7 / 12
三流一流と出会う
第七話 目が合う持っていかれる
しおりを挟む
総司はじろじろと値踏みされているのがわかった。
それと同時に、男だとばれたらどう思われるかという羞恥心が襲ってきていた。
それでも、自分から話す話題が思いつきもしない総司は気まずい空気を感じ取っていたが、無視を貫いていた。
しかし、その我慢比べは唐突に終わったのだ。
突如として顎を掴まれ無理やり目を合わされたのだ。
男に予期せぬタイミングで触れられ、目があったことで上等ななめらかな襦袢の下で一気に鳥肌が立った。
思わず反射的に手を払いのけて距離を取ってしまった。
しまったというときにはすでに遅く、総司はその場に任せ思い切り手をはたいてしまったのだ。
くも爺のほうに困り果て視線をやると、あちゃーと言わんばかりに手を目に当てて天を仰いだしぐさにやらかしたことを理解した。
どうする、どうすればいい。
愛想よく、愛想よくすれば今からでも挽回可能か?
取り返しのつかない失敗に慌てているところで襖が開かれた。
「おや?」
それは、総司をここに置き去りにした張本人座頭だった。
すでに何かをやった後だと悟っただろう座頭に、俺は助けを求めすがるように見やった。
しかし、座頭といえば、おやおやなどと言いながらここまでやってくると。
「どうも、お初にお目にかかります。座頭です」とのんきに自己紹介をしたのだった。
「君がこの子をみつけてきたのか?」
「えぇ、この様子ならあなたならこの子の価値がわかったのでは?」
価値? 総司の頭の中に、こんな風に無礼に振舞った俺にどんな価値があるのかと頭をひねった。
「……男嫌いか?」
「流石このような大店の亭主をされているだけありますね。その通りです」
「あの、なんで男嫌いだと価値が?」
くも爺が二人に問いかける。
「金を持っている男に寄ってくる愛想のいいのは山のようにいる。金持ちは愛想のいい女に慣れてる」
之綱がくも爺にそういった。
さらに座頭が話を続けた。
「この子は男嫌いゆえに男にこびません。そして男に媚びなくても許される容姿を持っている稀有な存在。だから価値があるのです」
「と言えども、器量だけよくてもこの世界では使いものにはならない」
そういう座頭に之綱はきっぱりとまだこれだけでは使えないといいきる。
「読み書き計算はもちろんのこと、茶、碁、楽器、和歌。いろいろたしなんでおります。おまけにこの容姿。彼女は身体を売らなくとも芸が売れるのです」
「それができれば、こんなところに普通はおちてこない」
「そうですね。普通は落ちてこないでしょう。でも男に身体を売らせないという約束をすれば、目玉商品としておいて置けるというわけです。どうせ太夫を抱ける客などほんの一部……では?」
「だがな、大夫は客を選ぶ。万が一容姿のいい歌舞伎役者とでも恋に落ちてみろ。他の客は絶対に取らなくなる。あちらに抱かせて、こちらは抱かせないなど高い金を払って許されることではない。そうなったやつが過去にいたが、自身の借金が膨れようが、いつかそれも含めた見受け金を払うと夢をみてこちらの話を聞かない。そうなったら最後……落ちるところまでいずれ落ちる」
「その辺は絶対に大丈夫です」
「何にそんな自信が……」
「恋愛の対象が男ではなく女だからですよ」
それ言ってしまっていいのか!? と総司は驚愕した。驚いたように之綱が総司を見つめるので、総司はそれにコクリと頷いてみせた。
「少年ばかり愛す人が形ばかりの妻をとるように、その逆もあるわけです。だからどんな美丈夫にもこの子は惚れることはない。だって恋愛対象は男ではないのだから……男がその柔肌に触れればたちまちサブいぼが立つ。遊女としては欠点ですが……抱かせないお飾り太夫にはそれが強みになる」
「誰にも惚れない飛び切りのいい女を、いったい誰が惚れさせることができるのか……これは競うやつが出てくるぞ」
之綱は慌ただしく頭を回転させる。
「そして、期限を設けましょう」
「期限?」
「どこまでも引っ張るわけにはいかないではないでしょう? 後だしをすると評判にかかわりますから。とある方にすでに身請けされることが決まっているけれど、太夫としての実績がないと価値がないとかでしょうか」
ばかげている話だった。
ばかげている話なのに、それが目の前で淡々と決まっていくのを総司はただ見つめていた。
そして、必死に覚えさせられた手習いの数々を披露させられ、之綱はなんとこのばかげたことに承諾したのだ。
「うちには、店に客を呼ぶための目玉がどうしても必要だ」
総司はこの店のお飾り太夫となること。
他の太夫と違い店に借金があるわけではないので、借金の返済はないが。場を借りるということで売り上げの取り分を店と座頭とで半分にするという、信じられないような内容で話はまとまっていったのだ。
さらに身の回りの物をここでの価格でそろえていたらわりに合わないとのことで、必要なものはこの子のものはこちらで準備すること。
世話をする禿にあたる人物に、この子が惚れると困るから、付き人はこちらで準備すると決まってしまったのだ。
そして、恋愛対象が男ではなく女であることから、他の妓女とは極力会わないようにしてほしいと決まったのだ。
それと同時に、男だとばれたらどう思われるかという羞恥心が襲ってきていた。
それでも、自分から話す話題が思いつきもしない総司は気まずい空気を感じ取っていたが、無視を貫いていた。
しかし、その我慢比べは唐突に終わったのだ。
突如として顎を掴まれ無理やり目を合わされたのだ。
男に予期せぬタイミングで触れられ、目があったことで上等ななめらかな襦袢の下で一気に鳥肌が立った。
思わず反射的に手を払いのけて距離を取ってしまった。
しまったというときにはすでに遅く、総司はその場に任せ思い切り手をはたいてしまったのだ。
くも爺のほうに困り果て視線をやると、あちゃーと言わんばかりに手を目に当てて天を仰いだしぐさにやらかしたことを理解した。
どうする、どうすればいい。
愛想よく、愛想よくすれば今からでも挽回可能か?
取り返しのつかない失敗に慌てているところで襖が開かれた。
「おや?」
それは、総司をここに置き去りにした張本人座頭だった。
すでに何かをやった後だと悟っただろう座頭に、俺は助けを求めすがるように見やった。
しかし、座頭といえば、おやおやなどと言いながらここまでやってくると。
「どうも、お初にお目にかかります。座頭です」とのんきに自己紹介をしたのだった。
「君がこの子をみつけてきたのか?」
「えぇ、この様子ならあなたならこの子の価値がわかったのでは?」
価値? 総司の頭の中に、こんな風に無礼に振舞った俺にどんな価値があるのかと頭をひねった。
「……男嫌いか?」
「流石このような大店の亭主をされているだけありますね。その通りです」
「あの、なんで男嫌いだと価値が?」
くも爺が二人に問いかける。
「金を持っている男に寄ってくる愛想のいいのは山のようにいる。金持ちは愛想のいい女に慣れてる」
之綱がくも爺にそういった。
さらに座頭が話を続けた。
「この子は男嫌いゆえに男にこびません。そして男に媚びなくても許される容姿を持っている稀有な存在。だから価値があるのです」
「と言えども、器量だけよくてもこの世界では使いものにはならない」
そういう座頭に之綱はきっぱりとまだこれだけでは使えないといいきる。
「読み書き計算はもちろんのこと、茶、碁、楽器、和歌。いろいろたしなんでおります。おまけにこの容姿。彼女は身体を売らなくとも芸が売れるのです」
「それができれば、こんなところに普通はおちてこない」
「そうですね。普通は落ちてこないでしょう。でも男に身体を売らせないという約束をすれば、目玉商品としておいて置けるというわけです。どうせ太夫を抱ける客などほんの一部……では?」
「だがな、大夫は客を選ぶ。万が一容姿のいい歌舞伎役者とでも恋に落ちてみろ。他の客は絶対に取らなくなる。あちらに抱かせて、こちらは抱かせないなど高い金を払って許されることではない。そうなったやつが過去にいたが、自身の借金が膨れようが、いつかそれも含めた見受け金を払うと夢をみてこちらの話を聞かない。そうなったら最後……落ちるところまでいずれ落ちる」
「その辺は絶対に大丈夫です」
「何にそんな自信が……」
「恋愛の対象が男ではなく女だからですよ」
それ言ってしまっていいのか!? と総司は驚愕した。驚いたように之綱が総司を見つめるので、総司はそれにコクリと頷いてみせた。
「少年ばかり愛す人が形ばかりの妻をとるように、その逆もあるわけです。だからどんな美丈夫にもこの子は惚れることはない。だって恋愛対象は男ではないのだから……男がその柔肌に触れればたちまちサブいぼが立つ。遊女としては欠点ですが……抱かせないお飾り太夫にはそれが強みになる」
「誰にも惚れない飛び切りのいい女を、いったい誰が惚れさせることができるのか……これは競うやつが出てくるぞ」
之綱は慌ただしく頭を回転させる。
「そして、期限を設けましょう」
「期限?」
「どこまでも引っ張るわけにはいかないではないでしょう? 後だしをすると評判にかかわりますから。とある方にすでに身請けされることが決まっているけれど、太夫としての実績がないと価値がないとかでしょうか」
ばかげている話だった。
ばかげている話なのに、それが目の前で淡々と決まっていくのを総司はただ見つめていた。
そして、必死に覚えさせられた手習いの数々を披露させられ、之綱はなんとこのばかげたことに承諾したのだ。
「うちには、店に客を呼ぶための目玉がどうしても必要だ」
総司はこの店のお飾り太夫となること。
他の太夫と違い店に借金があるわけではないので、借金の返済はないが。場を借りるということで売り上げの取り分を店と座頭とで半分にするという、信じられないような内容で話はまとまっていったのだ。
さらに身の回りの物をここでの価格でそろえていたらわりに合わないとのことで、必要なものはこの子のものはこちらで準備すること。
世話をする禿にあたる人物に、この子が惚れると困るから、付き人はこちらで準備すると決まってしまったのだ。
そして、恋愛対象が男ではなく女であることから、他の妓女とは極力会わないようにしてほしいと決まったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる