私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら

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 あれからさらに三年の時が過ぎた。
 春は再びこの地に訪れ、丘を覆う白い花々が一斉に咲き誇っている。
 村の上空には澄んだ風が流れ、教会の鐘がやさしく響いていた。

 私はその教会の扉を開き、朝の光に包まれる。
 ステンドグラスから差し込む虹の光が、床に淡く映って揺れていた。
 花の香り、古い木の匂い、子どもたちの笑い声――この場所が、もう私の世界のすべてになっていた。



 祭壇の横には、リオネルの姿がある。
 彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、手にした聖典を読み上げていた。
 騎士として鍛えられた背筋のまま、しかし声は柔らかく、どんな人の心も静めるような温かさがあった。

「……光は人の中にある。
 恐れを抱くとき、それは見えなくなる。
 だが希望を信じれば、再び灯る――」

 子どもたちが息を潜めて聞いている。
 私は祭壇の脇からその光景を見守りながら、胸の奥で静かに微笑んだ。

 ――リオネルは変わらない。
 戦士でありながら、誰よりも優しい。
 その優しさが、この村を、そして私を包み続けている。



 礼拝が終わると、人々が次々と教会を出ていった。
 外の光が差し込み、空気が春の色を帯びている。
 私は最後の子どもを見送り、扉を閉めた。

「今日もたくさん来てくれましたね」

「ああ。おまえの光を求めて、隣村からも人が来てるらしい」

「そんな……。私はただ、祈っているだけですよ」

「それで十分だ。おまえが祈るだけで、人は救われる」

 リオネルが微笑みながら言った。
 私は頬を染めて、少しだけ視線を逸らした。

「……そんなに褒めても、何も出ませんよ」

「いや、出るさ」

「え?」

 リオネルがゆっくりと近づいてくる。
 彼の影が私の足元に重なり、顔がすぐ目の前にあった。

「こうして、おまえが笑ってくれる。それが報いだ」

 心臓が跳ねた。
 その距離の近さに、思わず息を止めてしまう。

「……リオネルさん」

「なんだ」

「ずるいです」

「そうか?」

「そんなふうに言われたら……また好きになっちゃいます」

 言った瞬間、彼の目が少しだけ驚いたように見開かれ、すぐにやわらかく細まった。

「なら、何度でも言うさ」

 その言葉のあと、彼の手が私の頬を包む。
 そして、ためらいのない口づけが落ちた。
 光の中で、時間が止まる。



 唇が離れたあとも、心臓の鼓動が止まらなかった。
 彼の額が私の額に触れ、互いの呼吸が混じる。

「……ミリア。おまえが来てから、この世界が優しくなった」

「そんなことありません。優しくしたのは、みんなです。リオネルも」

「いや。おまえが、俺たちを変えた」

 私は小さく首を振り、笑った。

「なら、これからも変えていきましょう。あなたと、皆と一緒に」

 彼の手が、私の手を強く握る。
 そのぬくもりに、もう言葉はいらなかった。



 教会を出ると、丘の上には一面の花畑が広がっていた。
 春風が吹き、花びらが光の粒のように舞い上がる。
 その光景の中で、村の子どもたちが笑いながら走り回っていた。

「ミリア先生! お花、咲いたよ!」

「本当? みんなで摘んで花冠を作ろうか」

「やったー!」

 笑い声が響く。
 リオネルがその後ろから歩いてきて、私の横に立った。

「賑やかだな」

「ええ。にぎやかなの、大好きです」

 風が吹き抜ける。
 遠くの空には、白い鳥が群れを成して飛んでいた。

「……あの日の私が見たら、信じられないでしょうね」

「どんな日だ?」

「“無能”と呼ばれ、ひとりぼっちだった日です」

 リオネルが静かに笑った。

「その“無能な娘”が、今はこの国で一番尊敬されている。運命とは、面白いものだな」

「運命なんかじゃないですよ」

「ん?」

「あなたと出会えたから、今があるんです」

 その言葉に、リオネルは少しだけ黙り、やがて穏やかに言った。

「……それを聞けただけで、生きてきた甲斐がある」

 私は笑って首を振る。

「そんな大げさな」

「いや、本気だ」

 彼のまなざしが、どこまでも優しく私を包む。
 胸の奥がじんと熱くなり、言葉が出なかった。



 太陽がゆっくりと傾き、空が茜色に染まる。
 花畑が夕陽に照らされて、黄金の海のように揺れていた。
 私はその中で立ち止まり、胸のネックレスをそっと握った。
 中の光が、静かに脈を打つ。

「この光も、もうずっと一緒ですね」

「ああ。おまえの命と共にある。……俺もな」

 リオネルが隣で笑う。
 その声が風に溶け、花々が揺れる音と混ざり合った。

「……ねぇ、リオネルさん」

「なんだ」

「この世界って、やっぱり素敵ですね」

「ああ。おまえがいる限り、ずっとな」

 私は彼に寄り添い、花畑の向こうに沈む太陽を見つめた。
 その光が世界を包み、ふたりの影をやさしく重ねていく。

 ――光は消えない。
 どんな夜が来ても、どんな嵐が訪れても。

 それは、愛する人と共に歩む限り永遠に続いていく。

 私は微笑みながら、静かに目を閉じた。
 リオネルの手を握り、風の中で祈る。

 ――この幸せが、永遠に誰かを照らしますように。

 丘の花が光を帯び、空の星が瞬き始めた。
 やがて夜が訪れても、そこには確かにひとつの光が残り続けていた。

 それは、愛と祈りが織り成す小さな永遠。
 “聖女ミリア”と“騎士リオネル”の物語が紡いだ、
 この世界でいちばん優しい光だった。
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