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蜂蜜と王子さま
#4
しおりを挟む教室から出ると廊下には玲王くんが本を読んでいて、私に気づくとパッと花が咲いたように笑顔で迎えてくれた。
「蜜璃ちゃん、お疲れ様。良かったら僕と帰らない?」
「み、蜜璃……、ごめんね! 私、職員室に用があって。王子と一緒に帰って!」
「うん」
「ごめんね、恵さん」
「いえ! 蜜璃のことよろしくお願いします!!」
「大丈夫。ちゃんと守るよ」
そう言って朝と同じように私を抱き上げる玲王くんに、私は急なことに驚いてて、頭にたくさんの“?”を浮かべた。
「玲王くん! 私、歩けるよ!?」
「ダメだよ。また大きな犬襲われたどうするの」
「うっ! ……ごめんね」
「ごめんねじゃなくて、ありがとうが良いな」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
そうして、また生徒玄関では玲王くんが私の上履きを靴に履き替えてくれて、いつもの通学路を歩き出した。
「ねぇ、蜜璃ちゃん。僕の家に海外の有名店から取り寄せたケーキがあるんだ。良かったら食べに来ない?」
海外から取り寄せたケーキ!?
「食べたい!」
「あはは! 良かった。じゃぁ僕の家に向かうね」
そう言って私が使っていた通学路から逸れると、しばらくして着いたのは豪邸だった。
その豪邸はとにかく大きく、各部屋にバルコニーがついてるような、どこが王城ぽい形をしていた。
しかも、庭も広いのだ。
玄関先から見える草花はどれもしっかり手入れされていて、とても鮮やかに家を着飾っている。
「玲王くんって本当に王子様なの……?」
「あはは、違うよ。まぁ、ただ親がお金持ちなだけ。王子じゃないけど、御曹司って言うのかな。だからストレスも多くて……。蜜璃ちゃんと話してると癒やされるんだ」
「ホント!? 良かった!」
私が嬉しそうにしていると、言った本人の玲王くんがポカンとしていた。
「……ほんとに良ったの?」
「うん! 優しい玲王くんの助けになれてるなら良かったよ。今日は朝も今も、送ってもらっちゃったから!」
「……どう、いたしまして。蜜璃ちゃんは可愛いね。じゃぁ、中に入るね」
「うん!」
可愛いと褒められて上機嫌になっていた私は、部屋が密室だということを忘れていた。
気付いたのは部屋のベットで座って待機することになってからで、ハッとした時には一階へと飲み物とケーキを取りに玲王くんは降りていた。
「男の人と密室になっちゃった……!!」
お父さんから気をつけるように言われてたのに!!
「で、でも、玲王くんだから大丈夫だよね!」
きっと、ケーキを食べて家まで送ってくれるだろう。
そう勝手に自己完結して、ほっと息を吐くと、イメージ通りな落ち着いた感じの部屋を見渡した。
そこで、ふとカーテンの掛かった棚があることに気づく。
男の子ぽい紺色や黒色で統一された部屋とは違い、レース状のカーテンには蜜蜂の絵が書かれている。
蜂《ハチ》さん……?
「なんの棚だろう?」
不思議に思った私はつい、棚に近づいてカーテンをめくってしまった。
そこにあったのは、アルバムに貼られた“私の写真”だった。
「…………はへ……?」
驚いて固まった私はいつの間にか戻っていた玲王くんが部屋の扉を開けて私を見ていた。
それにビクッと肩を跳ねさせて動けずにいた私に玲王くんはそっと入って来て、コップとケーキの乗ったお盆をテーブルに下ろす。
それから──、多分、……いや絶対に見られたくなかったであろう“モノ”を見て固まった私の様子に、玲王くんはただ静かに微笑んでいた。
「蜜璃ちゃん、見ちゃったんだね。勝手に見ちゃダメじゃない」
「ご、ごめんなさ……」
小さく謝ると、「怒ってないよ」と言った玲王くんは実際に笑みを口元にたたえたままで。
私の隣りに座って、背後の髪を一房手に取った。
「でも、琴莉ちゃんはこんな僕でも側にいてくれるよね? 朝、そんなんじゃないって言ったのに、僕の部屋までついてきてくれたんだし」
そう言って、細い指で髪を梳いて毛先を掴んだ玲王くん。
「大丈夫、何もしないよ。僕はただ蜜璃ちゃんの傍にいて、守りたいだけだから」
そっと髪にキスを零した玲王くんに、私の頭はキャパオーバーで思考が完全に止まった。
ふらっと倒れる私を玲王くんは素早く反応して支えてくれる。
「蜜璃ちゃん! 頭から湯気が!!」
「あ、甘いもの……」
「え、甘いものっ!? えっと、はいっ、ケーキ!!」
逆上せたようにくらくらする私に、玲王くんは慌てながら一口大のケーキを食べさせてくれる。
「蜜璃ちゃん、大丈夫!?」
「うん……」
どうやらこの紳士で優しい青年な玲王くんには、とてつもなく深い裏があるらしい──。
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