婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

文字の大きさ
9 / 38
婚約者による強制的ななにかについて

婚約者と社交界

しおりを挟む
婚約が決まれば、バタバタと色々な事が変わっていった。いままでは出ずとも良かった、あらゆる貴族の茶会やパーティに、エリーゼをエスコートしてゆかなくてはならない。

その度に言われるのは、
「貴方がマルセル子爵?公爵家の?」

「一度お話してみたかったのです。成る程、これほどの美貌なら、噂も信憑性があるわね」

「エリーゼ嬢はあなたと婚約してさらに美しくなられたようだ。マルセル子爵の仕込みがいいのでしょうな」

いやらしく頭の先から爪先までをじろじろと見られるのも、下衆の勘繰りにも耐えられたけれど、

「宰相殿も出世したものだ、一人娘をくれてやる代わりに、これでコーデリア一族はとうとう侯爵位を手に入れるというわけだ…見目良いだけの女子供でも、色香さえつかえれば役にたちますな」
そんなふうに当て擦ってきたのは、爵位がどうこう言うわりに、と同じ子爵位の男だ。

言い返したかったけれど、騒ぎになればエリーゼの耳にはいってしまう。代わりに従僕を呼んで、男がむこうを向いている隙に、飲んでいた酒を最も強いものにすり替えてやった。

運よくか悪くか、奴は酒に弱かったらしく30分もしないうちに医師に担ぎ込まれる騒動をおこしたようだった。社交の場で泥酔して騒ぎになるなんて、貴族としてはかなり致命的な失敗になる。




気の毒だね。いやあ、深酒はこわいものだ。


そんなことをつらつらと思い出していると、
「なにかありましたの?」
とエリーゼが尋ねてくるので首をふった。
「いや?何もない」
笑ってしまいそうな表情を引き締めながらエリーゼに答える。

するとエリーゼがきょろきょろと辺りを見回して、此方にいらしてと手を引いた。
「駄目だよエリーゼ、またなにかあると噂になってしまう」
手をひかれながら声をかけるものの、エリーゼが発した言葉に、口を閉ざした。

「ユーリが来ているのです。でも、まだ早すぎるわ」
ユーリというのは例の『訪い人』だ。どうやら何かしらの理由でエリーゼは彼に会いたくないらしい。

そういうことなら、喜んで協力しよう。
「ここから出よう、エリーゼ」
屋敷の従僕にエリーゼが足を痛めたので帰ると言付けて、エリーゼを抱えあげた。小走りに屋敷の車止めまでゆき、馬車へ乗り込む。


適当な時間まで、屋敷へは帰れない。

行くあてもなく馬車を走らせていると、
「勝手に抜け出してきてしまいましたわね、叱られないかしら?」
そう言ってエリーゼは胸元をおさえた。
「そのときは私も、一緒に叱られてあげるよ」
子供のような仕草につい頭を撫でてしまう。

エリーゼはだまって撫でられていたけれど、ふと窓のそとの灯りに目を止めた。
星祭の準備で、王宮殿の前の広場に沢山の明かりがともっている。まだ星祭まで数日あるからか人影はまばらで、ただ冬の広場の石畳だけが灯りに反射してきらきらと輝いている。

私は広場のすみに馬車をとめさせた。



「クローディアスさまはいつもそうおっしゃってくださいますわね。ずっと前から」
馬車のなかは暗く、エリーゼの表情は見えない。
「わたくし、変な子供だったでしょう?父も母も、わたくしが頭がおかしいのだと言って、厳しい家庭教師を大勢連れてきましたの」

自覚があったのか。とは思うものの、口には出さずに相づちをうった。
「鞭や、定規で打たれるのは怖くて。父や母のまえではいつでもだまっておりました。でも、クローディアス様は、わたくしの話を怒らずにきいてくださった」
うん、はじめは驚きすぎてものが言えなかっただけだけど。

「クローディアス様、わたくしは『訪い人』ではありませんが、以前この国のことを詳しく読んだことがあるのです」
エリーゼはそこで私の反応を見るように、こちらをむいた。しかし私の表情はここでは見えないだろう。

「降りようエリーゼ、歩けるかい?」

エリーゼの手をとり、馬車を降りた。星祭の灯りの灯る広場は、しんと静まり返っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...