古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか

文字の大きさ
4 / 41
私とバイト

第3話 ヨッシー先輩

しおりを挟む
 今の笹木店長にかわって一番最初にバイトをやめたのが。
 私の一つ上で他の大学に通っているうお座のO型 ヨッシー先輩だった。

 180cm近い長身、明るい茶髪の塩顔イケメンだ。
 ニコッと笑うと左側だけエクボが現れるところが可愛いい人だった。
 話も面白くて、盛り上がっている輪になかなか入れない人に気が付いて話題を振ってくれたり、絡んできそうな酔っ払いのテーブルに率先して注文を取りにいって、料理とお酒を運んでくれるような間違いなくバイト先の中心人物、よく気が付くムードメーカー的存在だった。

 私はちょっと絡まれたときに、「次からあのテーブル変わるよ」ってさらっとされて恋心を不相応にも抱いてしまった人物だった。
 といっても私の恋はヨッシー先輩がバイトを辞めてしまって。
 辞めると同時にSNSのバイト先のグループからも抜けて行ってしまった。個別で連絡先の交換もしてなかったから、結構話していたのに今はどうしているかわからない。


 やめる理由は、取りたい資格があるからそっちに集中するためだった。

 ヨッシー先輩がいるころは、バイト中もすごく楽しかったし、休みのメンバーでご飯行ったり、遊びに行ったりってのもある本当に楽しい職場だった。

 今日いるメンバーと何話そうとか、バイトしに行くはずが、皆の顔をみておしゃべりするのが楽しみになってた。
 だけど、ヨッシー先輩が辞めた後から、辞める人のほうが珍しかったバイト先の人たちがポツポツと辞めだした。


 私と同い年で同時期に入った美容専門学校に通ってるかわいい系のリリコちゃんは、私もこれから試験があるからってヨッシー先輩が辞めた翌月にやめちゃったし。
 リリコちゃんが辞めた次の月、噂によるとリリコちゃんに告白するか悩んでた3つ上のタッキー先輩と私の2個下の高校生のユズ君も辞めちゃって。
 それから数日遅れで、私は飲んだことがないけれどキッチンでカクテル作るのがすごく上手だった大学院生のエナさんもやめてしまった。

 後はとどめと言わんばかりに、新年会シーズンが終わると同時に。
 仲良くしてもらっていた、ハルちゃん先輩とフユト先輩もそろそろ就活だからってやめてしまった。


 確かに古屋さんが言う通りで、今まで仲いい人が抜けて寂しいとしか思っていなかったけれど。
 今のメンバーだと、前と同じ人数じゃホールはなぜか回らない。
 どうやらそれはホールだけではなく、キッチンも同じ。
 リリコちゃん以外はこのバイト先で1年以上働いた人達ばっかりだったから、なれた人が抜けたから穴がうまらないと思っていた。


 でも、今思い返すと。
 気心が知れるまでは、長時間人と会話するのしんどいタイプの私だけれど。
 リリコちゃんはいろんな話題を振ってくれて、気まずいとか思ったことはなかったし。
 リリコちゃんは同時期に入ったのに古屋さんみたく、私よりも何倍も速く仕事を覚えて、早くミク覚えて~とかおちゃらけで言ってくるような子だったと思い出す。

 それに今上に名前があげた人達が辞めるたびに、なんか前と同じように働いているのに前のように回らないことが増えていたと今更ながら気が付いた。

 ハル先輩とフユト先輩が抜けた後は、本当に回らないを強く実感する。
 だからこそ、店長もこのメンバーだと回らないからと鬼のように連絡してくるわけで……



「『さのさの』って、要領がいい人とかムードメーカーみたいな人がすでに抜けた後なんじゃないかな?」という古屋さんの言葉がぐるぐるする。
 私が新人の頃よりもすんなりと仕事を覚えてしまった古屋さんは、たった1か月でもうバイトをやめようとしている。


「今の店長に変わって。一人辞めてから、どんどんやめていって。それから今まで通り新しく人は入ったりしたんだけれど、長続きする子が前みたくいなくて」
 ぽつり、ぽつりとそういうと。
 古屋さんは水を飲みほして「だろうね」と言った。




 なんていうか、今の今までバイトをやめることは悪いことなんじゃないかなとなんとなく思っていた。
 それに、今バイトをやめたら残った子が困るだろうしとも強く思ってた。
 私が店長が望む答えを言うまで続く連絡も、スマホの電源を切ってほっとするくらいになってしまっているし。
 すでに今回のテストはやらかしてしまっていて、大学に学費としてお金を沢山はらっているのに何してるんだろうとすら思えてくる。


「高校のとき同じようなブラックバイトで働いたことがあるんだ」
 あれこれぐるぐる考える私に、古屋さんから話をさらに振ってくれた。

「社員さんが一人入れ替わっただけなんだけれど、バイトの子が辞めだしたんだよね。しかも要領のいい子とか、楽しい子とかできればバイトに残ってほしい人ばかっかり」
「『さのさの』は店長が変わってから、すごく楽しくって職場のムードメーカーになってた先輩がやめてから、どんどん人が辞めだしたの」
「やっぱり……もしかしたら、辞めた人はもう違うバイトで働いてるかもね」
「でも、皆理由があってちゃんとやめていったよ」
「本音と建て前ってやつじゃないかな。バイトきついんでやめますとか。店長の連絡がしつこいんでやめますとは言えないじゃない」
 古屋さんにしてきされて、それが図星で私はまた考え込んでしまう。


 理由をつけて、辞めたひとが別のバイトをする。
 そんなことあまり考えたことなかった。
 むしろすごく楽しい職場だったから、ヨッシー先輩は2年だし。資格の試験さえ終わればまた戻ってくるんじゃとか淡い期待すら抱いていたけれど。
 古屋さんの話しでその淡い期待もパラパラと崩れ落ちていく。

 今の職場は前のように楽しくない。
 私だったら、今バイトをやめてもう一度同じところで働くかときかれると答えはノーだ。

「ねぇ、古屋さん。バイトやめちゃっても本当に困らない?」
「今スマホの電源を切るほど困っているのは、やめるつもりの私じゃなくて、働き続ける予定の石井さんじゃない?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...