私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さくら

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 王都での“聖女再認定”から数日後――。
 あの日の光の奇跡は、瞬く間に国中へと広まり、私の名前は噂となって民の間を駆け巡った。
 “無能扱いされ追放された娘が、実は本物の聖女だった”――という、まるでおとぎ話のような話として。

 けれど、私にとってそれは復讐の物語ではなかった。
 あの日の涙も怒りも、もうとうに過去のものになっていた。
 ただ、リオネルの隣で生きている。それだけが、今の私のすべてだった。



 王都の大聖堂は、白い大理石の壁が朝の光を受けて輝いていた。
 私はその中央で、祈りの儀式を行っていた。
 老いた神官がひざまずき、神の名を唱える。
 広間に集まった民たちは静まり返り、私が掲げた両手の先に光が集まる。

「――癒しの光よ。傷ついた魂を、今こそ包み給え」

 柔らかな光が生まれ、頭上の天蓋を満たしていく。
 その光の下で、傷ついた者たちが安らぎの息をつき、微笑みを取り戻す。
 私はそのひとりひとりの顔を見ながら、ゆっくりと微笑んだ。

 ああ――これが、私の“聖女”としての生き方なんだ。



 儀式を終えて大聖堂の裏庭に出ると、リオネルが待っていた。
 鎧ではなく、淡いグレーの服を着ていて、少し見慣れない姿だった。

「ご苦労さん。今日もすごい人だな」

「ふふ……皆、まだ私を“奇跡の聖女”だなんて呼んでますけど、そんな立派なものじゃありませんよ」

「奇跡ってのは、誰かが誰かを救いたいと思ったときに起きるもんだ。おまえはそれを毎日やってる」

 彼の言葉に、胸の奥がふわりと温かくなった。
 風が花壇の花を揺らし、金色の花弁が舞う。

「……リオネルさん。私、村に戻ろうと思います」

「戻る?」

「はい。あの村が、私の最初の場所だから。聖女としてじゃなく、“ミリア”として生きていきたいんです」

 リオネルはしばらく黙っていた。
 やがて、穏やかな笑みを浮かべて言った。

「そうか。……なら、俺も一緒に行く」

「え?」

「護衛だからな」

「ふふっ、それはもう護衛じゃなくて……」

「なんだ?」

「相棒、です」

 その言葉に、リオネルが笑った。
 その笑顔が、朝日よりまぶしかった。



 数日後、再び村の丘を越える道。
 私たちは馬車の上で並んで座っていた。
 遠くに見える花畑は、あの日と同じように風に揺れている。

「懐かしいな」

「はい……。ここで初めて、自分の光を見ました」

「そして、俺は初めて“聖女”に出会った」

 リオネルの言葉に、頬が熱くなる。
 彼は少しだけ真面目な顔で続けた。

「ミリア。これからどんなことがあっても、おまえが迷わない限り、俺はずっと隣にいる」

「……はい。私も、あなたを照らし続けます」

 ふたりの視線が交わる。
 ネックレスの中の光が、やわらかく瞬いた。
 それは誓いの証のように、淡い金色を放つ。



 村に戻ると、人々が温かく迎えてくれた。
 子どもたちが駆け寄り、花を抱えて私に差し出す。
 その中に、前に冠をくれた少女がいた。

「お姉ちゃん、帰ってきた!」

「うん、ただいま」

 私は少女を抱きしめ、村の空を見上げた。
 青く澄んだ空。どこまでも広がる平和な景色。
 その中で、リオネルが穏やかに笑っている。

「ようやく落ち着いたな」

「はい。これからは、静かに暮らしていきたいです」

「それでも、時々は王都に呼ばれるぞ。聖女殿」

「ふふっ……そのときは、護衛のリオネルさんを連れていきます」

「それなら安心だ」

 彼が微笑み、私も笑い返す。
 風が吹き、花々が揺れた。



 夕暮れ。
 丘の上に並んで座り、夕陽に染まる村を見下ろしていた。
 リオネルの肩に頭を預け、胸元の光に手を当てる。
 この世界で見つけた場所――私の“家”。

「……ありがとう、リオネルさん」

「何がだ?」

「あなたに会えたことが、私の一番の奇跡です」

 リオネルがゆっくりと笑う。

「それなら、これからも奇跡を続けていこう」

「ええ」

 私たちは手をつないだ。
 沈む夕陽がふたりを照らし、ネックレスの光がまた小さく脈を打つ。
 それはまるで、未来を祝福するように、やさしく温かく――。

 そして私は知っていた。
 もう“無能な聖女”ではない。
 誰かを救い、誰かに愛される“ただのミリア”として、この世界を生きていけるのだと。

 風がやさしく吹き抜け、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえた。
 私はそっと目を閉じ、微笑んだ。

 ――これは終わりではなく、幸せの始まり。

 “本物の聖女”としての、私の物語はまだ続いていく。
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