化はなくても見た目が悪くなったりするのです。なので、そちらのフォローに皆慌てて出払ってしまったのでしょう。申し訳ございません」
私は適当なことをいってごまかしてみる。
「いえ、こちらこそ。突然の訪問でしたから」
申し訳ない顔で私に謝ってきたのはノアではなく、その付き人のほうだった。
とりあえず、応接室にご案内したのはいいけれど、セバスが此処にいたのでは茶も出せない。
かといって、私をここで一人にしないで……ってことで私もセバスを問い詰めるべく一緒に退出を試みた。
「ちょっと、セバスどういうことなの? 訪問があるだなんて聞いていないわ」
「マクミランに、ノア・ヴィスコッティ様がご訪問されると封書が10分前ほどに届きまして、他のメイドに連絡する暇もなく」
セバスの言葉が宙に浮かびあがり、ホントが並ぶ。
「困ったわ……とりあえずメイドを大至急呼びに行ってちょうだい」
「かしこまりまして……僭越ながらティアお嬢様、ご訪問の理由はやはり王都の件ではないかと」
「わかっているわ。全力でごまかしましょう。言い訳は以前打ち合わせた通りに、お互い話しの矛盾が出ないように気をつけましょう」
「かしこまりまして」
セバスはそう言うと、大至急メイドを呼びに走った。
私は扉の前まで来たのはいいけれど、室内に入るタイミングが……
とりあえず、中の会話を盗み聞きするために加護を使用すると、室内で声をひそめ話された言葉も扉を通りぬけ見える。
こんなことにも私の加護は使えるのだ。
『流石に当日に連絡して、その10分後に訪問はまずかったのではないでしょうか……』
文字の字体が違うから、こちらは、あのノアの後ろに控えていた従者のほうだろう。
『……ヴィンセント。そういうことは私が行動に移す前に助言してくれ』
『申し訳ありません』
ホスト役である私も部屋から退出したことで、さすがに訪問がまずかったのではと室内ではざわついていた。
『とりあえず、我々の印象がよくないことはとてもまずい……』
『はい、交渉はいつごろ切り出しましょう?』
『少し会話をして打ち解けてからのほうがいいだろう』
うわぁ……用件をサッサといってほしいのに、逆に気を使わせてしまい会話するはめになってしまったぞと早くも私はちょっと泣きそうになる。
とりあえず悶々としていることが伝わってきたので、部屋に戻ることにした。
「すみません、お茶も出せず。今準備をしておりますので、もうしばらくお待ちくださいませ」
ニコっと愛想笑いをして、空いていた上座に座るけれど。
どうしよう、誰か早く来て頂戴。
でも、お父様とお母様が家を空けているタイミングでよかったわ。
私の趣味の占いのせいで、こんなことになったと知れたらきっとお母さまに特大の雷を落とされたに違いない。
「いえ、こちらこそ。急な訪問となりすみません」
ノアはしおらしく頭を私に下げた。
隣接している領の人物なんかだと、わりと顔を見る機会があるけれど。
辺境地は辺境地の派閥や人間関係、王都は王都の派閥や人間関係があると思う。
王都方面の貴族の訪問者なんて、父の友人である特定の貴族の方か年に数回査察に人が訪れるくらいでほぼない。
王都の貴族の派閥に所属しているノア・ヴィスコッティがこの地にやってきたことが異色で異例なのだ。
「庭は公爵様のご趣味でしょうか? それとも姫君のご趣味で?」
ノアは占いの館で会った時とは違い、挑戦的な顔ではなく穏やかな笑顔で私に質問してくるのも……怖い。
あれは趣味ではなく、お金を稼ぐ目的のほうですだなんて言えないので。
「そんなところです……このようなところで立ち話も何ですから。どうぞ中へ」
ぎこちない笑顔を浮かべて室内へと招き入れるが……まずい。
ここに残っているのは私の護衛を兼ねているセバスくらいで、後のメイドはすべて庭と言う名の家庭菜園のほうに行ってしまっているのが辺境令嬢の悲しいところ。
メイドは畑にすべて出払っているので、呼んでくるなどと言えるわけがない。
そのようなことを言えば、完全に父のメンツをつぶしてしまう。
母は我が家唯一の馬車にのって、隣町に刺繍の集まりがあると出かけてしまってるし。
父はというと、今年の夏は暑いなぁと朝出かけてから姿が見えない。
私とはち合わせると、婚約を持ってこないと言われると思っているようで、何かしら理由をつけて父は私と二人きりにならないようにしているのだもの。
いつもであれば査察官なんかが来る日にあわせて、ちゃんと取り繕える程度にはメイドに室内業務をしてもらうなどしてもらっていたのに。
玄関に入ったのに迎えのメイドが誰ひとり出てこないあたり、ノアの訪問を知らなかったのはどうやら私だけではなかったようだ。
セバスにいったいどうなってるの? と問い詰めたいところだけれど。
お客様ご本人を前にしてそれをするわけにはいかない。
突然の訪問なんて我が家は想定される余剰人員などいないのだ。
メイドはもちろん公爵家だから何人か常駐しているが、そのほとんどの通常業務が庭にある菜園の手入れだし、メイドと農家どっちが本業なのか状態の我が家……
室内に入ったというのに、メイドが一人も出てこないものだから、不思議そうな顔でノアとお付きの従者が辺りを見渡す。
「先ほど、雨を降らせる魔法をつかったので……野菜によっては、雨粒を拭きとってやらないと、味には変化はなくても見た目が悪くなったりするのです。なので、そちらのフォローに皆慌てて出払ってしまったのでしょう。申し訳ございません」
私は適当なことをいってごまかしてみる。
「いえ、こちらこそ。突然の訪問でしたから」
申し訳ない顔で私に謝ってきたのはノアではなく、その付き人のほうだった。
とりあえず、応接室にご案内したのはいいけれど、セバスが此処にいたのでは茶も出せない。
かといって、私をここで一人にしないで……ってことで私もセバスを問い詰めるべく一緒に退出を試みた。
「ちょっと、セバスどういうことなの? 訪問があるだなんて聞いていないわ」
「マクミランに、ノア・ヴィスコッティ様がご訪問されると封書が10分前ほどに届きまして、他のメイドに連絡する暇もなく」
セバスの言葉が宙に浮かびあがり、ホントが並ぶ。
「困ったわ……とりあえずメイドを大至急呼びに行ってちょうだい」
「かしこまりまして……僭越ながらティアお嬢様、ご訪問の理由はやはり王都の件ではないかと」
「わかっているわ。全力でごまかしましょう。言い訳は以前打ち合わせた通りに、お互い話しの矛盾が出ないように気をつけましょう」
「かしこまりまして」
セバスはそう言うと、大至急メイドを呼びに走った。
私は扉の前まで来たのはいいけれど、室内に入るタイミングが……
とりあえず、中の会話を盗み聞きするために加護を使用すると、室内で声をひそめ話された言葉も扉を通りぬけ見える。
こんなことにも私の加護は使えるのだ。
『流石に当日に連絡して、その10分後に訪問はまずかったのではないでしょうか……』
文字の字体が違うから、こちらは、あのノアの後ろに控えていた従者のほうだろう。
『……ヴィンセント。そういうことは私が行動に移す前に助言してくれ』
『申し訳ありません』
ホスト役である私も部屋から退出したことで、さすがに訪問がまずかったのではと室内ではざわついていた。
『とりあえず、我々の印象がよくないことはとてもまずい……』
『はい、交渉はいつごろ切り出しましょう?』
『少し会話をして打ち解けてからのほうがいいだろう』
うわぁ……用件をサッサといってほしいのに、逆に気を使わせてしまい会話するはめになってしまったぞと早くも私はちょっと泣きそうになる。
とりあえず悶々としていることが伝わってきたので、部屋に戻ることにした。
「すみません、お茶も出せず。今準備をしておりますので、もうしばらくお待ちくださいませ」
ニコっと愛想笑いをして、空いていた上座に座るけれど。
どうしよう、誰か早く来て頂戴。
でも、お父様とお母様が家を空けているタイミングでよかったわ。
私の趣味の占いのせいで、こんなことになったと知れたらきっとお母さまに特大の雷を落とされたに違いない。
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