騎士団長様、どうか勘弁してください~普通の侍女なのに、どうして騎士団に入団しないといけないんですかっ?! ~

中村まり

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その果実は私が摘んだんですけどね!~2

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このソース、うまいな、と国王が呟き、再び、リュミエールに視線を向ける。

「このベリーのソース、大変、美味しゅうございますわ。陛下」

王妃の横では、憧れの生レティ様に天使のように愛らしいフレッツ殿下も、デザートに添えられたソースが気に入ったようで、せっせと美味しそうに口に運んでいる。その姿が愛らしくて、アリサは一瞬、でれっとしたが、また次に聞こえた会話で、再び背筋がひんやりしていたのである。

こんなに怖い思いをしたのはいつだったか……。お化けとか暗闇が苦手なアリサが、子供のころ故郷に所属する騎士達に肝試しと称して墓場に連れていかれて以来である。

国王はデザートを食べ終わり、再び厳しい表情に戻っていた。統治者たる国王の顔だ。

「それで、報告では、その娘は異常な力を使ったと聞くが」

「残念なことに気がはやった部下がその娘に火矢を放ったのですが、娘は炎を巧みに扱い、反撃に出たのです」

「なんと、それは誠か?!」

「はい。無攻撃の村娘に火矢を放った部下は厳しい罰を申し付けました。我が部下ながら、そのような失態を許すことはできませんでしたので。その娘の扱う炎はすさまじかったのですが、誰一人怪我をしたものはいなかったのが幸いです」

「魔女でなければ、邪悪なものなのであろうか。死傷者が一人もでなかったという所を見ると、こちらに敵意はなかったと思うが」

「まだこれから詳しく調査してみなければなんとも言えないと思いますが」

まさか、城の誰もが、ドラゴンを打ち損ねた原因になった張本人が、騎士団長の真後ろに立っているとは思いもつかないはずだ。

その当事者だって、そんなことになるなんて考えてもみなかったんだから。

もう勘弁してくれ、とアリサはじりじりと続く会話にひたすら耐えていると、ようやく、話題は別のトピックに移っってくれた。辺境地の国境管理のなんとかかんとかだ。

アリサが、ほっとしてそっと胸を撫でおろしていると、ふと、どこからか視線を感じて、ぎくりと身を固くする。

アリサに視線を向けていたのは、フィリッツ殿下、御年5歳。

青く透けるような瞳に、淡い金色の髪をした殿下はまだ5歳ながらも神童として宮廷に名をはせている。

その殿下がまるでアリサの心を覗き込むような眼で自分を見ている。

その瞬間、ぞくり、と冷たい何かが背中を走る。

かわいらしい顔でアリサに向かって、彼はにっこりとほほ笑む。まるで天使のようなのに、その瞳はまさに悪魔のよう。

ごくりとアリサがつばを飲み込むと、つい、と殿下はアリサから視線を外して、食卓で会話している人々へと向かいあった。

(びっくりしたー。今の微笑み、すごくすっごくかわいらしくて天使みたいだったんだけど)

なんだか無茶苦茶意味ありげな視線だったので、ものすごく気になるものの、従者の一人が殿下に向かって気安く話しかけたり、目を合わせることすらいけないことだった。

そんなことをしたら後で、また女官長様にこっぴどく叱られる。また出来ない侍女ナンバーワンになることだけは絶対に避けたい)というか、そんな無礼な行為をすれば、さっさとクビになるだけだ。

アリサは、もう一度、おそるおそる、フィリッツ殿下に視線を向けたが、彼は今、騎士団長様の武勇伝を聞くことに夢中になっていて、従者などに目もくれていない。

(そうよね。殿下が私を見るなんてことありえないわ)

あんまり色々なことを怖がっていたから、気がささくれてるのかしら。

アリサは自分が壮大な勘違いをしていたような気がして、少し恥ずかしくなる。

そして、嬉しいことに、食事はもう終ろうとしていた。

「今日のお昼食は美味しかったですわ。それに、リュミエールも同席してくださったので、息子たちも喜んでおりますのよ」

「同席を許していただき、誠に光栄です。王妃様」

騎士団長が席を立った王妃の手を取ると、他の王族も一斉に席を立つ。

昼食は終わった。

もちろん従者たちは、全員が退出するまで見送らなければならない。

アリサも、侍女の一人として、スカートを広げ、王族の背中に向かって頭を垂れる。

そして、全員が退席した後、アリサは食器の片づけを手伝い、やっと一連の仕事は終わった。

(ああ、やっと終わったー。とりあえず、ヘマは一つもなかった)

今日は不運体質は、仕事するのを忘れたと見える。特に何かミスがあったこともなかったので、今日の出来はまずまずなのではないだろうか。

食事の後の片づけも終わり、アリサはほっとしながら自分の持ち場へ帰ろうとした時に、侍従長が姿を見せた。

みんなはっとして、女官はスカートを広げ、男の従者は胸に手をあて礼儀正しくお辞儀をする。侍従長はいわゆる、王宮の従者の一番上に立つ存在なのだ。

「みんな、今日もよい仕事をしてくれた。また明日もこの調子で仕事するように。では全員、次の持ち場へ移ってくれ」

お褒めの言葉をいただき、みんなが解散しようとした時、列の一番最後にいたアリサをふと、侍従長が呼び止めたのだ。

「ああ、アリサ、話があるから少し残ってくれ」

え? もしかして、あの件がばれていたのか?

ドキドキと震えながらアリサが侍従長の傍へ寄ると、侍従長はアリサを頭のてっぺんからつま先までじろじろと眺めた。

「……私についてきなさい」

これから、もしかして、尋問とかされるのだろうか。

アリサは恐怖に顔を引きつらせながら、言われた通り、侍従長の後に着く。

そして、連れてこられた先は、アリサが今まで入ることすらできなかった王族の居住区だった。

「あの、どのようなご用件でしょうか?」

消え入りそうな声で、震えながら訪ねるアリサに、侍従長は黙ってついてくるようにと指示するだけだった。

がくがくと足が震えてることを悟られないようにアリサは平穏を装って行った先は、王子たちがいる部屋の前だった。

「殿下、アリサをお連れしました」

侍従長が開いた扉の先には、なんとフィリッツ殿下がソファーに座ってアリサを待っていたのだ。

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