婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

文字の大きさ
20 / 38
やんごとなき依頼者

謎の暗号で婚約者が男とやり取りします

しおりを挟む
あの日、エリーゼと話すことを諦めるべきではなかった、と頭を抱えたのは、新年を迎えるパーティーの前夜祭でのことだ。

前夜祭は例年、各学級や学年単位で催しものを出して、学生、教員の別なく楽しむ。それを学校の規範から逸脱せぬよう監視し、また恙無く進行させるのが、生徒会の役目なのだ。

無論、ロビンは二度ほど女子生徒と行方しれずになったし、何より今年は監視役や進行役のほかに、ユーリ・ヤスハラの提案した大講堂での巨大迷路を安全に運営せねばならず、私にとってはとても気をすり減らしたわけだが、それでもなんやかやとあった前夜祭もようやく終わろうとしていた。

「エリーゼ、新年のダンスに誘ってもいいかな?」
前夜祭が終わると、新年までのカウントダウンをする夜会へと生徒は皆ながれる。

私たちも制服から夜会服へ着替えて、皆ホールへと集まってゆく。無論、エリーゼのエスコートは私の仕事だ。

「ごめんなさい、ユーリからも頼まれて、年はじめのダンスはユーリと約束したの」
それを聞いた私は、鋼の剣が背に刺さったような気がした。

「…新年のダンスを?ユーリ・ヤスハラ君と?」
思ったより冷たい声が出た。エリーゼもさすがに気付いたようで、
「クローディアスさまとは、踊りたい令嬢がたくさんおりますでしょう?わたくしは途中で手が空いたらでかまいませんの」
と取り繕った。

「ユーリは『チート』ですもの、ダンスは完璧に踊れますけれど、礼儀や作法はまだまだです。わたくしか身をもっておしえて差し上げますわ」
なぜ君が?と問い詰めたくともなぜか喉がつっかえたようになり、半開きの唇がやけに乾いた。

おそらく泣く。あと二言三言、エリーゼがユーリの話をするなら、私はたいして持ち合わせてもいない矜持をさらに失うだろう。

「そう、どうとでも好きにしたらいいよ…」
そんななげやりな言葉が口をついてでた。私はしばらくのあいだエリーゼに背をむけて、ぐっと奥歯を噛む。そうして、気持ちの高ぶりが去るのを待って、エリーゼに手を差し出した。

「会場までは、婚約者らしく振る舞ってくれるよね?」
エリーゼはなにをおもったのか、満面の笑みでその腕に手をおき、
「もちろんですわ!」
と、上機嫌だった。



それから約1時間後。わたしはまた訳のわからぬ事態に巻き込まれていた。
「ですから、ユーリはご自分が最も偉大な魔術師だという自覚をもつべきなのですわ!」
パン!と反対の手に扇子を叩きつけたエリーゼに、
「それは君が転生者じゃないから簡単に言えるんだって。そもそもゲームでは、そんな未来なんてかかれてなかったし」
ユーリ・ヤスハラは困ったように首をかしげている。

「ただ、君については、可愛いのに大変だなっては思ってるよ。クローディアスは、主人公と一緒に魔族討伐に参加した、聖女か王女と結ばれる運命で、君は悪魔と契約した咎で、処刑されるんだもん」
そう言うと、ユーリは肩をすくめた。

「ゲームでは、そうでしたわよね。でも、そもそもユーリが参加した時点で、どんな悪魔も全く歯が立たないのよ。チートですもの…楯突こうなんて、わたくしならとても恐ろしくて出来ませんわ」
フム、とまたユーリが首をかしげ、

「ずっと思っていたんだけど、やっぱりもしかして君は別の世界からの『訪い人』なのではないかなあ?」
と長い睫が瞬いた。女性と見まごうばかりの可愛らしい少年だが、話す内容はエリーゼ同様なにをいっているのが全くわからない。


わたしたちは前夜祭の、舞踏会場のはしに設えられた長椅子に、何故か私を挟んで三人ですわっている。

先程までは二人が睦まじくダンスをしているのを、ただボンヤリ見守っていたはずの私は、いつのまにか外国語かなにかが左右から飛び交うのをただ見守るだけの案山子になり下がっていた。

ゲーム?チェスやカードといったものが私の頭に浮かんだが、おそらくユーリとエリーゼの仲でないとわからない暗号だろうか。

「チートっていうけど、僕はただ神様に≪もう早死にしないようにして≫って頼んだら、なんかオプションを沢山つけてくれたってだけだから、ただ長生きできる保証があるだけの普通の男だよ」
「それをチートと呼ぶのですわ」

私は耐えきれなくなって、立ち上がった。
「クローディアスさま?」
突然立ち上がり、あまつさえエリーゼの手をとって引っ張ってゆく私を、周りの生徒たちが胡乱げにみまもっている。

目立ってはいけないのに、でも、今エリーゼとここを離れなければ、私は永遠に蚊帳の外だ。

「クローディアスさま、どちらへゆかれるおつもりなの?」
優雅だけれど歩きにくそうなドレスのエリーゼが、困惑したように尋ねるのを無視して、私はダンスフロアを横切り、大回廊へと出ていった。

「ここでいい…私と踊ってほしいんだ、エリーゼ」
情けないこえで頼む私に、エリーゼは困ったような笑顔で頷いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...