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第3幕 求め継ぎし者たち

13 雅分家との試合

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 ただっぴろい道場でオレはいま、敷雅 孝しきが こうと対面している。

みやび血族けつぞくが分家、孝。
 我が血族の未来のため
 いざ尋常に参る!」

 対決である。
 組み手とか試合とか、対人競技に縁のなかった俺にとっては困惑でしかない。

 本家である古雅崎こがさきの家と縁を持たせない!とか言ってこの人は勝手にヒートアップしてる。

 資格があるかどうか試してくれるだそうだ。
 ・・・とっても迷惑な状況だぞ。

--------------------------------

 これは30分前に発せられたエヴァからの提案が原因である・・・・。

「三つ目の手段は、ふたりのこどもを作ること。
 異界化する地球でこれから先に生まれる二世はね、
 生まれつき異粒子適合者になる可能性が高いんだ。
 マウス実験の結果だけど」

「話がぶっとんでるぞ。
 今いる雅家の誰かに細胞適性の検査して適合者を作る実験を施せばいいだろ」

「残念だけど雅一族は薬剤によるマギオソーム細胞は受けつけられない結果だったんだ。
 霊樹血脈きよる耐性能力が外敵と認識してしまうようだった。
 これは彼女ら血族がこれまで異粒子中毒を起こしていない理由でもあるんだけどね」

「悠希君、エヴァの言うとおり
 血液検査ではすでに結果が出ているわ。
 確かに私たちは支給されてる抗体薬や中和剤を摂取する必要はなかったし、
 だから別の手段を模索する必要に迫られているの」

「おい、おまえからもこの手段に反発しろよ。
 そちらの人がすごい形相で俺を睨んでくるんだよ」

「・・・・おい貴様! 名鶴様に連れられて来られなければ敷居も跨ぐ事を許さぬ由緒正しきこの屋敷に!
 今度は令嬢を孕ますだの豪語するか!この不埒者め!!」

「違う! 俺は何も申してない!
 言ってるのはそっちのチビです!」

 ダメだこの人もう目がイってる・・・。

「んふふ、優秀なふたりだから凄い能力が期待できるかもな~」

「~~~!!
 貴様が優秀かどうか私が試してやる!
 そしておまえを成敗して役立たずにしてやるぞ!!・・・来い!」

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 と言うことで今にいたる。

「ぐぎぎぎぎぎぎ」

 この人、木刀を持っているが
 鬼気迫りすぎて、素人の俺にも殺気というものを感じれてしまう程だ。

 対して俺は、使いの者が倉庫から見つけてくれた子供用の赤いプラスチックバットを手にしている。

 いや、金属バットは危ないのはわかるけどさあ。
 木刀相手にコレはないでしょう。
 けど持ち慣れてないものはボロが出るからなあ。

 両者の間には古雅崎が立ち、二人の中央に向けて手を伸ばす。
 そこへはじめの合図がかけられる。

「それでは遥希君が私を孕ます資格があるかどうかの試験戦を行います」

「言い方!おいそこの女子!
 言い方かえろ!オマエ花の10代だろ!
 あいつの火に油を注ぐな!」

「ぐががががががあああ!」

 すでに人語をあきらめた様でもう会話が成立してくれない。
 この人もうダメだろ。

「はじめ!!!」

 しかたない、やるか。
 身体は全快してるわけではないが身体強化と異能はもう使える。

「ブーストトリガー、展開!」

 当主代理らしいが生身の人間に遅れをとることはない。

 意識速度を加速し、身体強化による高速運動を超感度でコントロールする。

 これで二人の訓練された現役のロシア部隊兵を倒したのだ。

 その場にかがみ地面を蹴って相手の左側に迫る。

 プラスチックだから死にはしないだろ。
 バッティングフォームに入り、バットをその額にお見舞いしてやる。

 左足を前に踏み込んだところで

ゴ・・・・・オ・・・オ・・・オォォ

 突然に風が伝わってきた。

 この高速世界で感じる・・・風?・・・これは

 等速状態ならとてつもない突風が吹いているのか?

 風は外からではない、敷雅から発せられている。

 クッ、厄介だ。

 身体が・・・上に持ち上がってしまう。

 これは、『揚力』だ。

 ジェット機の翼と同じ原理で
 この空圧の中での高速移動は上昇方向に身体が持ち上げられてしまう。

 足が・・・・踏ん張る事が出来ない。

 突進の速度が落ちる。空気の密度が厚いせいもあって前に進めない!

 まるで見えない壁に押し戻されてしまうっている俺は瞬時に方向を転換して距離をとる。

 大回りをして背後に回ることにした。

 敷雅は前方にむけて風を発していたようだ。
 どんな能力だ?
 仕組みは全くわからないが後方は無風に近い。

 背中に対して突進する。
 今度は上段の構えからの・・・・

 大根切り打法だ!

 カガッ!ゴッ!!!

「ぐあっ!!!」

 攻撃を喰らったの俺の方だった。

 ブーストは解かれて意識は等倍速度に戻る。

 木刀で腹を突かれ、顔にも一撃食らっていた。
 敷雅は振り返りながらこちらを向く。

「風子変性『雅流 迷虚風帰衝』。
 おまえ達の身体強化の事は把握済みである。
 が、突進だけの技かと思ったが状況判断が早くて驚いたぞ」

 こいつ・・・戦いが始まったとたん急に冷静沈着になりやがって。
 俺が風圧を避けることを予測して攻撃方向を絞っていたんだな。

 古雅崎が声をかけてくる。
「悠希君、孝を侮らないように。
 彼は分家の人間ではあるけど雅血族で師範代にあたる実力者よ。
 当主代理を任されるほどに技の練度が高い使い手よ」

ドッ!!

 あつっ!

 今度は熱い空気が発せられた。

『雅流 炎黒焦』

 とてつもない熱量が伝わってくる。

エヴァはこの能力の事を知っているらしい。
「んふふ、雅の変性術はやっぱりすごいねー。
 悠希、もうわかってると思うけど今のままじゃ君はこれに対処できないからね?」

 ・・・わかってる!

 この高温の中心地にもしも高速意識で入っていけばそれは感覚的に長時間に及ぶ灼熱の苦しみが待ちかまえている。
 それは耐えられない。いや、なんとか根性で我慢できるレベルか・・・?

 これは実際に熱いものではあるが何かを燃やしているワケではなく高熱が起きている気がする。

 その証拠に敷雅の足元周辺がこの熱量に対してそんなに焦げていない。

 ・・・・錯覚の技なのか?
 だとしても感覚ブーストとはかなり相性が悪くて飛び込めない。
 俺の異能は痛覚も倍増される能力でもあるからだ。

「この道場を焦がす事もなく、おまえを灼熱で炙ってくれよう」

 敷雅は構えを正して攻撃の姿勢に入った。

 なんだよ、この人ぜんぜん強いじゃないじゃないか。
 誰だよ一族が弱ってるなんて言ってたやつ。

 エヴァがさらに語り出した。
「雅の粒子変性術は今後に向けて参考になるからね。
 霊気の恩恵を受けた雅の血が霊樹の武器によって分子組成転換を行う技。
 悠希遥架、君がマギド結合によって行う身体強化の次に習得するべき技術だよ。」

「・・・おい、あの木刀は特別なヤツだったのかよ。
 ずるくないか?こっちはオモチャなんだぞ!?」

「悠希君。あなたのバットの手元はに霊樹の一部を付与しておいてあるわ。」

 なに?
 よくみると持ち手部分のテープが紙の材質だった。

「この試合は雅としての力量を試す戦い。
 霊樹の恩恵は双方に与えられるわ。」

「おまえが勝てば継血の者として一族に入り妖鬼との戦いの一員として迎えてやろう。
 だが負けたならばその血を一族のために役立たさせてもらうぞ!」

 勝手に決めるなよ・・・。
 それ俺からしたら勝っても負けてもいい事ないじゃないか!

 ・・・・。

 くそ、変性術だと?
 まるで俺にも習得できるってノリだな。

 んなら考えてやる!

 風、熱・・・・


 くっ!! ・・思考中に敷雅が迫ってきた。

「熱っつ!!」

 あーもう、これは幻覚と実際の熱さの合わせ技だったとしてもふたつの分析は同時には無理!

 だから後者、実際の熱源だけに分析を絞ろう。

 えーっと、霊樹武器と異粒子エネルギーの結合になにかあるよな。

 ・・・・ダメだ、思考が間に合わない。

「ブースト、展開!」

 意識加速空間に入り込んだ。
 この中で思考をじっくり詰めていく事にする。

 敷雅との距離は10歩分。

 俺の体感時間で二分の余裕は出来たはずだ。
 それ以上は灼熱地獄が待っている。
 急がなければ・・・。

 風も熱もミクロで見れば粒子の運動性の違いだ。

 温度で気圧差を生めば一方向へ空気粒子は移動し風が生じる。
 空気中の分子密度を広げて膨張させるには燃焼が必要。

 ・・・どちらも激しい分子運動が要因だよな。
 んで、その異粒子エネルギーを分子活動の制御に繋げるには・・・えーとそれには・・・。

 あれこれ考えて手掛かりに行きつこうとする。
 この現象において少なくとも分子活動変性のためのエネルギー【抵抗体】が必要である。

 それは何か・・・当然、霊樹武器だ。

 敷雅の分子活動活性のエネルギーはたぶん霊樹の霊気ってヤツ?
 試合前にアイツ自分の指噛んで血を木刀につけてたからそれに含まれているのか?

 古雅崎が郷野の血を使って同じ事やってた。

 やはり力学的な変換ポイントはあの霊樹木刀。
 それをエネルギー抵抗体にして熱、風を発するための空気の分子制御を行う。

 よし、分子変性のためのエネルギーは異粒子エネルギー結合で代用できるはず。
 あと一分。

 先ほど殴られて口を切ってた部分を指で拭いバットの柄に巻かれた紙部分に当てて霊樹紙を感応させてみた。

 手から血を通して、バットを自分の身体の一部と捉えてみる。
 イメージする変性は・・・・

『分子活動の鈍化』

 その瞬間、オモチャバットからうっすらと冷気が発したように感じた。

 おおいきなり成功!?

 もっとバットと一体化するイメージを深める。

 オモチャとはいえバットだ。
 三年前までは俺が毎日ずっと素振りしていた形状と同じもの。
 手によく馴染んだ形。
 軽いからさらに一体化出来る感覚だ。

 よし、もう片方の手でも口元から血を拭い霊樹紙と接着する。

 大気の分子活動よ・・・・停滞しろおっっ!!

グ・・・・オ・・ォォォ

 冷気がさらに広がりだし、敷雅からの熱が収まってきた。

 加速空間の中での長時間灼熱は弱まり、今はサウナの熱さ程度で済んでいる。

 だがもう相手は目前まで迫ってきていた。

 おかしい、予想していたよりも敷雅の動きが速いぞ。

 振り下ろされてくる木刀を受けるように俺はバットを横にして頭の前にかざす。

 木刀とバットが接触するとズンと重くなった。

 まさかこれは・・・
 身体強化か?

 この重さ、動きの速さといい、それしか考えられない。

 冷気をまとった俺のプラスチックバットは敷雅の灼熱木刀によって少しづつ溶かされていく。

 ついにはバットは両断され、そこからさらに振り下ろされた。

 俺は瞬時に身体強化側にもブーストを重ねた。

 ・・・よけきれるか?

 次の瞬間、木刀は動きを止めた。

 俺は身体をひねった状態から敷雅から距離をとり、そして意識ブーストと身体強化ブーストを解いた。

 ・・・・・・。

 どうやら古雅崎による
「それまで!」という合図が入っていたようだ。

 ・・・意識の加速中は音が拾いづらいな。

「試合終了か・・・俺の負けだ」

 正直勝つつもりはなかったし大きなケガをしなかったから俺としては悔しさはない。
 腹と頬は痛いが・・・・。

 敷雅は試合後の礼をした。
 俺も一応しておく。

「・・・貴様・・・おまえはいま雅流静凍震を放ったのか?」

 なにその必殺技っぽい名前。
 しらんしらん。

「すごいわね。条件のフェアさのために霊樹符を巻き付けただけなのに、霊気変性をもう扱えるようになるなんて・・・・」

「んふふふ、君はやっぱりおもしろい!
 変性術の価値を知ってもらうための試合だったんだけどねー、
 術の本質からまさか霊気と異粒子エネルギーの近似点まで理解しちゃうなんて僕も驚いたよ♪」

「く・・・認めんぞ、私は・・・・認めるわけには・・・・」

「・・・おい待て。
 俺は負けただろ。負けたんだよな?
 子作りなんて変な手段はこれで許されなくなったんだよな?」

「ん~?・・・そもそも当主代理に決定権なんてないよね~?
 どっちかっていうと本家側の古雅崎家の方が裁決権が強い家系だし。」

「試合を止めたのは私の一存よ。
 勝敗の決着ではないわ。
 孝が身体強化を使い出したから止めたの。エヴァからもらった適合者の血液サンプル。
 この試合で発動させるなんて・・・あれはまだ雅の力と認められていないわよ、敷雅!」

「な・・・名鶴様、それはその・・・名鶴様の事を想えばこそと・・・・いえ、あの・・・・申し訳ございません・・・」

 そういってトボトボと道場を出ていった。

 アイツって古雅崎に頭が上がらない立場なのか。
 年上なのに不憫だな。

「ねえ、遥架君。
 あなたは私と子供を作るつもりはないの?
 てっきり年頃の男子ってこういう展開嬉しいと思ってたんだけど」

 ・・・・。

「そうだよ~、古雅崎名鶴は一般的な価値基準の中で器量良しの部類なんでしょ?
 他の男子からの人気もあるみたいだし、これってラッキーな嬉しい事でしょ~」

「私、よく男子から交際のお願いは受けてた方だったから男受けする容姿だと思ってたんだけど・・・私じゃイヤなのかしら?」

「あのなあ!
 年頃の男子は色欲もて余してたとしても父親になろうとなんて思わんわ!」

「あぁそっか」「確かにそう、ね」

・・・・・。

「「じゃあ大人になったら大丈夫って事?」」

 ダメだこいつら、思考のネジがぶっ飛んでやがる・・・・。

-----------------------------------------

ダダダダダダ!

「お嬢様!!」

 男が二名、道場に駆けつけてきた。

 手には黄札を持っていた。

「はぁはぁ、大障事 黄級でございます!」

「わかったわ。場所は?」
 古雅崎こがさきは懐から紐を取り出し、下ろしていた髪を結い上げ始めた。

「府中の多磨霊園から西へ・・・。
 わ・・・我らの敷地内へ入られました!!」

 男は真っ青な顔で声を荒げていた。

「・・・おい?何がおきたんだ?」

「暗部からの報告、
 霊障が起きたときの出動要請よ。」

「生業の玄魔退治ってやつか?」

「ええ・・・けど黄報告は大霊獣級。
 しかも雅の結界を素通りしたようなの。
 玄魔ではないわ」

 古雅崎はそう言って出口へ歩きだした。

「これは・・・異生物よ」
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