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やんごとなき依頼者
謎の暗号で婚約者が男とやり取りします
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あの日、エリーゼと話すことを諦めるべきではなかった、と頭を抱えたのは、新年を迎えるパーティーの前夜祭でのことだ。
前夜祭は例年、各学級や学年単位で催しものを出して、学生、教員の別なく楽しむ。それを学校の規範から逸脱せぬよう監視し、また恙無く進行させるのが、生徒会の役目なのだ。
無論、ロビンは二度ほど女子生徒と行方しれずになったし、何より今年は監視役や進行役のほかに、ユーリ・ヤスハラの提案した大講堂での巨大迷路を安全に運営せねばならず、私にとってはとても気をすり減らしたわけだが、それでもなんやかやとあった前夜祭もようやく終わろうとしていた。
「エリーゼ、新年のダンスに誘ってもいいかな?」
前夜祭が終わると、新年までのカウントダウンをする夜会へと生徒は皆ながれる。
私たちも制服から夜会服へ着替えて、皆ホールへと集まってゆく。無論、エリーゼのエスコートは私の仕事だ。
「ごめんなさい、ユーリからも頼まれて、年はじめのダンスはユーリと約束したの」
それを聞いた私は、鋼の剣が背に刺さったような気がした。
「…新年のダンスを?ユーリ・ヤスハラ君と?」
思ったより冷たい声が出た。エリーゼもさすがに気付いたようで、
「クローディアスさまとは、踊りたい令嬢がたくさんおりますでしょう?わたくしは途中で手が空いたらでかまいませんの」
と取り繕った。
「ユーリは『チート』ですもの、ダンスは完璧に踊れますけれど、礼儀や作法はまだまだです。わたくしか身をもっておしえて差し上げますわ」
なぜ君が?と問い詰めたくともなぜか喉がつっかえたようになり、半開きの唇がやけに乾いた。
おそらく泣く。あと二言三言、エリーゼがユーリの話をするなら、私はたいして持ち合わせてもいない矜持をさらに失うだろう。
「そう、どうとでも好きにしたらいいよ…」
そんななげやりな言葉が口をついてでた。私はしばらくのあいだエリーゼに背をむけて、ぐっと奥歯を噛む。そうして、気持ちの高ぶりが去るのを待って、エリーゼに手を差し出した。
「会場までは、婚約者らしく振る舞ってくれるよね?」
エリーゼはなにをおもったのか、満面の笑みでその腕に手をおき、
「もちろんですわ!」
と、上機嫌だった。
それから約1時間後。わたしはまた訳のわからぬ事態に巻き込まれていた。
「ですから、ユーリはご自分が最も偉大な魔術師だという自覚をもつべきなのですわ!」
パン!と反対の手に扇子を叩きつけたエリーゼに、
「それは君が転生者じゃないから簡単に言えるんだって。そもそもゲームでは、そんな未来なんてかかれてなかったし」
ユーリ・ヤスハラは困ったように首をかしげている。
「ただ、君については、可愛いのに大変だなっては思ってるよ。クローディアスは、主人公と一緒に魔族討伐に参加した、聖女か王女と結ばれる運命で、君は悪魔と契約した咎で、処刑されるんだもん」
そう言うと、ユーリは肩をすくめた。
「ゲームでは、そうでしたわよね。でも、そもそもユーリが参加した時点で、どんな悪魔も全く歯が立たないのよ。チートですもの…楯突こうなんて、わたくしならとても恐ろしくて出来ませんわ」
フム、とまたユーリが首をかしげ、
「ずっと思っていたんだけど、やっぱりもしかして君は別の世界からの『訪い人』なのではないかなあ?」
と長い睫が瞬いた。女性と見まごうばかりの可愛らしい少年だが、話す内容はエリーゼ同様なにをいっているのが全くわからない。
わたしたちは前夜祭の、舞踏会場のはしに設えられた長椅子に、何故か私を挟んで三人ですわっている。
先程までは二人が睦まじくダンスをしているのを、ただボンヤリ見守っていたはずの私は、いつのまにか外国語かなにかが左右から飛び交うのをただ見守るだけの案山子になり下がっていた。
ゲーム?チェスやカードといったものが私の頭に浮かんだが、おそらくユーリとエリーゼの仲でないとわからない暗号だろうか。
「チートっていうけど、僕はただ神様に≪もう早死にしないようにして≫って頼んだら、なんかオプションを沢山つけてくれたってだけだから、ただ長生きできる保証があるだけの普通の男だよ」
「それをチートと呼ぶのですわ」
私は耐えきれなくなって、立ち上がった。
「クローディアスさま?」
突然立ち上がり、あまつさえエリーゼの手をとって引っ張ってゆく私を、周りの生徒たちが胡乱げにみまもっている。
目立ってはいけないのに、でも、今エリーゼとここを離れなければ、私は永遠に蚊帳の外だ。
「クローディアスさま、どちらへゆかれるおつもりなの?」
優雅だけれど歩きにくそうなドレスのエリーゼが、困惑したように尋ねるのを無視して、私はダンスフロアを横切り、大回廊へと出ていった。
「ここでいい…私と踊ってほしいんだ、エリーゼ」
情けないこえで頼む私に、エリーゼは困ったような笑顔で頷いた。
前夜祭は例年、各学級や学年単位で催しものを出して、学生、教員の別なく楽しむ。それを学校の規範から逸脱せぬよう監視し、また恙無く進行させるのが、生徒会の役目なのだ。
無論、ロビンは二度ほど女子生徒と行方しれずになったし、何より今年は監視役や進行役のほかに、ユーリ・ヤスハラの提案した大講堂での巨大迷路を安全に運営せねばならず、私にとってはとても気をすり減らしたわけだが、それでもなんやかやとあった前夜祭もようやく終わろうとしていた。
「エリーゼ、新年のダンスに誘ってもいいかな?」
前夜祭が終わると、新年までのカウントダウンをする夜会へと生徒は皆ながれる。
私たちも制服から夜会服へ着替えて、皆ホールへと集まってゆく。無論、エリーゼのエスコートは私の仕事だ。
「ごめんなさい、ユーリからも頼まれて、年はじめのダンスはユーリと約束したの」
それを聞いた私は、鋼の剣が背に刺さったような気がした。
「…新年のダンスを?ユーリ・ヤスハラ君と?」
思ったより冷たい声が出た。エリーゼもさすがに気付いたようで、
「クローディアスさまとは、踊りたい令嬢がたくさんおりますでしょう?わたくしは途中で手が空いたらでかまいませんの」
と取り繕った。
「ユーリは『チート』ですもの、ダンスは完璧に踊れますけれど、礼儀や作法はまだまだです。わたくしか身をもっておしえて差し上げますわ」
なぜ君が?と問い詰めたくともなぜか喉がつっかえたようになり、半開きの唇がやけに乾いた。
おそらく泣く。あと二言三言、エリーゼがユーリの話をするなら、私はたいして持ち合わせてもいない矜持をさらに失うだろう。
「そう、どうとでも好きにしたらいいよ…」
そんななげやりな言葉が口をついてでた。私はしばらくのあいだエリーゼに背をむけて、ぐっと奥歯を噛む。そうして、気持ちの高ぶりが去るのを待って、エリーゼに手を差し出した。
「会場までは、婚約者らしく振る舞ってくれるよね?」
エリーゼはなにをおもったのか、満面の笑みでその腕に手をおき、
「もちろんですわ!」
と、上機嫌だった。
それから約1時間後。わたしはまた訳のわからぬ事態に巻き込まれていた。
「ですから、ユーリはご自分が最も偉大な魔術師だという自覚をもつべきなのですわ!」
パン!と反対の手に扇子を叩きつけたエリーゼに、
「それは君が転生者じゃないから簡単に言えるんだって。そもそもゲームでは、そんな未来なんてかかれてなかったし」
ユーリ・ヤスハラは困ったように首をかしげている。
「ただ、君については、可愛いのに大変だなっては思ってるよ。クローディアスは、主人公と一緒に魔族討伐に参加した、聖女か王女と結ばれる運命で、君は悪魔と契約した咎で、処刑されるんだもん」
そう言うと、ユーリは肩をすくめた。
「ゲームでは、そうでしたわよね。でも、そもそもユーリが参加した時点で、どんな悪魔も全く歯が立たないのよ。チートですもの…楯突こうなんて、わたくしならとても恐ろしくて出来ませんわ」
フム、とまたユーリが首をかしげ、
「ずっと思っていたんだけど、やっぱりもしかして君は別の世界からの『訪い人』なのではないかなあ?」
と長い睫が瞬いた。女性と見まごうばかりの可愛らしい少年だが、話す内容はエリーゼ同様なにをいっているのが全くわからない。
わたしたちは前夜祭の、舞踏会場のはしに設えられた長椅子に、何故か私を挟んで三人ですわっている。
先程までは二人が睦まじくダンスをしているのを、ただボンヤリ見守っていたはずの私は、いつのまにか外国語かなにかが左右から飛び交うのをただ見守るだけの案山子になり下がっていた。
ゲーム?チェスやカードといったものが私の頭に浮かんだが、おそらくユーリとエリーゼの仲でないとわからない暗号だろうか。
「チートっていうけど、僕はただ神様に≪もう早死にしないようにして≫って頼んだら、なんかオプションを沢山つけてくれたってだけだから、ただ長生きできる保証があるだけの普通の男だよ」
「それをチートと呼ぶのですわ」
私は耐えきれなくなって、立ち上がった。
「クローディアスさま?」
突然立ち上がり、あまつさえエリーゼの手をとって引っ張ってゆく私を、周りの生徒たちが胡乱げにみまもっている。
目立ってはいけないのに、でも、今エリーゼとここを離れなければ、私は永遠に蚊帳の外だ。
「クローディアスさま、どちらへゆかれるおつもりなの?」
優雅だけれど歩きにくそうなドレスのエリーゼが、困惑したように尋ねるのを無視して、私はダンスフロアを横切り、大回廊へと出ていった。
「ここでいい…私と踊ってほしいんだ、エリーゼ」
情けないこえで頼む私に、エリーゼは困ったような笑顔で頷いた。
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