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その果実は私が摘んだんですけどね!
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今、アリサの前では、食事の儀式が恭しく流れるように進行している。
さすが王族にかしずく一流の従者たちである。
前菜、葡萄酒、メインと流れるように進行してゆき、後はデザートまで来た所だ。アリサは、部屋の外に控えている従者にデザートを持ってくるように伝えてしまうと、もうアリサの仕事はそれで終わりだ。
せめて、ここから出る口実があればいいのだが、王族が食事中に従者が退席することは大変失礼な行為になるので出るに出られない。
幸いにも騎士団長様は、従者の中でも一番したの使いっ走りの侍女に視線は一切向けず、ひたすら目の前の国王陛下と色々な話をしてた。
(騎士団長様、わたくしのことをずっと無視してくださってありがとうございます。そう、私は空気! 空気なんです! どこにいてもひっそりと目立たない無色透明の存在ですから)
アリサはできるだけ、目立たないように、自分は空気、空気なんだと心の中で言い聞かせ、ひたすら自分の気配を殺して、そうっと騎士団長様の真後ろに立つ。
彼の背後に立てば、彼の目につくことはまずないはず。
(よっしゃ。団長様の背後ゲット!)
心の中で少しガッツポーズを取り、ここなら絶対に彼の目に留まることはないと安堵した。
ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、王族たちのテーブル越しの会話を聞く余裕ができた。しかし、それを聞いて、アリサはさらに血が凍るような恐怖を感じたのである。
それは、ふと会話が途切れた時に、国王陛下が思い出したようにふと放った言葉のせいだった。
「そういえば、リュミエール、昨日、ドラゴンと遭遇したと聞いたが?」
ちょうどその時、食後のお茶がテーブルの上に乗せられた時だった。上級の従者が差し出したお茶を、騎士団長様も受け取ったすぐ後のことだ。
まさか、まさか、私のことがばれた?!
アリサがぎくりと身を固くしてじっと冷や汗をかいていると、アリサの目の前で座っている騎士団長が悔しそうに口を開く。
「残念ながらとり逃がしました。火竜と遭遇することは滅多にないチャンスだったのですが」
彼の男らしい肩が少し落ちたような気がする。背後からでも麗しの騎士団長様が、がっくりと項垂れているのがよくわかる。
そんな彼を慰めるように、国王が口を開く。
「まあ、そういう時もあるさ。気に病むな。リュミエール。それで、ドラゴンの代わりに、森で奇妙な娘と出会ったと聞いたが?」
「はい、ドラゴンが倒れていたと思しき場所に娘が一人立っていまして」
……もう帰りたい。泣きそうになりながらも、アリサはぐっと涙をこらえた。
そして、その間も二人の会話は続いていた。アリサの胸はドキドキと音を立てて、床を見つめながら、ひたすら気配を消すしかない。
国王が少し顔を歪める。
「それは面妖だな。魔女なのではないのか?」
(違います!)
アリサは心の中で大きく声を上げて、反論したが、悲しいことに彼女の心の声は絶対に国王には届かないのであった。いや、届いたら困るのだけど。
ちょうどその時、部屋の別の従者がデザートをもって現れた。
(ああ、神様、どうもありがとう!)
救いの神に感謝しながら、デザートが出てきたことで話題が変わるのでは!とアリサが期待したのだが、そのデザートの皿を見た瞬間、アリサはさらに絶望のどん底に突き落とされた。
ふんわりしたケーキの横に添えられたクリームとベリーのソース。
それを見た瞬間、アリサはすぐに悟った。ケーキに添えられたいた赤い果実のソースは、昨日、団長と遭遇する前に、アリサがせっせと摘み取った実を煮詰めて作られたものだ。
一瞬、会話は止まり、騎士団長は綺麗な仕草で、ケーキにナイフを入れ、赤い実のソースをたっぷりと付け、口に運ぶと、うまいなと小さく呟いた。
国王も、ソースが絶品だったようで、一口食べて、うなるように言う。
「うまいな」
「さように」
「まあ、お二人とも滅多に甘いものは口になさらないのに」
王妃様がおっとりと言うと、国王は口元に薄い笑みを浮かべる。
「難問が続くと、たまには甘いものも食べたくなるものなのだよ。そうであろう、リュミエール?」
「ええ。その通りです。陛下」
陛下は口元についた赤い実のソースを丁寧に拭いながら言う。
「しかし、ドラゴンをとり逃がしたことは実に痛手だったな」
「千積一偶のチャンスを逃すとは、口惜しい限りです」
やっぱり、話題はドラゴンのままだ。アリサは、このまま国王が立ち上がり、その娘を捕らえよ!と叫んだら、どうしよう……。
「まあ、そんなに大事なことがありましたの?」
王妃様がおっとりと言うと、騎士団長は静かに頷き、口惜しそうな声で話すのをアリサはいたたまれない思いでじっと聞いていた。
「ドラゴンをしとめる貴重な機会を、どこかの村娘に邪魔されてしまったのです」
一瞬、騎士団長が口惜しそうに下を向くのをアリサはまじまじと見つめていた。
わたしだって……。
アリサはしょんぼりしながら、再び床を見つめた。
自分だって、そんなことになるって知っていたら、あんな所には行かなかった。
ドラゴンがあんな風になるって知ってたら、水なんかあげなかったと思う。麗しの騎士団長様のメンツをこんな風に潰すつもりなんて、微塵もなかったのに。
どうして、自分はこうも不運体質なのだろう。
何かの不運に巻き込まれる度に、周りにいる沢山の人に迷惑をかけて、困らせて。
けれども、絶対に自分から進んでトラブルを作っている訳じゃないのだ。
「で、どんな感じの娘だったのだ?」
国王が興味津々な様子で尋ねる。
「見たところ、ごく普通の村娘のようでした。森の木の実を摘みに来たのでしょう。籠の中にははちきれんばかりの果実が入っておりました」
あああ、もう!
アリサはもうやけっぱちになりながら、そっと心の中で一人毒づく。
(その果実のソースを、今、お二人ともお召し上がりになっていらっしゃってるのですわ!)
さすが王族にかしずく一流の従者たちである。
前菜、葡萄酒、メインと流れるように進行してゆき、後はデザートまで来た所だ。アリサは、部屋の外に控えている従者にデザートを持ってくるように伝えてしまうと、もうアリサの仕事はそれで終わりだ。
せめて、ここから出る口実があればいいのだが、王族が食事中に従者が退席することは大変失礼な行為になるので出るに出られない。
幸いにも騎士団長様は、従者の中でも一番したの使いっ走りの侍女に視線は一切向けず、ひたすら目の前の国王陛下と色々な話をしてた。
(騎士団長様、わたくしのことをずっと無視してくださってありがとうございます。そう、私は空気! 空気なんです! どこにいてもひっそりと目立たない無色透明の存在ですから)
アリサはできるだけ、目立たないように、自分は空気、空気なんだと心の中で言い聞かせ、ひたすら自分の気配を殺して、そうっと騎士団長様の真後ろに立つ。
彼の背後に立てば、彼の目につくことはまずないはず。
(よっしゃ。団長様の背後ゲット!)
心の中で少しガッツポーズを取り、ここなら絶対に彼の目に留まることはないと安堵した。
ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、王族たちのテーブル越しの会話を聞く余裕ができた。しかし、それを聞いて、アリサはさらに血が凍るような恐怖を感じたのである。
それは、ふと会話が途切れた時に、国王陛下が思い出したようにふと放った言葉のせいだった。
「そういえば、リュミエール、昨日、ドラゴンと遭遇したと聞いたが?」
ちょうどその時、食後のお茶がテーブルの上に乗せられた時だった。上級の従者が差し出したお茶を、騎士団長様も受け取ったすぐ後のことだ。
まさか、まさか、私のことがばれた?!
アリサがぎくりと身を固くしてじっと冷や汗をかいていると、アリサの目の前で座っている騎士団長が悔しそうに口を開く。
「残念ながらとり逃がしました。火竜と遭遇することは滅多にないチャンスだったのですが」
彼の男らしい肩が少し落ちたような気がする。背後からでも麗しの騎士団長様が、がっくりと項垂れているのがよくわかる。
そんな彼を慰めるように、国王が口を開く。
「まあ、そういう時もあるさ。気に病むな。リュミエール。それで、ドラゴンの代わりに、森で奇妙な娘と出会ったと聞いたが?」
「はい、ドラゴンが倒れていたと思しき場所に娘が一人立っていまして」
……もう帰りたい。泣きそうになりながらも、アリサはぐっと涙をこらえた。
そして、その間も二人の会話は続いていた。アリサの胸はドキドキと音を立てて、床を見つめながら、ひたすら気配を消すしかない。
国王が少し顔を歪める。
「それは面妖だな。魔女なのではないのか?」
(違います!)
アリサは心の中で大きく声を上げて、反論したが、悲しいことに彼女の心の声は絶対に国王には届かないのであった。いや、届いたら困るのだけど。
ちょうどその時、部屋の別の従者がデザートをもって現れた。
(ああ、神様、どうもありがとう!)
救いの神に感謝しながら、デザートが出てきたことで話題が変わるのでは!とアリサが期待したのだが、そのデザートの皿を見た瞬間、アリサはさらに絶望のどん底に突き落とされた。
ふんわりしたケーキの横に添えられたクリームとベリーのソース。
それを見た瞬間、アリサはすぐに悟った。ケーキに添えられたいた赤い果実のソースは、昨日、団長と遭遇する前に、アリサがせっせと摘み取った実を煮詰めて作られたものだ。
一瞬、会話は止まり、騎士団長は綺麗な仕草で、ケーキにナイフを入れ、赤い実のソースをたっぷりと付け、口に運ぶと、うまいなと小さく呟いた。
国王も、ソースが絶品だったようで、一口食べて、うなるように言う。
「うまいな」
「さように」
「まあ、お二人とも滅多に甘いものは口になさらないのに」
王妃様がおっとりと言うと、国王は口元に薄い笑みを浮かべる。
「難問が続くと、たまには甘いものも食べたくなるものなのだよ。そうであろう、リュミエール?」
「ええ。その通りです。陛下」
陛下は口元についた赤い実のソースを丁寧に拭いながら言う。
「しかし、ドラゴンをとり逃がしたことは実に痛手だったな」
「千積一偶のチャンスを逃すとは、口惜しい限りです」
やっぱり、話題はドラゴンのままだ。アリサは、このまま国王が立ち上がり、その娘を捕らえよ!と叫んだら、どうしよう……。
「まあ、そんなに大事なことがありましたの?」
王妃様がおっとりと言うと、騎士団長は静かに頷き、口惜しそうな声で話すのをアリサはいたたまれない思いでじっと聞いていた。
「ドラゴンをしとめる貴重な機会を、どこかの村娘に邪魔されてしまったのです」
一瞬、騎士団長が口惜しそうに下を向くのをアリサはまじまじと見つめていた。
わたしだって……。
アリサはしょんぼりしながら、再び床を見つめた。
自分だって、そんなことになるって知っていたら、あんな所には行かなかった。
ドラゴンがあんな風になるって知ってたら、水なんかあげなかったと思う。麗しの騎士団長様のメンツをこんな風に潰すつもりなんて、微塵もなかったのに。
どうして、自分はこうも不運体質なのだろう。
何かの不運に巻き込まれる度に、周りにいる沢山の人に迷惑をかけて、困らせて。
けれども、絶対に自分から進んでトラブルを作っている訳じゃないのだ。
「で、どんな感じの娘だったのだ?」
国王が興味津々な様子で尋ねる。
「見たところ、ごく普通の村娘のようでした。森の木の実を摘みに来たのでしょう。籠の中にははちきれんばかりの果実が入っておりました」
あああ、もう!
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