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~ 第一部 出版記念番外編 ~
小話~エスペランサが戻ってくる
読者様のリクエストに応えて、書籍化によりカットした部分を小話番外編として、アップします。
~フロルがまだ王宮にお勤めが決まってない頃のお話です~
王宮の馬屋。馬丁たちが、気もそぞろな様子で、馬屋の清掃に奔走していた。かなり長い間、遠征に行っていた馬たちが帰ってくる頃だからだ。
「おい、そろそろ、エスペランサが戻ってくる頃だぞ」
「ああ・・・憂鬱だな」
「俺も・・・あの馬が帰ってくると思うだけで、気が滅入る」
「・・・仕事辞めたい・・・」
ため息交じりにがっくりと肩を落とす馬丁たち。それもそのはず。エスペランサは気性が激しく、取り扱いがかなり難しいのだ。
「カイ、お前にエスペランサの世話は託したぞっ」
「え?また俺っすか?」
「そうだ。新米はエスペランサの担当と決まっている」
そう言われてカイは、他の馬丁よりもさらに深く肩を落とす。カイは、王宮の馬丁として働き始めてまだ日が浅いが、あの馬のことはよく知っている。
騎馬隊の隊長であるリード様の馬だけあって、戦では、飛ぶ鳥を落とす勢いで、リード騎士隊長と共に、なぎ倒すように敵を倒していくらしい。そんな馬だが、とにかく気が荒い、短い。その強さは騎士団の中でも有名だ。
「あの馬といれば、戦では千人力らしいが、普段の扱いがなあ・・・」
遠い目で馬屋を管理する管理長が遠い目をする。
「あいつは馬のくせに人を選ぶんだ。全く・・・」
「でもその馬に翻弄されっぱなしなのは誰ですかね?」
他の馬丁がからかうように言えば、管理長はため息交じりに呟く。
「踏みつけられないように気をつけろよ」
同情混じりの視線を向けられ、カイはまた一つため息をつく。
「俺・・・田舎の母さんに手紙書いておこうかな」
貯金がしてある場所とか、俺に何かあった時の連絡先とか、諸々。
「そうだ。お前に一つ言い忘れていたことがあった」
管理長が思い出したように言う言い方で、俺はなんだか悪い予感しかしない。そんな俺に、管理長は申し訳なさそうに言う。
「殿下の魔獣係がまた辞めたんだとよ・・・当分の世話は俺たち馬屋の人間がすることになった」
「あの危険な魔獣の管理を俺たちにやれと?!」
なんと言う罰ゲームだろうか。と、言うか、俺たち、罰ゲーしなきゃならないようなこと何もしていないよな?
「まじっすか?!」
年老いた馬丁も含めて、みんな涙目になる。
「な、なんで・・・なんで俺たちばっか・・・」
「俺、お勤め辞めようかな・・・・」
皆が口々に驚きの言葉を吐き出す。よかった・・・。俺、エスペランサの係で、とカイはほっと胸をなで下ろす。少なくとも、エスペランサは気性は激しいが、魔獣と違って、人を取って喰うようなことはしない。事故が起こってもせいぜい踏みつぶされるくらい・・・いや、踏みつぶされたってかなりの問題なんだが、それでも文字通り、頭から取って喰われることはない。
「それで・・・だ。魔獣担当を決めなきゃならんのだが・・・」
その瞬間、数名の馬丁が馬屋の外に猛ダッシュして逃走しようとした。どうしても名前を呼ばれたくないらしい。馬屋の戸に手を掛けた瞬間、そいつらは、悔しげな叫び声を上げた。
「くそ。外から鍵を掛けられたぞ!」
「ちくしょー。空かねえぇぇぇ」
「お前達、逃げようとしても無駄だ。見回り騎士に外からこっそり鍵を掛けてもらうように頼んだのは俺だ」
管理長が黒い笑みを浮かべて笑う。
「お、俺、辞表すぐに出します」
「俺もっ」
頑強な男達が悲鳴を上げるのを見て、カイは、誰にも見られないように顔を背けてほくそ笑んだ。・・・俺が魔獣担当になることはないだろう。何しろ、俺はすでにエスペランサの担当なんだからな。
「辞めることは許さん」
管理長が眼光するどく、俺たちを睨み付ければ、数人の男は、「ひっ」っと声にならない悲鳴を喉の奥で漏らす。漏らした奴が一人もいなかったのだけが、不幸中の幸いだろうか。
それでも、先輩の馬丁が即刻辞表を出すという反応を見て、俺は少し彼らが気の毒になった。それほど、魔獣担当は、凄惨な仕事なんだろうな・・・俺は、それが、全く他人ごとのように、その光景を眺めていた。まあ、実際、他人事なんだがな。
「まあ、まて。早まるな。すでに担当は決めてある。それはお前達ではない」
そいつらがほっと恐怖に引きつった顔を緩めるのを見た。じゃあ、その気の毒な奴は誰なんだろうな・・・
管理長と俺は一瞬目があった。そっと微笑む管理長の目は、同情を多分に含めた目で俺を見た。
まさか。まさか。おい、やめてくれ。
俺は自分を襲ってきそうな嫌な予感を感じた。もしかして、逃走するべきは俺だったのか?
「そうだ。言わなくてもわかったようだね。カイくん」
管理長は、言葉を一瞬とめて俺を見た。周りの奴らも俺のことを気の毒そうに見ているのがわかる。
「そう。魔獣担当は君にすることにしたよ。よろしく頼むな」
周りの奴らが不安で膨らんだ胸から、安堵のため息を盛大に吐いた音が聞こえた。
「な、なんで・・・なんで俺ばっか」
半泣きで悔し紛れに呟く俺に、管理長は申し訳ないと言わんばかりで言う。
「『エスペランサさえ扱えないような奴に、私の魔獣を任せる訳にはいかないよ』と、殿下が以前に仰っていたのを思い出してな。これは決定事項だよ。よろしくな、カイ」
死刑宣告にも似たその言葉を、俺はただ無言で頷くしかなかったのだ。
ああ・・・もうすぐエスペランサが帰ってくる。魔獣の世話もある。俺は胸で十字を切った。
魔獣は、魔道師長のライル様の下で管理されている。女人のようにライル様は美しく、膨大な魔力も相まって、彼に憧れている奴らも多いが、俺たちは、ライル様も気むずかしく、一癖あることも知っている。
あの方の下で働くのも大変そうだ。
エスペランサ、魔獣、それにライル様・・・・
難題続きの現実に面し、俺は、とにかく無事でいられますように、と、神様に祈るしかなかった。
~フロルがまだ王宮にお勤めが決まってない頃のお話です~
王宮の馬屋。馬丁たちが、気もそぞろな様子で、馬屋の清掃に奔走していた。かなり長い間、遠征に行っていた馬たちが帰ってくる頃だからだ。
「おい、そろそろ、エスペランサが戻ってくる頃だぞ」
「ああ・・・憂鬱だな」
「俺も・・・あの馬が帰ってくると思うだけで、気が滅入る」
「・・・仕事辞めたい・・・」
ため息交じりにがっくりと肩を落とす馬丁たち。それもそのはず。エスペランサは気性が激しく、取り扱いがかなり難しいのだ。
「カイ、お前にエスペランサの世話は託したぞっ」
「え?また俺っすか?」
「そうだ。新米はエスペランサの担当と決まっている」
そう言われてカイは、他の馬丁よりもさらに深く肩を落とす。カイは、王宮の馬丁として働き始めてまだ日が浅いが、あの馬のことはよく知っている。
騎馬隊の隊長であるリード様の馬だけあって、戦では、飛ぶ鳥を落とす勢いで、リード騎士隊長と共に、なぎ倒すように敵を倒していくらしい。そんな馬だが、とにかく気が荒い、短い。その強さは騎士団の中でも有名だ。
「あの馬といれば、戦では千人力らしいが、普段の扱いがなあ・・・」
遠い目で馬屋を管理する管理長が遠い目をする。
「あいつは馬のくせに人を選ぶんだ。全く・・・」
「でもその馬に翻弄されっぱなしなのは誰ですかね?」
他の馬丁がからかうように言えば、管理長はため息交じりに呟く。
「踏みつけられないように気をつけろよ」
同情混じりの視線を向けられ、カイはまた一つため息をつく。
「俺・・・田舎の母さんに手紙書いておこうかな」
貯金がしてある場所とか、俺に何かあった時の連絡先とか、諸々。
「そうだ。お前に一つ言い忘れていたことがあった」
管理長が思い出したように言う言い方で、俺はなんだか悪い予感しかしない。そんな俺に、管理長は申し訳なさそうに言う。
「殿下の魔獣係がまた辞めたんだとよ・・・当分の世話は俺たち馬屋の人間がすることになった」
「あの危険な魔獣の管理を俺たちにやれと?!」
なんと言う罰ゲームだろうか。と、言うか、俺たち、罰ゲーしなきゃならないようなこと何もしていないよな?
「まじっすか?!」
年老いた馬丁も含めて、みんな涙目になる。
「な、なんで・・・なんで俺たちばっか・・・」
「俺、お勤め辞めようかな・・・・」
皆が口々に驚きの言葉を吐き出す。よかった・・・。俺、エスペランサの係で、とカイはほっと胸をなで下ろす。少なくとも、エスペランサは気性は激しいが、魔獣と違って、人を取って喰うようなことはしない。事故が起こってもせいぜい踏みつぶされるくらい・・・いや、踏みつぶされたってかなりの問題なんだが、それでも文字通り、頭から取って喰われることはない。
「それで・・・だ。魔獣担当を決めなきゃならんのだが・・・」
その瞬間、数名の馬丁が馬屋の外に猛ダッシュして逃走しようとした。どうしても名前を呼ばれたくないらしい。馬屋の戸に手を掛けた瞬間、そいつらは、悔しげな叫び声を上げた。
「くそ。外から鍵を掛けられたぞ!」
「ちくしょー。空かねえぇぇぇ」
「お前達、逃げようとしても無駄だ。見回り騎士に外からこっそり鍵を掛けてもらうように頼んだのは俺だ」
管理長が黒い笑みを浮かべて笑う。
「お、俺、辞表すぐに出します」
「俺もっ」
頑強な男達が悲鳴を上げるのを見て、カイは、誰にも見られないように顔を背けてほくそ笑んだ。・・・俺が魔獣担当になることはないだろう。何しろ、俺はすでにエスペランサの担当なんだからな。
「辞めることは許さん」
管理長が眼光するどく、俺たちを睨み付ければ、数人の男は、「ひっ」っと声にならない悲鳴を喉の奥で漏らす。漏らした奴が一人もいなかったのだけが、不幸中の幸いだろうか。
それでも、先輩の馬丁が即刻辞表を出すという反応を見て、俺は少し彼らが気の毒になった。それほど、魔獣担当は、凄惨な仕事なんだろうな・・・俺は、それが、全く他人ごとのように、その光景を眺めていた。まあ、実際、他人事なんだがな。
「まあ、まて。早まるな。すでに担当は決めてある。それはお前達ではない」
そいつらがほっと恐怖に引きつった顔を緩めるのを見た。じゃあ、その気の毒な奴は誰なんだろうな・・・
管理長と俺は一瞬目があった。そっと微笑む管理長の目は、同情を多分に含めた目で俺を見た。
まさか。まさか。おい、やめてくれ。
俺は自分を襲ってきそうな嫌な予感を感じた。もしかして、逃走するべきは俺だったのか?
「そうだ。言わなくてもわかったようだね。カイくん」
管理長は、言葉を一瞬とめて俺を見た。周りの奴らも俺のことを気の毒そうに見ているのがわかる。
「そう。魔獣担当は君にすることにしたよ。よろしく頼むな」
周りの奴らが不安で膨らんだ胸から、安堵のため息を盛大に吐いた音が聞こえた。
「な、なんで・・・なんで俺ばっか」
半泣きで悔し紛れに呟く俺に、管理長は申し訳ないと言わんばかりで言う。
「『エスペランサさえ扱えないような奴に、私の魔獣を任せる訳にはいかないよ』と、殿下が以前に仰っていたのを思い出してな。これは決定事項だよ。よろしくな、カイ」
死刑宣告にも似たその言葉を、俺はただ無言で頷くしかなかったのだ。
ああ・・・もうすぐエスペランサが帰ってくる。魔獣の世話もある。俺は胸で十字を切った。
魔獣は、魔道師長のライル様の下で管理されている。女人のようにライル様は美しく、膨大な魔力も相まって、彼に憧れている奴らも多いが、俺たちは、ライル様も気むずかしく、一癖あることも知っている。
あの方の下で働くのも大変そうだ。
エスペランサ、魔獣、それにライル様・・・・
難題続きの現実に面し、俺は、とにかく無事でいられますように、と、神様に祈るしかなかった。
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