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私とぬらりひょん
第一話 誰!?
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「お母さん、ぜーーーったい忘れないでね」
ランドセルを背負って家を出る前に、母に念押しをした。
なんで私がこんなにしつこくお母さんに念押しをしているのかというと、今日は私が3カ月も待った、漫画の発売日なんだもの。
いつも行く本屋さんは、絶対に本のとり置きをしてくれない。
田舎の本屋さんゆえに入荷数も限られている。
だから何としても、お母さんが仕事に行くとき店に寄って買ってきてもらわないと――今日中には読めない。
私がこんなにお願いしているのに、お母さんは。
「はいはい、漫画を買っておけばいいのね」
と適当な返事をする。
「本当に、本当にお願いね。9時にはお店に並ぶからね」
最後にもう一回お願いをして、学校に出発した。
今日は授業が終わるのが遅く感じる。
お母さんは買えたかな。買えていなかったら今夜絶対へこむわ。
一日中そんなことを考えていた。
◆◇◆◇
もう、こんな日に限ってホームルームが長いんだから……
ホームルームが終わると私はロケットのように教室を飛び出した。
高橋 しずく 小学五年生。お小遣い600円。
今日私がお母さんに頼んだ本は500円を超える。私にとってはもう清水の舞台から飛び降りるクラスの大盤振る舞い、贅沢品。
600円というお小遣いは、かなりキツイ。
友達の誕生日だって定期的にあるし、私の誕生日の時プレゼントをもらうからお返ししないとだし。
可愛い文房具や、匂い付きの消しゴムだって欲しい。
大人にとっては、たかが1冊の本だけど私にとっては、いろんなことを我慢してお小遣いをやりくりして手に入れる大事な1冊。
「お母さん本は!?」
玄関の引き戸を開けるときに気合いが入りすぎててバーンっと大きな音が鳴った。
「しずく、静かに開けなさいって言ってるでしょ!?」
パートから帰って来ていた母の小言がすぐに飛んできたけれど、それどころではない。
はやる気持ちをおさえて、脱いだ靴をそろえてリビングに顔を出す。
「お母さん本は!?」
「さっきからお母さん本、本って。帰ってきたらまず、ただいまでしょ。本なら部屋においてあるわよ」
「ありがとう……っと、あとただいま!」
投げやりにただいまの挨拶をして、私は階段を駆け上がった。
3ヶ月間ずーーーっとずーーーっと本の続きが気になっていた。
雑誌を買えるような財力はないし。ネタばれをうっかり見ないようにすごーーーーく気をつけた。
いったい、どうなってしまったのか、裏切ったのか裏切ってないのか!
母親に注意されたけれども、私は勢い余ってまた自分の部屋の扉をバーンっと開けた。
「はぁ?」
私の部屋には先客がいた。
チャイナ服で、再度に流して三つ編みにされた髪……
情報量が多い恰好うんぬんよりも、こいつ私のベッドに我が物顔で転がって、私が楽しみにしている漫画を先に読んでいる!?
「なんで私の漫画を先に読んじゃうわけ!?」
『あんた誰?』でもなく『どうして私の部屋にいるの?』でもなく、私の口からでたのは。
私がお小遣いの大半をつぎ込んだ漫画を先に読んでることの怒りだった。
私がこんなに怒っているのに、その子はチラッと私のほうをみると、指をパッチンと一度鳴らした。
そして、ポテチを開けると、一枚口に入れ、ポテチを食べたその手でページをめくろうとしていて私はその子の頭にチョップをいれた。
「汚れた手で人の本を読まないでよ。油シミになるでしょ。これほぼ私のお小遣い1カ月分なんだからね! わかってんの?」
本を取り返して私の胸元に抱え込んだ。
そのとたん、私のベッドの上でだらだらしていた子が、ベッドから飛び起きた。
「きゃっ!? なんなのよいきなり。本なら自分で買いなさいよ。私の本よこれは!?」
「しずく……あーいや、あんた俺が見えるの?」
声も少し低いし、俺……ってことはもしかして、男の子?
「えっ、男の子? それよりなんで私の名前知っているの?」
髪は一つ縛りのみつあみだし。服はチャイナ服みたいな感じだったからてっきり女の子だと思っていた。
私は本がとられないように胸元で抱えたまま男の子から本をとられまいと少し横を向いたその時だ。
「しずく、いいかげんにしなさい。さっきからドアをばったんばったん乱暴に閉めるし、大声まで出してなんなの? ご近所さんに迷惑よ。この家まだローン残ってるんだからもう少し大事に使いなさい」
そういって、お母さんが部屋にやってきたのだ。
「お母さんこの子が!」
「まったく……お母さんが怖いの苦手だからって、ごまかすために怖いことを言って。この部屋にはしずく一人! もう、漫画がうれしいのはわかったけれど、もう少し静かに読まないなら次から買ってこないわよ」
次から買ってこないという言葉に私は反射的に謝った。
すると、母は満足して私の部屋を後にした……後にしたんだけど……
私一人しかいない……? そんなわけない。
だって……
「ふぅ、あんだけ。しずく、しずく連呼したら、流石に名前くらい覚えるつーの」
って話してる人が間違いなくいるんですけど。
「……それじゃあ、あんたは?」
ギギギっと後ろを振り向くと、そこには母には見えなかったけれど。やっぱり男の子が立っていた。
黒地に赤色でアクセントが付けられているチャイナ服に。髪は三つ編みにして前に回して垂らしてるし、顔がそこそこいい、服も髪型も顔も存在感たっぷりの奴が……
もしかして、おばけ?
「だから、普通の人間に俺は認識できないの。俺は妖怪『ぬらりひょん』、術を使ったのに俺を認識するとは、俺もまだまだ未熟ということか……」
ぷーっと頬を膨らまして不機嫌そうに男の子は横を向いた。
ランドセルを背負って家を出る前に、母に念押しをした。
なんで私がこんなにしつこくお母さんに念押しをしているのかというと、今日は私が3カ月も待った、漫画の発売日なんだもの。
いつも行く本屋さんは、絶対に本のとり置きをしてくれない。
田舎の本屋さんゆえに入荷数も限られている。
だから何としても、お母さんが仕事に行くとき店に寄って買ってきてもらわないと――今日中には読めない。
私がこんなにお願いしているのに、お母さんは。
「はいはい、漫画を買っておけばいいのね」
と適当な返事をする。
「本当に、本当にお願いね。9時にはお店に並ぶからね」
最後にもう一回お願いをして、学校に出発した。
今日は授業が終わるのが遅く感じる。
お母さんは買えたかな。買えていなかったら今夜絶対へこむわ。
一日中そんなことを考えていた。
◆◇◆◇
もう、こんな日に限ってホームルームが長いんだから……
ホームルームが終わると私はロケットのように教室を飛び出した。
高橋 しずく 小学五年生。お小遣い600円。
今日私がお母さんに頼んだ本は500円を超える。私にとってはもう清水の舞台から飛び降りるクラスの大盤振る舞い、贅沢品。
600円というお小遣いは、かなりキツイ。
友達の誕生日だって定期的にあるし、私の誕生日の時プレゼントをもらうからお返ししないとだし。
可愛い文房具や、匂い付きの消しゴムだって欲しい。
大人にとっては、たかが1冊の本だけど私にとっては、いろんなことを我慢してお小遣いをやりくりして手に入れる大事な1冊。
「お母さん本は!?」
玄関の引き戸を開けるときに気合いが入りすぎててバーンっと大きな音が鳴った。
「しずく、静かに開けなさいって言ってるでしょ!?」
パートから帰って来ていた母の小言がすぐに飛んできたけれど、それどころではない。
はやる気持ちをおさえて、脱いだ靴をそろえてリビングに顔を出す。
「お母さん本は!?」
「さっきからお母さん本、本って。帰ってきたらまず、ただいまでしょ。本なら部屋においてあるわよ」
「ありがとう……っと、あとただいま!」
投げやりにただいまの挨拶をして、私は階段を駆け上がった。
3ヶ月間ずーーーっとずーーーっと本の続きが気になっていた。
雑誌を買えるような財力はないし。ネタばれをうっかり見ないようにすごーーーーく気をつけた。
いったい、どうなってしまったのか、裏切ったのか裏切ってないのか!
母親に注意されたけれども、私は勢い余ってまた自分の部屋の扉をバーンっと開けた。
「はぁ?」
私の部屋には先客がいた。
チャイナ服で、再度に流して三つ編みにされた髪……
情報量が多い恰好うんぬんよりも、こいつ私のベッドに我が物顔で転がって、私が楽しみにしている漫画を先に読んでいる!?
「なんで私の漫画を先に読んじゃうわけ!?」
『あんた誰?』でもなく『どうして私の部屋にいるの?』でもなく、私の口からでたのは。
私がお小遣いの大半をつぎ込んだ漫画を先に読んでることの怒りだった。
私がこんなに怒っているのに、その子はチラッと私のほうをみると、指をパッチンと一度鳴らした。
そして、ポテチを開けると、一枚口に入れ、ポテチを食べたその手でページをめくろうとしていて私はその子の頭にチョップをいれた。
「汚れた手で人の本を読まないでよ。油シミになるでしょ。これほぼ私のお小遣い1カ月分なんだからね! わかってんの?」
本を取り返して私の胸元に抱え込んだ。
そのとたん、私のベッドの上でだらだらしていた子が、ベッドから飛び起きた。
「きゃっ!? なんなのよいきなり。本なら自分で買いなさいよ。私の本よこれは!?」
「しずく……あーいや、あんた俺が見えるの?」
声も少し低いし、俺……ってことはもしかして、男の子?
「えっ、男の子? それよりなんで私の名前知っているの?」
髪は一つ縛りのみつあみだし。服はチャイナ服みたいな感じだったからてっきり女の子だと思っていた。
私は本がとられないように胸元で抱えたまま男の子から本をとられまいと少し横を向いたその時だ。
「しずく、いいかげんにしなさい。さっきからドアをばったんばったん乱暴に閉めるし、大声まで出してなんなの? ご近所さんに迷惑よ。この家まだローン残ってるんだからもう少し大事に使いなさい」
そういって、お母さんが部屋にやってきたのだ。
「お母さんこの子が!」
「まったく……お母さんが怖いの苦手だからって、ごまかすために怖いことを言って。この部屋にはしずく一人! もう、漫画がうれしいのはわかったけれど、もう少し静かに読まないなら次から買ってこないわよ」
次から買ってこないという言葉に私は反射的に謝った。
すると、母は満足して私の部屋を後にした……後にしたんだけど……
私一人しかいない……? そんなわけない。
だって……
「ふぅ、あんだけ。しずく、しずく連呼したら、流石に名前くらい覚えるつーの」
って話してる人が間違いなくいるんですけど。
「……それじゃあ、あんたは?」
ギギギっと後ろを振り向くと、そこには母には見えなかったけれど。やっぱり男の子が立っていた。
黒地に赤色でアクセントが付けられているチャイナ服に。髪は三つ編みにして前に回して垂らしてるし、顔がそこそこいい、服も髪型も顔も存在感たっぷりの奴が……
もしかして、おばけ?
「だから、普通の人間に俺は認識できないの。俺は妖怪『ぬらりひょん』、術を使ったのに俺を認識するとは、俺もまだまだ未熟ということか……」
ぷーっと頬を膨らまして不機嫌そうに男の子は横を向いた。
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