ぬらりひょんと私

四宮 あか

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夢と現実のはざま

第28話 拒絶

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 私たちが走ると、後ろをチャイナ服のシュカが追いかけてくる。
 私の足はシュカほど早くない。だから、シュカに手を引かれていても、一人で走ってくるシュカのほうが早いからこのままでは捕まってしまう。


 捕まったらどうなるの? シュカはやっぱり妖怪だったら……そしたら、私は彼を忘れちゃう。
 そんなの嫌だ。

 そう思った時だ、ドロリと廊下の一部が崩れたのだ。
「えっ、何!?」
 あり得ない現象に驚く。
 ドロリと崩れた廊下に追いかけて来ていたシュカが足を取られて、ずぶずぶと沈み始める。

 こんなことになるとは思ってなくて、私はびっくりして沈みかけているシュカのほうに戻る。
「しずく、来なくていい。俺は夢の外に一度はじき出されるだけだから大丈夫。ほら、現実じゃなかったでしょ。大丈夫、すぐ迎えに来るから。何度だってくるから、それまで待ってて」
 そう言って、シュカは困ったように笑うと廊下に呑み込まれ消えた。廊下はすぐに元通りになった。




「ねぇ、シュカ。廊下がこんなことになるのって普通はありえないよね」
 さっきの廊下を見たおかげで、私ははっきりと確信した。この世界は私がいつもいる世界ではないと。
 私は後ろを振り向いて、私のほうをみていたシュカに話しかけた。
「そうだね、流石にばれちゃうよね」
 そういって、シュカはさきほど消えたシュカとまったく同じ困った笑顔で笑った。
「ここはどこで、あなたは誰?」



「ここは、しずくの夢の中。俺は、まくら返しっていう妖怪の術としずくの願望で産みだされた。しずくが望んだシュカ」



◆◇◆◇


 しずくの夢の中から俺は出された。

 固い土の地面の感触が頬にする。
「どうだ、ぬらりひょん。しずくは助けられたか?」
 気がついた俺に風月は聞いてくる。
「みたらわかんでしょ。駄目だった、じいさんもう1回」
 もう次はない、しずくが俺を拒絶したらさっきみたいに夢からつまみだされる。
「待て、次で夢に入れるのは最後だ。入る前にちゃんと思い出せ。あちらはしずくが望んだ世界だ。こちらの世界との違いが何かあったはずだ。
それがこちらでは叶わないから、夢の世界にいようと思っているはず。その問題を何とかしないと、駄目だ」
 風月に言われて俺は考える。
 夢とこちらの世界の違い。

 あった、決定的な違い。
 俺だって妖怪だ、対峙した相手が人間か妖怪かくらい流石にわかる。
「俺が人間だった」


 俺がそう言うと風月がまずいという顔をした。
「何その顔? 何かこの夢に心当たりでもあるの?」
 風月に詰め寄ると、風月はめずらしくバツの悪い顔になった。
「以前しずくを泣かせてしまった日があっただろう。あの日、僕はしずくに言ったんだ。ぬらりひょんに敗れれば、妖怪に狙われることはなくなるが、ぬらりひょんが認識できなくなると」



「なんでそんなこと言ったんだよ!? 俺はひっそりしずくの前から消えるつもりだったのに」
 風月に思わず掴みかかった。風月の足が少し浮いて、風月が胸倉をつかんだ俺の手を叩く。その時だ。
『まずい、夢の中で何か起こったようだ』
 焦ったようにじじいがそう言った。
「えっ。じゃあ、早く夢の中に俺を入れてよ」
『何を言っておる、こんな状況で入れては、出てこれんくなるぞ』
 じじいは声を荒げて、俺をしずくの夢の中にいれるのを拒絶する。
「とにかく入れて、迎えに行くってしずくと約束したんだから」
 思わず神である、じいさんの腕を掴んでしまったことで、見習いの風月をつかんだときとは違って両手がジュっと焼ける痛みが走る。


『妖怪の格の高いものが、神にうかつに触れてはただでは済まんぞ、早く離さんか』
「じゃぁ俺をしずくの夢の中に入れてよ、早く!」
『あーもうー、わしは本当に知らんからな』
「うん、俺のこと心配してくれてありがとね。今度はしずくちゃんと連れて帰ってくるから」
 そう呟いて俺はしずくの額に手を当てると再び夢の中に入り込んだ。


◆◇◆◇


「私が望んだシュカ……?」
「行動や考え方は全部本物オリジネルのシュカと同じ。ただ、一つだけ違う。あいつは妖怪で俺は人間。ねぇ、しずく俺と一緒にいようよ。しずくが望んだのは、妖怪じゃなくて人間の俺でしょ。俺だってしずくに忘れられたくない。明日の話をしずくとずっとしたいんだ」
 そういって、シュカは泣きそうに私を見つめた。
 そう、人間だったらずっとシュカと一緒に入れるかもしれない。


 その時だ。
「すーきーかっーてなことー人のツラで言ってんじゃねーよ」
 の声とともに、走ってきたシュカによって、私の前にいたシュカがとび蹴りを食らわされ吹っ飛んだ。
 戻ってくるからって言ってた。でも、戻ってくるのがあまりにも早すぎて驚いたし、とび蹴り食らわせているし自由すぎる。


「なーにが、行動や考え方は全部本物オリジナルと同じだ。
妖怪の俺が見えるままじゃ、しずくは今みたいに妖怪に狙われる。そんな目に合わせるくらいなら、俺はしずくに認識されなくなっても、忘れられてもいいんだよ!
この夢の中に引きとめ続けたら、しずくが死ぬことをわかってて引きとめるアンタと俺を一緒にしないで」
 吹っ飛ばしたシュカを指さし、そうはっきりとシュカは言い切った。

 シュカと勝負して私が負ければ、私だけがシュカのことを見えなくなって、一緒に経験したことすべて忘れてしまうそう思っていた。
 だけど、シュカも同時に私に勝てば、もう私に認識されなくなって、私に忘れられしまうことを知ってて、そのうえで私が妖怪に狙われないために、格を上げようと動いてくれたんだってやっとわかった。



 私の気持ちが変化した瞬間、世界に大きなヒビが入った。
「しずく……なんで俺を選ばないの? そいつと行ったら、俺のことは見えなくなっちゃうし、思い出も全部忘れちゃうよ。一緒にいようよ。俺だったらしずくが望む限りずっと傍に入れる」
 世界にはいったヒビをみて、よろよろと立ちあがり、人間のシュカが私にそう話しかけてくる。
 それは、私が本当に望んだことだけあって、魅力的で甘い甘い言葉だった。

「それでも、私はここにいれない」
「なんで? しずくが望んだのは妖怪じゃなくて、人間の俺でしょ?」
 人間のシュカは悲しそうな顔で納得いかないように叫んだ。

「ここにいたら死んじゃうんでしょう。私には家族がいる、友達がいる。それにあなたは私の知っているシュカじゃない!」
 私の言葉に偽物のシュカの瞳が揺らいだ。
「さっきのシュカの言葉を聞いたでしょ。シュカは私が死ぬってわかってて傍にいてほしいって言わない。このまま一緒にいたら私が死ぬのがわかっているのに、私といることを望むあなたは誰?」
 私がそう聞いた瞬間だ。


「くちおしや……くちおしや……」
 聞き覚えのあるゾクリとした声が、さっきまで行動を共にしていたシュカの口から洩れ。人間のシュカの胸元が黒くなりそこからズルリと何かが頭をだした。
 現れたのは、赤黒い皮膚にギョロリとした目に片手に枕をもった明らかに人ではない者だった。
 ズルッとシュカの身体から出てくると、動いて話していたシュカの身体が廊下に崩れ落ちた。


「何よあれ……」
「魂を取り込むためにやっぱりしずくの夢の中にいたな。――枕返し!」
 シュカはそう言うと私の前に立ちはだかる。
 


「あと少し、あと少しなのに……『しずく一緒にいよう』」
 私に呼びかけた声は、シュカの声と同じだったが姿はもう明らかに違う。
 なのに、手を私に伸ばして、枕をズルッズルッと引きずってこちらへとやってくる姿に私は思わず後ろに後ずさった。
「絶対に嫌」
 シュカの姿ならともかく、明らかに人ではないおぞましい姿に私は首を激しく横に振った。

「次は違う夢を見よう。次はうまくやる。さぁ、もう一度お休み」
 そう言った瞬間、目の前からそいつは消えた。


「「消えた!?」」
 姿が消えたことで私とシュカが焦る、その時だ。
 どうして、枕返しのほうが消えるの?
 うろたえたその時。

 倒れていた人間のシュカが再び顔を上げて叫んだのだ。
「後ろだ!」
 そう言われて後ろを振り向けば、枕を片手に私達に襲いかかろうとするまくら返しがそこにいた。


 パチンッ


 シュカが指をはじいた。
 おかげで、今度は枕返しからみて私たちが認識できないようになったのだと思う。

「逃げ申した……? 逃げ申した……?」
 と枕返しはぶきみに首をかしげた。 



 
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