私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら

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 それから、いくつもの季節が過ぎた。
 あのとき花咲く丘に吹いていた春風は、やがて夏の熱を帯び、秋の穂を揺らし、冬には雪の香りを運んでくるようになった。
 時間は流れた。それでも村は変わらず穏やかで、私たちの日々も静かな幸福の中にあった。



 冬の朝。
 外はうっすらと雪が積もっていて、空気がひやりと冷たい。
 私は焚き火の前でミルクを温めながら、窓の外を見ていた。
 白い息がガラスに曇り、そこに指で小さな花を描く。

「寒くないか?」

 背後から声がして振り向くと、リオネルが毛皮のマントを肩に掛けて立っていた。
 髪に雪が少しだけ積もっていて、それが光に反射してきらきらと輝いている。

「平気です。……それより、髪が濡れてますよ」

「森の見回りに行ってきた。狼の足跡があったが、もう消えていた」

「今日も早いですね。さすが村の守り人さんです」

 笑いながら、彼のマントに付いた雪を払う。
 その指先を彼がそっと掴んだ。

「おまえこそ、冷えてるじゃないか」

 掌を包み込むように、リオネルが自分の手で私の手を温める。
 そのぬくもりに、心臓がふっと跳ねた。

「……これくらい大丈夫です」

「聖女が風邪をひいたら、国中が大騒ぎになる」

「もう、“聖女”なんて呼ばれたくないんですけどね」

 私が笑うと、彼も苦笑した。
 その顔が昔より少し柔らかくなった気がする。

「けど、誰もがあの夜のことを忘れちゃいない。あの光が国を救ったんだからな」

「光は……私じゃなくて、みんなの願いが生んだものです」

 私は小さく呟いた。
 リオネルが何かを言いかけて、ふと笑う。

「おまえはいつだって謙虚だな」

「そういう性格なんです」

「そこが、おまえのいいところだ」

 その言葉に頬が熱くなる。
 彼は私の髪に手を伸ばし、指先でそっと撫でた。

「……もう少ししたら雪が止む。散歩に出よう」

「はい」

 その返事に、胸の奥があたたかくなった。



 昼過ぎには雪がやみ、村は柔らかな光に包まれた。
 屋根の上からぽたりぽたりと雪解け水が落ち、地面には小さな水たまりができている。
 私は毛糸のマントを羽織り、リオネルと並んで丘へ向かった。

 雪の下からは、春を待つ草の緑が少しだけ顔を出していた。
 空気は冷たいのに、太陽の光があたたかい。

「この季節の匂い、好きなんです。冬と春の境目みたいで」

「ああ。新しい始まりの匂いだ」

 リオネルが頷く。
 そして、歩きながら不意に言った。

「ミリア。……この村に教会を建てたい」

「教会を?」

「おまえの力を、もっと多くの人に届けるために。王都まで来られない人でも、ここに来れば癒しを受けられるように」

 その提案に、胸が熱くなった。

「でも……そんな大きなこと、私にできるでしょうか」

「できる。おまえだからこそできる」

 彼の瞳は真剣だった。
 風に銀の髪が揺れ、その中で彼の声がやわらかく響く。

「俺が守る。おまえは祈りを。ふたりでなら、どんな場所にも光を灯せる」

 その言葉に、涙があふれそうになった。
 私は手袋越しに、そっと彼の手を握る。

「……はい。リオネルさんと一緒なら、どんなことだってできます」

「よし。じゃあ決まりだな」

 彼が笑い、私も笑った。
 冬の空気の中に、小さな春の気配が混じったように感じた。



 数ヶ月後。
 丘の上に、白い石造りの小さな教会が完成した。
 鐘の音が鳴り響き、村の人々が集まってくる。
 私は祭壇の前に立ち、祈りの言葉を口にした。

「この光が、誰かの痛みを癒やしますように。
 この場所が、誰かの心を支えますように――」

 祈りの途中で、胸元のネックレスが淡く光った。
 光はやがて教会全体を包み、ステンドグラスを透かして虹色の光が床に落ちた。
 人々が歓声を上げる。
 その光景を見ながら、私は胸の中でそっと呟いた。

 ――ありがとう、この世界。

 リオネルが隣で微笑み、私の手を取る。
 その手のぬくもりは、あの日と変わらず優しい。

「おまえの光は、まだ終わらないな」

「終わりませんよ。だって、これからも一緒に灯していくんですから」

 外では、春の風が花の香りを運んでいた。
 青い空の下、教会の鐘が再び鳴る。

 それは祝福の音。
 “聖女”と“騎士”の物語が、確かに続いていることを告げる鐘の音だった。

 丘の上の花が揺れ、光が世界を包み込む。
 そして私は祈る。

 ――この光が、永遠に誰かを照らし続けますように。

 リオネルの手を強く握りながら、私は微笑んだ。
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