騎士団長様、どうか勘弁してください~普通の侍女なのに、どうして騎士団に入団しないといけないんですかっ?! ~

中村まり

文字の大きさ
5 / 10

幸運と見せかけた悪運

しおりを挟む
「アリサ、今日は少し違うお仕事についていただきます」

素晴らしい森の実りを持ち帰った日の翌日、アリサは上司にあたる上級侍女から新しい仕事を申しつかっていた。

「はい、なんでもやります!」

やる気満々なアリサを見て、上級侍女は笑う。

「昨日、貴女が摘んできた森の木の実や果物は素晴らしかったと料理長からお褒めのお言葉をいただきました。よくやったわね、アリサ。女官長様もお喜びになっていたわ」

「よかった。それを教えていただけて、私もすごく嬉しいです」

張り切るアリサに、今日、与えられた仕事は、なんと王族の食事のお手伝いだと言う。

「今日はたまたま、いつもの従者がお休みでね。そういう時に限って、お昼にもう一人、特別なお客様がお昼ご飯にお越しいただくことになってしまって、人手が足りなくなってしまったそうよ。だから、貴女には給仕長と料理場のつなぎをお願いしたいのよ」

他の侍女たちは、皆、それぞれの仕事で忙しく、アリサしか手が空いていなかった、という訳だ。

けれども、せっかく掴んだ上級侍女のお仕事。これもこなしてがんばるぞ、と拳を握るアリサに、上級侍女はこともなげに笑う。

「アリサの大好きなレティ様にも会えるわよ。よかったわね、アリサ」

上司はアリサのツボを大変よく心得ていらっしゃるのだ。

「えええっ、本当ですか?!」

アリサの頬は一気に緩み、デレデレとした笑顔が顔に浮かぶ。レティ様と言うのは、アリサの憧れの姫様のことである。

そうして、大喜びでやって来たのは王族のダイニングルーム。扉の前に立っているのは給仕長だ。

彼に挨拶をすると、軽く頷いてくれた。

「今日は、ダイアンが休みだから助かったよ。急におひとりお客様が増えてきたのもあってね」

給仕長は基本的には自分の指示に従ってくれればいいと言う。王族にお料理を出すのは主に上級の従僕の役割なので、アリサは厨房と給仕の連絡係である。

「では、まず中でお待ちしましょう」

給仕長に続いて部屋の中で待っていると、王族が順に姿を現した。一番最初に姿を現したのは、5才の王子様とその従者。そして、王妃様と第一王子様が続いて来た。

「あら、レティがまだなのね」

王妃が呟くと、王妃付きの侍女が、すぐにいらっしゃいますと言う。

正直に言おう。今のアリサは幸福の絶頂にいる。

憧れの、夢にまで見た王妃様に王子様たち。

フィリッツ殿下、5才。見るからに王子様とした容貌で、正統派美少年!

もちろん、王族には次期国王と呼ばれる王子様もいる。アンドレア王子、御年25才。

そして、極めつけは! ついにアリサの一押しであるレティ姫の登場である。

王族由来の光輝く金の髪に、淡い紫色の瞳をもつ、それはそれは美しい姫様であり、何より、優雅な物腰や上品な仕草が素晴らしい、わが国を誇る箱入りの姫様なのだ。

いつも遠くからしか、そのご尊顔を拝見できないが、今日は、目の前に生レティ様が!!!!

そして、厨房のスタッフが運んできた料理を室内の給仕たちにつなげるのが、今日のアリサの仕事である。

「あれ?今日は見慣れない人がいるね?」

とてもとても可愛らしい5歳児が、アリサを見つけると、王妃様もレティ様も一斉にアリサに視線を向けた。

その時のアリサは、さらなる幸福感に包まれ、もうこのまま死んでもいいかも、と思ってしまったのだ。

遠くで眺めているだけの生レティ様が私を見ている!

「こちらは、アリサと申します。ダイアンが休暇ですので、代わりに呼びました。お見知りおきくださいませ」

給仕長の後ろでアリサもペコリと礼をとった。王妃様と生レティ様は、軽く会釈してくれ、王子様はよろしくね、といい、軽く口元を綻ばせる。その可愛らしさと言ったら!

アリサも丁寧にお辞儀して見せたが、萌え落ちそうなほどだ。鼻血を出さなかっただけ、自分は偉いと思う。

そして、王妃様の一言で、全てが始まった。

「陛下は少し遅れるので、先に始めていてくれとのことでした」

給仕長がすっと頷き、そして、全てが流れるように進み始める。食前酒に始まり、スープ、前菜などが進む中、二つの席はまだ空いたままだ。

国王ともう一人の客人の席。誰が客人として招かれているのか、アリサには全く分からなかったが、王族が先に食事を始めているということは、きっと、王族より位の低い人なのだろう。

「アリサ、そろそろ陛下とご客人がいらっしゃる。料理長に早く陛下のお食事をと伝えてくれ」

壁際に立つ給仕長に、そっと耳打ちされたので、アリサはダイニングを出て急いで厨房に向かった。

「国王様と、お客様がもうすぐ到着された所よ。急いで、スープと前菜をお願い」

料理長は頷いて、すでに準備の出来た料理を目で示してくれた。

アリサは、すぐに引き返して王族の待つダイニングルームへと入る。国王陛下と、客人はすでに着席しており、給仕長から飲み物を渡されている所だった。

ふっと、陛下と共に現れた客人の後ろ姿を見て、アリサは恐怖に凍り付く。

昨日、森で遭遇したばかりの、あの騎士団長がそこにいたからである。

(ど、ど、どうしてっ、騎士団長様がそんなところにっ!)

再び、悪運体質が爆走している。城に勤め始めて三ヶ月。一度もエンカウントせずにいた騎士団長が、今日、よりにもよって、王族のダイニングにいるのだ。

「リュミエール、遠慮せずに好きなだけ飲め」

「ありがとうございます。陛下」

彼の答えは武人らしく、簡素で無骨だったが、アリサの心臓はバクバクと音を立てる。

……うう、見つかりませんように。

アリサは神に祈りながら、そっと、騎士団長の真後ろに立った。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です→2月15日からはランダム更新となります。ご了承ください

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない

ちぱ
恋愛
異世界に転生した元大学生のセレナは、病弱な伯爵令嬢として第二の人生を歩むことに。 もう目立ちたくない。結婚も社交もごめん。 ひっそりスローライフを送るはずが──なぜか王太子の夢に出ていたらしく、彼の執着対象に!? 平穏を望むモブ令嬢の、溺愛され系異世界ライフ。 小説家になろうにも投稿しています。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

処理中です...