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私たちと市街地
第20話 こんな感情いらない
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無我夢中だった。
ただ、今はシュカの傍にいたくない。シュカと話をしたくない。
シュカとちなみちゃんが仲良さそうなところを見たくない。
それだけだった。
気がついたら、後ろにシュカはいなかった。
シュカは私を追って来ていなかった。
人気の少ない神社の境内の隅に私はかがんで隠れた。
私が逃げたくせに、シュカが追ってこなくてなーんだっていう身勝手な気持ちが押し寄せてきて、さらに自己嫌悪する。
私がシュカから逃げようと思って逃げたくせに、追ってこないことにがっかりするだなんて自分勝手すぎるよ。
私がシュカのことを忘れたくない理由。
本当は、もっと前に気がついていた。
でも、シュカは妖怪で私は人間。
はっきり自覚してしまったら困るとわかっていたから、ずっと気が付いているのに気が付いていないふりをしてきたんだ。
私はシュカが好きだ。
シュカのことを好きだから、彼を認識できなくなるなんて嫌で、今までのことも全部忘れるなんて嫌だった。
半分妖怪で、これまで通りシュカのことを認識できて見えるちなみちゃんがずるくて、うらやましくてたまらなかった。
私はもう少ししたらシュカのことが見えなくなるのに、ちなみちゃんとシュカの二人がどんどん仲良くなっていくのを見るのが嫌でたまらなかったんだ。
なんで私は妖怪じゃなかったんだろう。
どうして私だけがシュカが見えなくなり、シュカを忘れることになってしまうんだろう。
ちなみちゃんのことも一度嫌だと自覚したら、止まらなかった。
涙で視界が揺らいだ。
私がシュカの術を無意識とはいえ破ってから、私の傍を片時も離れなかったシュカ。
だから、こんな風に離れていたら危ないし、早く戻らなきゃって思うのに……私は日が暮れてきてもシュカにまだ会いたくなくてその場から動けなかった⁉️。
その時だ、不気味な声が聞こえた。
「近い……近い……」
不気味な声に思わず叫びそうになった口を押さえた。
ズルッズルッという何かを引きずる嫌な音と共に聞こえる声に、私の体に一気に鳥肌が立つ。
本能が絶対に見つかっては駄目だと訴える。
どうしよう、怖い。
今まで不思議な体験をいろいろしてきたけれど、いつだって横にひょうひょうとしているシュカがいた。
でも、今日はいない。
どうしようと今さら思っても遅い。
だって私がシュカを振りきって来てしまったのだから。
「心の……隙間……見つけ申した……見つけ申した……」
◆◇◆◆
「し、しし、しずくちゃんは?」
「クソッ、捕まえそこなった。今の俺じゃ探せない。学校に戻るから」
しずくが目の前で景色に溶け込み消えた。あれはおそらく俺と同じ術。
となれば、俺より現在格上になったしずくの術は、格下の俺では破れない。
俺は走り出した。
「えっ? えっ?」
状況を理解できてないちなみはきょろきょろしながら、そう繰り返す。
「見守り稲荷。先に行く」
ざわざわと木々が変な感じで揺らめいている気がして、それがなんか不吉でさらに速足で向かう。
神様の住まいである社の近くは妖怪の俺には居心地が良くない。できれば二度と足を踏み入れたくないけれど今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「風月、風月!」
見守り稲荷の北の社の前で風月を呼ぶ。
すぐに一匹の白いキツネが現れて、くるんっと宙返りをすれば、キツネの姿から一変、一人の男の子の姿に変わる。
「社の前でそんな風に人の名を何度も呼ぶのはいささか趣が……「そういう御託はいいから、あんたの主様に会わせて」
そう詰め寄ると風月は俺の周りを見渡し、俺に質問をしてくる、今はそんな時間すら惜しいのに。
「おい、ぬらりひょん。人間の女とろくろっ首はどうした。なぜお前が一人だけここに来る?」
「説明はアンタが主を呼んだらする。何度も説明する時間が今は惜しい。頼むからさ」
俺は頭を下げると、3匹のキツネが現れた。
『人の子はどうした、妖怪よ』
そう言って風月の主のキツネは現れた。
しずくに負けた俺じゃ探せない。だから、相手が神でも俺はすがるしかなかった。
「何がきっかけかよくわからない。ただ急にしずくの様子がおかしくなって、俺に背を向けて走り出したんだ」
『ほうほう、妖怪から逃げ出そうとするのは人の本能よ。でもお前は妖怪。人よりまさるのになぜ人の子を逃がした』
「逃がしたんじゃない。捕まえようとした。だけどなんでかわかんないけど、人間のしずくは、俺が術を使った時のように、景色にまぎれて消えてしまった。しずくがどこにいるか知りたい。知恵を貸してほしい。今のしずくには他の妖怪を見つけることがうまいちなみもついてない。たった一人なんだ」
『ほう、これは興味深い興味深い。弱い人間の器が強い力を手に入れると、己の力がないから倒した相手の術を、何かしらかのきっかけで使えるようになったのかもしれんな。だとすれば、しずくに負けたお前には見つけられぬと言うわけか……フォッフォッフォ』
じいさんはキツネの姿のまま笑う。
「もー、サンタみたいな笑い声と考察はいいから。しずくの居場所を早く知りたいんだけど。強い妖怪が俺が学校をうろつき出した頃に、この学校にも入り込んでたんでしょ。神様のあんたなら知ってると思うけど……そいつの狙いは、弱いのに強い力を持つはめになったしずくだったんでしょ!」
『しずくという人間に、なぜそれほど妖怪のお前が肩入れするのかが実に興味深いところだが、今日は時間がない、誠に残念。……ぬらりひょん。お前その童に名をやっておいて正解だったな。さて、妖怪のお前に学校の守り神程度とはいえ神が触れるのだ。意識をしっかり保っておるんじゃぞ」
くるんっと、じいさんキツネは宙返りをすると、老人の姿で目をほんの少しだけ開けて俺を睨んでニッと笑った。
「主様何を……」
『なぁに、そんなに凄いことはしない。こいつはあの娘に名をやっている。だから、名戻しの術を使う。いやはや、この術を使うのは何十年、いや何百年振りだろうなぁ。あんな弱く短命な人間という種に名をくれてやるとは馬鹿は早々おらんでな……』
フォッフォッフォと相変わらずサンタみたいな笑い方をしながら、じいさんキツネは俺のところにやってくると、俺の頭をつかんだ。
掴まれた箇所が熱い。
「いっ、いったぁぁぁああ」
あまりのことに思わず口からそうでた。
わりと強い妖怪の俺はこんな激痛伴うことなんて早々あることではない。
神は危ないとは分かっていたけれど、俺はそういう妖怪だから、神の領域に引き込まれることなどそうそうない。
だから、神が俺に触れることなんて今まで一度もなかった。
「ほうれ、我慢じゃ。……もう少しだ汝の名を取り戻せ。名のあるところまで器を案内せよ」
そういうと、じいさんの手が頭から離れた。
頭が割れるように痛くて思わずその場でのたうちまわる。
「痛っ…………」
ろくろっ首のちなみが頭を押さえて具合の悪そうにうずくまっていたことがあったけれど、次は優しくしようなんてことを思った。
「ほうれ、のたうち回っておる場合ではない、出たぞ」
そう言われて見てみると、俺の左胸のあたりから、名を交換したときみた赤い糸のようなものが真っ直ぐどこかに向かって延びていた。
『風月、こやつについていってやれ。こいつが探している相手は、私たちが見守りキツネとして見守っているこの学校の生徒じゃ。それに風月はこのぬらりひょんが探したい童を知っているのじゃろ? 術を使われていてはお前にもこやつの目にも人間の童はおそらく見えん。お前の札が役に立つときが来るだろう』
「はっ、かしこまりました。いつまで地面の上で無様にのたうちまわっている。行くぞ、ぬらりひょん」
来てくれるのはありがたいんだけど、コイツ自分の頭が痛くないからって……好き勝手に言いやがって後で見てろよと思いながらも俺は起き上がって走り出した。
「ちょっちょ……二人ともそんなに急いで、どこ、どこへ?」
途中でここへ向かっていた、ろくろっ首のちなみとすれ違った。
「とにかくついて来れたらついて来て」
そう言って俺は頭を押さえならが走った。
俺の名があるしずくの下へ。
ただ、今はシュカの傍にいたくない。シュカと話をしたくない。
シュカとちなみちゃんが仲良さそうなところを見たくない。
それだけだった。
気がついたら、後ろにシュカはいなかった。
シュカは私を追って来ていなかった。
人気の少ない神社の境内の隅に私はかがんで隠れた。
私が逃げたくせに、シュカが追ってこなくてなーんだっていう身勝手な気持ちが押し寄せてきて、さらに自己嫌悪する。
私がシュカから逃げようと思って逃げたくせに、追ってこないことにがっかりするだなんて自分勝手すぎるよ。
私がシュカのことを忘れたくない理由。
本当は、もっと前に気がついていた。
でも、シュカは妖怪で私は人間。
はっきり自覚してしまったら困るとわかっていたから、ずっと気が付いているのに気が付いていないふりをしてきたんだ。
私はシュカが好きだ。
シュカのことを好きだから、彼を認識できなくなるなんて嫌で、今までのことも全部忘れるなんて嫌だった。
半分妖怪で、これまで通りシュカのことを認識できて見えるちなみちゃんがずるくて、うらやましくてたまらなかった。
私はもう少ししたらシュカのことが見えなくなるのに、ちなみちゃんとシュカの二人がどんどん仲良くなっていくのを見るのが嫌でたまらなかったんだ。
なんで私は妖怪じゃなかったんだろう。
どうして私だけがシュカが見えなくなり、シュカを忘れることになってしまうんだろう。
ちなみちゃんのことも一度嫌だと自覚したら、止まらなかった。
涙で視界が揺らいだ。
私がシュカの術を無意識とはいえ破ってから、私の傍を片時も離れなかったシュカ。
だから、こんな風に離れていたら危ないし、早く戻らなきゃって思うのに……私は日が暮れてきてもシュカにまだ会いたくなくてその場から動けなかった⁉️。
その時だ、不気味な声が聞こえた。
「近い……近い……」
不気味な声に思わず叫びそうになった口を押さえた。
ズルッズルッという何かを引きずる嫌な音と共に聞こえる声に、私の体に一気に鳥肌が立つ。
本能が絶対に見つかっては駄目だと訴える。
どうしよう、怖い。
今まで不思議な体験をいろいろしてきたけれど、いつだって横にひょうひょうとしているシュカがいた。
でも、今日はいない。
どうしようと今さら思っても遅い。
だって私がシュカを振りきって来てしまったのだから。
「心の……隙間……見つけ申した……見つけ申した……」
◆◇◆◆
「し、しし、しずくちゃんは?」
「クソッ、捕まえそこなった。今の俺じゃ探せない。学校に戻るから」
しずくが目の前で景色に溶け込み消えた。あれはおそらく俺と同じ術。
となれば、俺より現在格上になったしずくの術は、格下の俺では破れない。
俺は走り出した。
「えっ? えっ?」
状況を理解できてないちなみはきょろきょろしながら、そう繰り返す。
「見守り稲荷。先に行く」
ざわざわと木々が変な感じで揺らめいている気がして、それがなんか不吉でさらに速足で向かう。
神様の住まいである社の近くは妖怪の俺には居心地が良くない。できれば二度と足を踏み入れたくないけれど今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「風月、風月!」
見守り稲荷の北の社の前で風月を呼ぶ。
すぐに一匹の白いキツネが現れて、くるんっと宙返りをすれば、キツネの姿から一変、一人の男の子の姿に変わる。
「社の前でそんな風に人の名を何度も呼ぶのはいささか趣が……「そういう御託はいいから、あんたの主様に会わせて」
そう詰め寄ると風月は俺の周りを見渡し、俺に質問をしてくる、今はそんな時間すら惜しいのに。
「おい、ぬらりひょん。人間の女とろくろっ首はどうした。なぜお前が一人だけここに来る?」
「説明はアンタが主を呼んだらする。何度も説明する時間が今は惜しい。頼むからさ」
俺は頭を下げると、3匹のキツネが現れた。
『人の子はどうした、妖怪よ』
そう言って風月の主のキツネは現れた。
しずくに負けた俺じゃ探せない。だから、相手が神でも俺はすがるしかなかった。
「何がきっかけかよくわからない。ただ急にしずくの様子がおかしくなって、俺に背を向けて走り出したんだ」
『ほうほう、妖怪から逃げ出そうとするのは人の本能よ。でもお前は妖怪。人よりまさるのになぜ人の子を逃がした』
「逃がしたんじゃない。捕まえようとした。だけどなんでかわかんないけど、人間のしずくは、俺が術を使った時のように、景色にまぎれて消えてしまった。しずくがどこにいるか知りたい。知恵を貸してほしい。今のしずくには他の妖怪を見つけることがうまいちなみもついてない。たった一人なんだ」
『ほう、これは興味深い興味深い。弱い人間の器が強い力を手に入れると、己の力がないから倒した相手の術を、何かしらかのきっかけで使えるようになったのかもしれんな。だとすれば、しずくに負けたお前には見つけられぬと言うわけか……フォッフォッフォ』
じいさんはキツネの姿のまま笑う。
「もー、サンタみたいな笑い声と考察はいいから。しずくの居場所を早く知りたいんだけど。強い妖怪が俺が学校をうろつき出した頃に、この学校にも入り込んでたんでしょ。神様のあんたなら知ってると思うけど……そいつの狙いは、弱いのに強い力を持つはめになったしずくだったんでしょ!」
『しずくという人間に、なぜそれほど妖怪のお前が肩入れするのかが実に興味深いところだが、今日は時間がない、誠に残念。……ぬらりひょん。お前その童に名をやっておいて正解だったな。さて、妖怪のお前に学校の守り神程度とはいえ神が触れるのだ。意識をしっかり保っておるんじゃぞ」
くるんっと、じいさんキツネは宙返りをすると、老人の姿で目をほんの少しだけ開けて俺を睨んでニッと笑った。
「主様何を……」
『なぁに、そんなに凄いことはしない。こいつはあの娘に名をやっている。だから、名戻しの術を使う。いやはや、この術を使うのは何十年、いや何百年振りだろうなぁ。あんな弱く短命な人間という種に名をくれてやるとは馬鹿は早々おらんでな……』
フォッフォッフォと相変わらずサンタみたいな笑い方をしながら、じいさんキツネは俺のところにやってくると、俺の頭をつかんだ。
掴まれた箇所が熱い。
「いっ、いったぁぁぁああ」
あまりのことに思わず口からそうでた。
わりと強い妖怪の俺はこんな激痛伴うことなんて早々あることではない。
神は危ないとは分かっていたけれど、俺はそういう妖怪だから、神の領域に引き込まれることなどそうそうない。
だから、神が俺に触れることなんて今まで一度もなかった。
「ほうれ、我慢じゃ。……もう少しだ汝の名を取り戻せ。名のあるところまで器を案内せよ」
そういうと、じいさんの手が頭から離れた。
頭が割れるように痛くて思わずその場でのたうちまわる。
「痛っ…………」
ろくろっ首のちなみが頭を押さえて具合の悪そうにうずくまっていたことがあったけれど、次は優しくしようなんてことを思った。
「ほうれ、のたうち回っておる場合ではない、出たぞ」
そう言われて見てみると、俺の左胸のあたりから、名を交換したときみた赤い糸のようなものが真っ直ぐどこかに向かって延びていた。
『風月、こやつについていってやれ。こいつが探している相手は、私たちが見守りキツネとして見守っているこの学校の生徒じゃ。それに風月はこのぬらりひょんが探したい童を知っているのじゃろ? 術を使われていてはお前にもこやつの目にも人間の童はおそらく見えん。お前の札が役に立つときが来るだろう』
「はっ、かしこまりました。いつまで地面の上で無様にのたうちまわっている。行くぞ、ぬらりひょん」
来てくれるのはありがたいんだけど、コイツ自分の頭が痛くないからって……好き勝手に言いやがって後で見てろよと思いながらも俺は起き上がって走り出した。
「ちょっちょ……二人ともそんなに急いで、どこ、どこへ?」
途中でここへ向かっていた、ろくろっ首のちなみとすれ違った。
「とにかくついて来れたらついて来て」
そう言って俺は頭を押さえならが走った。
俺の名があるしずくの下へ。
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2023.3.7更新
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