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幸運と見せかけた悪運
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「アリサ、今日は少し違うお仕事についていただきます」
素晴らしい森の実りを持ち帰った日の翌日、アリサは上司にあたる上級侍女から新しい仕事を申しつかっていた。
「はい、なんでもやります!」
やる気満々なアリサを見て、上級侍女は笑う。
「昨日、貴女が摘んできた森の木の実や果物は素晴らしかったと料理長からお褒めのお言葉をいただきました。よくやったわね、アリサ。女官長様もお喜びになっていたわ」
「よかった。それを教えていただけて、私もすごく嬉しいです」
張り切るアリサに、今日、与えられた仕事は、なんと王族の食事のお手伝いだと言う。
「今日はたまたま、いつもの従者がお休みでね。そういう時に限って、お昼にもう一人、特別なお客様がお昼ご飯にお越しいただくことになってしまって、人手が足りなくなってしまったそうよ。だから、貴女には給仕長と料理場のつなぎをお願いしたいのよ」
他の侍女たちは、皆、それぞれの仕事で忙しく、アリサしか手が空いていなかった、という訳だ。
けれども、せっかく掴んだ上級侍女のお仕事。これもこなしてがんばるぞ、と拳を握るアリサに、上級侍女はこともなげに笑う。
「アリサの大好きなレティ様にも会えるわよ。よかったわね、アリサ」
上司はアリサのツボを大変よく心得ていらっしゃるのだ。
「えええっ、本当ですか?!」
アリサの頬は一気に緩み、デレデレとした笑顔が顔に浮かぶ。レティ様と言うのは、アリサの憧れの姫様のことである。
そうして、大喜びでやって来たのは王族のダイニングルーム。扉の前に立っているのは給仕長だ。
彼に挨拶をすると、軽く頷いてくれた。
「今日は、ダイアンが休みだから助かったよ。急におひとりお客様が増えてきたのもあってね」
給仕長は基本的には自分の指示に従ってくれればいいと言う。王族にお料理を出すのは主に上級の従僕の役割なので、アリサは厨房と給仕の連絡係である。
「では、まず中でお待ちしましょう」
給仕長に続いて部屋の中で待っていると、王族が順に姿を現した。一番最初に姿を現したのは、5才の王子様とその従者。そして、王妃様と第一王子様が続いて来た。
「あら、レティがまだなのね」
王妃が呟くと、王妃付きの侍女が、すぐにいらっしゃいますと言う。
正直に言おう。今のアリサは幸福の絶頂にいる。
憧れの、夢にまで見た王妃様に王子様たち。
フィリッツ殿下、5才。見るからに王子様とした容貌で、正統派美少年!
もちろん、王族には次期国王と呼ばれる王子様もいる。アンドレア王子、御年25才。
そして、極めつけは! ついにアリサの一押しであるレティ姫の登場である。
王族由来の光輝く金の髪に、淡い紫色の瞳をもつ、それはそれは美しい姫様であり、何より、優雅な物腰や上品な仕草が素晴らしい、わが国を誇る箱入りの姫様なのだ。
いつも遠くからしか、そのご尊顔を拝見できないが、今日は、目の前に生レティ様が!!!!
そして、厨房のスタッフが運んできた料理を室内の給仕たちにつなげるのが、今日のアリサの仕事である。
「あれ?今日は見慣れない人がいるね?」
とてもとても可愛らしい5歳児が、アリサを見つけると、王妃様もレティ様も一斉にアリサに視線を向けた。
その時のアリサは、さらなる幸福感に包まれ、もうこのまま死んでもいいかも、と思ってしまったのだ。
遠くで眺めているだけの生レティ様が私を見ている!
「こちらは、アリサと申します。ダイアンが休暇ですので、代わりに呼びました。お見知りおきくださいませ」
給仕長の後ろでアリサもペコリと礼をとった。王妃様と生レティ様は、軽く会釈してくれ、王子様はよろしくね、といい、軽く口元を綻ばせる。その可愛らしさと言ったら!
アリサも丁寧にお辞儀して見せたが、萌え落ちそうなほどだ。鼻血を出さなかっただけ、自分は偉いと思う。
そして、王妃様の一言で、全てが始まった。
「陛下は少し遅れるので、先に始めていてくれとのことでした」
給仕長がすっと頷き、そして、全てが流れるように進み始める。食前酒に始まり、スープ、前菜などが進む中、二つの席はまだ空いたままだ。
国王ともう一人の客人の席。誰が客人として招かれているのか、アリサには全く分からなかったが、王族が先に食事を始めているということは、きっと、王族より位の低い人なのだろう。
「アリサ、そろそろ陛下とご客人がいらっしゃる。料理長に早く陛下のお食事をと伝えてくれ」
壁際に立つ給仕長に、そっと耳打ちされたので、アリサはダイニングを出て急いで厨房に向かった。
「国王様と、お客様がもうすぐ到着された所よ。急いで、スープと前菜をお願い」
料理長は頷いて、すでに準備の出来た料理を目で示してくれた。
アリサは、すぐに引き返して王族の待つダイニングルームへと入る。国王陛下と、客人はすでに着席しており、給仕長から飲み物を渡されている所だった。
ふっと、陛下と共に現れた客人の後ろ姿を見て、アリサは恐怖に凍り付く。
昨日、森で遭遇したばかりの、あの騎士団長がそこにいたからである。
(ど、ど、どうしてっ、騎士団長様がそんなところにっ!)
再び、悪運体質が爆走している。城に勤め始めて三ヶ月。一度もエンカウントせずにいた騎士団長が、今日、よりにもよって、王族のダイニングにいるのだ。
「リュミエール、遠慮せずに好きなだけ飲め」
「ありがとうございます。陛下」
彼の答えは武人らしく、簡素で無骨だったが、アリサの心臓はバクバクと音を立てる。
……うう、見つかりませんように。
アリサは神に祈りながら、そっと、騎士団長の真後ろに立った。
素晴らしい森の実りを持ち帰った日の翌日、アリサは上司にあたる上級侍女から新しい仕事を申しつかっていた。
「はい、なんでもやります!」
やる気満々なアリサを見て、上級侍女は笑う。
「昨日、貴女が摘んできた森の木の実や果物は素晴らしかったと料理長からお褒めのお言葉をいただきました。よくやったわね、アリサ。女官長様もお喜びになっていたわ」
「よかった。それを教えていただけて、私もすごく嬉しいです」
張り切るアリサに、今日、与えられた仕事は、なんと王族の食事のお手伝いだと言う。
「今日はたまたま、いつもの従者がお休みでね。そういう時に限って、お昼にもう一人、特別なお客様がお昼ご飯にお越しいただくことになってしまって、人手が足りなくなってしまったそうよ。だから、貴女には給仕長と料理場のつなぎをお願いしたいのよ」
他の侍女たちは、皆、それぞれの仕事で忙しく、アリサしか手が空いていなかった、という訳だ。
けれども、せっかく掴んだ上級侍女のお仕事。これもこなしてがんばるぞ、と拳を握るアリサに、上級侍女はこともなげに笑う。
「アリサの大好きなレティ様にも会えるわよ。よかったわね、アリサ」
上司はアリサのツボを大変よく心得ていらっしゃるのだ。
「えええっ、本当ですか?!」
アリサの頬は一気に緩み、デレデレとした笑顔が顔に浮かぶ。レティ様と言うのは、アリサの憧れの姫様のことである。
そうして、大喜びでやって来たのは王族のダイニングルーム。扉の前に立っているのは給仕長だ。
彼に挨拶をすると、軽く頷いてくれた。
「今日は、ダイアンが休みだから助かったよ。急におひとりお客様が増えてきたのもあってね」
給仕長は基本的には自分の指示に従ってくれればいいと言う。王族にお料理を出すのは主に上級の従僕の役割なので、アリサは厨房と給仕の連絡係である。
「では、まず中でお待ちしましょう」
給仕長に続いて部屋の中で待っていると、王族が順に姿を現した。一番最初に姿を現したのは、5才の王子様とその従者。そして、王妃様と第一王子様が続いて来た。
「あら、レティがまだなのね」
王妃が呟くと、王妃付きの侍女が、すぐにいらっしゃいますと言う。
正直に言おう。今のアリサは幸福の絶頂にいる。
憧れの、夢にまで見た王妃様に王子様たち。
フィリッツ殿下、5才。見るからに王子様とした容貌で、正統派美少年!
もちろん、王族には次期国王と呼ばれる王子様もいる。アンドレア王子、御年25才。
そして、極めつけは! ついにアリサの一押しであるレティ姫の登場である。
王族由来の光輝く金の髪に、淡い紫色の瞳をもつ、それはそれは美しい姫様であり、何より、優雅な物腰や上品な仕草が素晴らしい、わが国を誇る箱入りの姫様なのだ。
いつも遠くからしか、そのご尊顔を拝見できないが、今日は、目の前に生レティ様が!!!!
そして、厨房のスタッフが運んできた料理を室内の給仕たちにつなげるのが、今日のアリサの仕事である。
「あれ?今日は見慣れない人がいるね?」
とてもとても可愛らしい5歳児が、アリサを見つけると、王妃様もレティ様も一斉にアリサに視線を向けた。
その時のアリサは、さらなる幸福感に包まれ、もうこのまま死んでもいいかも、と思ってしまったのだ。
遠くで眺めているだけの生レティ様が私を見ている!
「こちらは、アリサと申します。ダイアンが休暇ですので、代わりに呼びました。お見知りおきくださいませ」
給仕長の後ろでアリサもペコリと礼をとった。王妃様と生レティ様は、軽く会釈してくれ、王子様はよろしくね、といい、軽く口元を綻ばせる。その可愛らしさと言ったら!
アリサも丁寧にお辞儀して見せたが、萌え落ちそうなほどだ。鼻血を出さなかっただけ、自分は偉いと思う。
そして、王妃様の一言で、全てが始まった。
「陛下は少し遅れるので、先に始めていてくれとのことでした」
給仕長がすっと頷き、そして、全てが流れるように進み始める。食前酒に始まり、スープ、前菜などが進む中、二つの席はまだ空いたままだ。
国王ともう一人の客人の席。誰が客人として招かれているのか、アリサには全く分からなかったが、王族が先に食事を始めているということは、きっと、王族より位の低い人なのだろう。
「アリサ、そろそろ陛下とご客人がいらっしゃる。料理長に早く陛下のお食事をと伝えてくれ」
壁際に立つ給仕長に、そっと耳打ちされたので、アリサはダイニングを出て急いで厨房に向かった。
「国王様と、お客様がもうすぐ到着された所よ。急いで、スープと前菜をお願い」
料理長は頷いて、すでに準備の出来た料理を目で示してくれた。
アリサは、すぐに引き返して王族の待つダイニングルームへと入る。国王陛下と、客人はすでに着席しており、給仕長から飲み物を渡されている所だった。
ふっと、陛下と共に現れた客人の後ろ姿を見て、アリサは恐怖に凍り付く。
昨日、森で遭遇したばかりの、あの騎士団長がそこにいたからである。
(ど、ど、どうしてっ、騎士団長様がそんなところにっ!)
再び、悪運体質が爆走している。城に勤め始めて三ヶ月。一度もエンカウントせずにいた騎士団長が、今日、よりにもよって、王族のダイニングにいるのだ。
「リュミエール、遠慮せずに好きなだけ飲め」
「ありがとうございます。陛下」
彼の答えは武人らしく、簡素で無骨だったが、アリサの心臓はバクバクと音を立てる。
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