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第二章 6月
体育祭
しおりを挟む《ただいまより、第23回常盤高校体育祭を開催します──》
制服の衣替えが終わり、夏に入りかかった6月。
俺たちの学校では、一大イベントの体育祭が始まっていた。
「あぁー…暑いッ!!」
「あちぃー」
「リン、ミチ、うるせぇ」
窓が全開になっている教室で、俺たちは窓際の席を陣取って校庭を眺めていると、最初の競技に参加する男子たちが端の方に並んでいた。
「秋良が出んのって次の200だっけ?」
「あぁ」
「その後午前中最後の1500M走るってさ、以外とやる気あるよねぇ」
「お前がやる気なさ過ぎなんだよ。障害物一択って、もう一種目やれよ」
「なー。一種目だけなの男で凜人だけだぞー」
「良いんだよ。運動部に任せておけば。
それに、1Lのペットボトルを持って来てまで体育祭には出たくないよ」
頬づえを付いていた凜人が俺と道弘の机の上にある1Lのペットボトルを見て言った。
「だってよー。ふつうに過ごしてても喉乾くだろ」
「だからってそのまま持ってくる生徒なんて滅多にいないよ。せめて水筒に入れてきなよね」
「「めんどくせー」」
どうせ飲み切るんだし、わざわざ水筒に入れる必要はねぇよな。
_にしても、待ち時間が暇だな。
全然風が吹かねぇし、じっとしてるだけで体力が消耗していく感じがする。
「…………」
「秋良、寝るなー!」
「良く眠れるなぁ」
家帰って真依と瑠輝とお昼寝してぇ…。
_パァァン!!
「──ッくりしたぁー!」
「お、ついに始まったか」
始まったのか。
「……帰りてぇ……」
「結局、やる気失くしてんじゃん! 今日って真依ちゃんたち来ないの?」
「知らねー。平日だし保育園あるからな」
「あぁ、そっか」
「迎えでも良いから来て欲しいよなぁ」
「それねー。癒やされたいよぉ」
……俺の妹と弟なのに、なんでコイツ等はちょくちょく会おうとしてんだよ。
おかげで何かが減っていってる気がするんだよな。
「おぉ。紗《さえ》の奴、相変わらず足早ぇな」
「紗って壱晟の姉だよね、二番目の。さっきの一位でゴールした子がそう?」
「おう。バレーやってんだと」
「へぇ。さっぱりした感じいいね」
そういえば壱晟が前に言ってたな。
普段は良い感じにさっぱりしてるけど、喧嘩は過激的で強いって。
長女がレディースやってんの知ってるから冗談じゃねぇんだろうな……。
「今度話し掛けてみようかな」
「まーたリンの悪い癖出たなー」
「癖ってね。可愛い子と話したいのは男だったら当然の心理でしょ?」
「俺は女に興味ねーからなぁ」
「ミチは脳筋だもんねー」
……珍しいな。
「喧嘩すっか?」
「イイけど、ここで?」
はぁ……。
暑い中、ケンカするのを止めるのは疲れるんだが。
「面倒くせぇからケンカすんな。ミチ、面倒事起こさなきゃ別に良いってなったろ。
リンのは運命探しだからしょうがねぇんだよ」
「ねぇ、それバカにしてない? 気のせい?」
「してない、してない」
二つ返事で返すとリンは俺を見て頬を膨らませた。
「もー。ヒドイなぁ」
《連絡します。200M走出場者は集まって下さい》
「女子終わるの早くね?」
「そろそろ行く? 秋良」
校庭の様子を見て道弘が言うと、席から立ち上がった凜人が聞いてきた。
今の口喧嘩で仲が悪くなるわけなぇよな。
まぁ、絶対に何かの時に持ち出すだろうが。
「あぁ」
その時は傍観してれば良いか。
下の奴呼んで止めさせよう。
「はぁ……。真依は今ごろ何やってっかな」
家を出る時に見た来た保育園の制服姿の真依を思い出していた俺は、前を歩いている凜人と道弘がコソコソと話していたことに気がつかなかった。
ボソ「…アイツ重症かよ……」
ボソ「ばか、ミチ! 大きな声で言うなよ」
ボソ「分かってるって」
✽ ✽ ✽
「お疲れー!」
「お疲れさんー!」
「おぉ」
200Mは男子が先に走ることになり、俺は第三走者で走り終わった。
テントへ向う道を身体を解しながら歩く。
まだ走りたりねぇけど、準備運動にはなったな。
〈第三走者のタイムを発表します。
1位3組嶺川秋良さん、─秒─。2位1組──〉
待機テントに戻って来ると、休んでいた凜人にツッコまれる。
「秋良早いなぁ。なに本気出してるの?」
「んなもん、家でカッコつけたいからに決まってるだろ」
「……はぁ、ホントに真依ちゃんラブだねー。
再婚してからどんどん変わってきてて少し戸惑うよ」
「慣れろ」
「慣れろってね……」
大分変わったのは自分でも分かる。
けど、変わったと言うよりは──。
「オレ行ってくるわ」
200Mが終わる頃になると、今度はタイヤ運びの出場者が集めた。
「いってらー!」
「いってら」
道弘を見送ってから、俺は話しの続きをする。
「真依と紀子さんだったから変わったんだろうな」
あの二人だったから。
きっと他の子供や女性だったら俺は今でもやさぐれていた。
だから“変わった”と言うより“変えられた”。
真依の無邪気さと、紀子さんの根気強さに。
「紀子さんが再婚相手で良かったね」
「あぁ」
紀子さんにはこの会話、聞かせられないな。
恥ずかしすぎる…。
タイヤ運びは道弘とウェイトリフティングの奴等が活躍を見せ、3組は1位を獲得した。
お陰で総合も3組が圧倒的に勝ってるな。
普段の成績は中の下だけど、運動出来る奴等が多いクラスだからか、体育祭は圧勝出来そうだ。
タイヤ運びの授与が始まると、3組の代表として背の低い真面目そうな男がトロフィをもらった。
すると、他のメンバーがその男を胴上げし盛り上げる。
アイツ怖がってんじゃねぇか。
「脳筋どもめ……」
「…………」
そう言えば、胴上げされてる奴って凜人と仲良い奴だったな。
首席と次席で会話が盛り上がってどうのこうって。
すると凜人がサッと立ち上がり、校庭へと足を進めた。
胴上げの端にいる男たちがそれに気づくと、胴上げは中断され、背の低い男が開放される。
アイツ等、ご愁傷さまだな……。
それからしばらく、脳筋のバカどもは凜人に怒られることになった。
「──体育祭の進行止めてるし」
ふぁと欠伸をして、やっぱり3組は、問題児の集まりみたいだ、と他人事のように思っていた。
凜人の説教が終わると、直ぐに綱が用意され、その間に整列していた綱引きのメンバーが出場して来た。
その流れはやたらとスムーズで、凜人たちは先生に怒られることはなかった。
それぞれ散って行く様子を見ていると、聞き慣れた声が耳を貫く。
「お兄ちゃんいたー!」
──ん!?
「にぃーちゃー!」
はぁぁあ!?!?
──え、なんでここにいんだ!?
驚き過ぎて固まる俺に、遠くから手を振って走ってくる真依と瑠輝の姿。
良く見ると、後ろには大きなカバンを持った紀子さんが歩いて来ている。
「マジかよ……」
呆然としていると、真依が先に着き階段の上で跳ねながら言った。
「お兄ちゃん! きたのー!!」
「あ、あぁ。ゆっくり降りて来い」
「にぃーちゃ!」
あとから着いた瑠輝も同じようにその場で跳ねる。
なんだか楽しそうだ。
「瑠輝おいで!」
瑠輝も呼ぶと、最後の一段を飛び降りた真依が足に抱きついて来た。
「わー!」
ホントに真依が来たのか。
意外過ぎて現実味が湧かなかったわ。
「真依、良く来たな」
「うん! あのね、おかぁさんがね、おてつだいするならやすんでイイよっていったの!」
満面の笑顔で言う真依の頭を撫でると、逆の足に瑠輝が抱きついた。
「わーぃ!」
「瑠輝も来てくれたんだな」
俺はしゃがんで二人を抱きしめると、小さな手を回して真依も瑠輝も抱きしめ返して来た。
最っ高に癒やされるな。
思う存分抱きしめ合って身体を離すと、話したくてたまらなかったのか、真依が自慢げに話しをしだした。
「あのね、まいね、おにぎりつくったんだよ! あとねサンドイッチもつくったの!」
「おぉ、すごいな。俺の為につくってくれたのか?」
「うん!」
「ぼくもつくった!」
「瑠輝も真依もありがとうな。あとで一緒に食べような。」
「「うん!」」
二人の頭をクシャクシャと少し乱暴に撫でると、「きゃー!」と嫌々と仕草をしながらも、嬉しそうに叫びながらはしゃいでいた。
真依と瑠輝の手作り弁当、美味しんだろうな。
あー、お腹空いてきたわ。
「秋良くん。飲み物足りてる?」
「あぁ、大丈夫。二人連れて来たんだな」
「えぇ。もう真依が行くって言いだしたら瑠輝くんもごねだしちゃって。支度が出来そうにないから保育園休ませたわ。
おかげでお弁当作るが捗ったから良かったけど……」
「あはは。だいぶ押しが強くなってきたな」
「そうね。でもそれくらい成長してるって考えるとやっぱりダメね。何でも聞いて上げたくなっちゃうのよ」
「確かに」
クスクスと微笑む紀子さんに俺もつられて笑っていると、真依と瑠輝が凜人と道弘の姿を見つけたのか走り出した。
「あー! りっちゃんとみっちゃんだー!」
「わー!」
「あ、真依! 瑠輝! 校庭はダメだぞ!!」
慌てて叫ぶと、二人が迎えに行った凜人と道弘は直ぐ近くまで来ていたようで、捕まって抱き上げられていた。
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