婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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婚約者による強制的ななにかについて

波乱の予感

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学園がある郊外から、馬で1時間ほどで王都の中心、私の屋敷のある辺りに戻ってくる。

頻繁ではないが帰れない距離というわけでもないため、特別大きな荷物はない。私が供もなく単騎で帰るのは特別珍しくもなかった。

時刻は日暮れ前の夕方五時頃のことだ。エリーゼの屋敷のあたりまでもどってきたところで、屋敷の入り口に人影がみえた。特徴的なくるりと巻いた髪の少女と、それに付き従う何人かの女性達だ。

「エリーゼ!?いったいどうしたんだい?」
あわてて馬から降り、近づいて行くとエリーゼが嬉しそうに私に話しかけてきた。
「勿論、今日おかえりときいて、クローディアスさまをお待ちしていたのですわ!」
それをきいて私は眉根をよせ、首をかしげた。

確かに休暇中にエリーゼの屋敷へうかがうつもりだったけれど、なぜエリーゼのほうから街道へでて、私の通るのを待ち伏せる必要性があったのか?
「ご迷惑でしたわね?」
幾分機嫌が悪いようにみえたのか、エリーゼが呟き、やはり、といいながらスカートを摘まんで頭をさげた。

「ひと目、お姿が見られればと、このようにみっともなく立っておりました。驚かせて申し訳ございません。では」
いつになくさっさと邸内へ引き揚げてゆく。なんなんだ?私は馬の手綱をひいたまま、エリーゼの侍女の一人をつかまえて

「帰りましたら文を送ります。明日、ご挨拶に伺いたいと伝えて下さい」
と言伝をたのんだ。


家に戻ると、珍しく父が玄関へでてきて出迎えてくれた。
「只今帰りました」
私が上着を侍従に渡しながらいうと、
「ああ、おかえり。コーデリア宰相の意見は聞いたのか?」
という謎の言葉に首をかしげた。

「いえ、エリーゼには会いましたが、明日改めてと言伝を頼みました」
父はそれをきいて、眉根を寄せ
「クローディアス、おまえ、事がわかっていないのだな?」
と言った。学業でもそうだが、とくに父に反抗したこともない私は、あまりこうした叱責を受けることは少ない。なんだろう、と首をかしげた。

父はため息をつき、
「皇太子殿下の目の前で、エリーゼと随分睦まじくしていたそうではないか。デビュタントのその日に、ダンスもそこそこに、二人きりで暗がりへ去ったと。
しかも、それを校長に指摘されても否定しなかったそうだな?…宰相殿は王宮で、皇太子にそれを聞かされて、私のところへ飛んできたのだぞ」
そう言って肩をおとした。

濡れ衣です、と言いたいところではあるがそれを否定すれば、また別の嫌疑をもう一度かけられてしまう。四面楚歌だ、と思いつつ、
「暗がりへ、と言いますがテラスで少し話しただけです。確かにエリーゼは私としか踊りませんでしたが」
デビュタントがエスコート役とだけ踊って、すぐに帰るのは特に珍しくないはずだ。

少なくとも私の妹も、その友達もそうしていたし、そもそも社交界に出たての少女が、そうそう独身男性の知り合いなんているはずがないのだから。

「宰相殿は、皇太子とエリーゼを引き合わせるおつもりだったのだ!
だが、皇太子はエリーゼをお前の手つきと思っていらっしゃる。宰相殿はお前に、誠意を見せるようにとおっしゃったのだ」

誠意、と私は両目を閉じた。誠意ってなんだろう?
ぐらぐらと目眩がした。宰相の言う誠意。私が誰かむくつけき男と口づけでもしてみせたら、エリーゼは多分とても喜ぶが、そう言うサービスの話ではないだろう。

「婚約しろということですか?」
わかりきった言葉に、つい嫌そうな音が乗ってしまった。
「無論だ。宰相殿に頭を下げて赦しをもらい、エリーゼに膝まずいて愛を請うのだ。それしか、いま我がマルセル侯爵家にかかる暗雲をはらう方法はない」
父はそう言うと、すまんな、と眉をさげた。

「私がちゃんとお前に紳士としての振る舞いを教えてやれなかったばかりに…」
肩をおとし、寝室へ去る父に、小声で申し訳ありません、というほかなかった。

これが皇太子のやることか。いや、分かる、分かるんだ、私を取り込んで尚且つ勢力を抑えておく、その必要性を感じているんだろう、とは。でももう、私の精神への打撃が凄い。

疲れはて、私はその夜、食事もせず眠りについた。
何も考えたくはなかった。


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