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やんごとなき依頼者
雪の結晶と、再びの皇太子
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ホールを出て少し歩くと、中庭へ出た。雪はないものの冷たい風がふき、私はエリーゼに上着をかけてやる。
「…またサービス過剰。誤解がおきるのもうなづけますわね」
責めるような口調だったが、突き返されなかったことに気を良くして、踊ろう、と手を差し出した。
僅かにホールから聴こえる音楽にあわせて、ステップを踏んでいく。エリーゼの頬へ顔を寄せ、彼女を抱き寄せると、
「寒いのでしょう?」
と聞かれた。動いていればそうでもないのだけれど、うん、とうなづけばくすくす笑われた。でも、そのままの姿勢でゆるゆると踊り続けてくれるのをいいことに、抱きしめ続ける。
はらり、とエリーゼの肩に小さな白い羽根のようなものが舞い落ちる。それは雪の結晶で、小さな六つの花弁を持つ、華のかたちをしている。
足が止まった私を不審に思ってか、そっと顔をあげたエリーゼが私の睫におちた雪をそっと払い、微笑んでくれた。
「雪ですわクローディアス様。そんな薄着では風邪をひきます、なかへ……」
エリーゼに言われてしぶしぶ離れようとしたとき、
「あいかわらず睦まじい。ここがどこだか位は弁えては貰えまいか?」
聞きたくなかった声に、油のきれた機械のようにぎこちなく振り返った。
「皇太子殿下…お久し振りでございます」
私たちはそろって深々とお辞儀をする。
ヴィルヘルム皇太子殿下はにっこりと笑いかけているが、じき年があけるという真冬の夜中に、いちゃつく婚約者同士に割り込んでなんの特があるのだこのヒトは。
「婚約したのだったな、おめでとう。これで公爵家はますます強大な力をもつことになるな」
…あるよなあ、主に、王位継承に関する方面で。どうしよう、王の座なんていらないが、『そんなもん要りません』なんて言うと不敬になる。
「ありがとうございますヴィルヘルム皇太子殿下。殿下もご健勝でいらっしゃるようでなによりですわ」
もたもた考えている間にエリーゼが会話をはじめる。前回ほど外国語ではない、当たり障りのない世間話だ。
「伯爵令嬢、先般の転入試験の件を聞き及んだ。見事な成績だったそうだな?そして今宵の趣向…弱冠14にして手際は鮮やかなものだ。流石宰相の娘といったところか」
皇太子がエリーゼを称賛する。これ程の美男子、しかも本物の王子に誉めちぎられて夢心地にならない女性なんていないのではないだろうか。
エリーゼも頬をそめて、その頬へ白い手のひらをあてながら
「わたくしはなにも…ユーリあってのことですもの」
と謙遜する。エリーゼ、私は?しかし、ヴィルヘルム皇太子にとって重要なのはそこではなかったようだ。
「ユーリ?君は『訪い人』を知っているのか?」
底冷えのするような、その声に、エリーゼを庇おうと私はつい咄嗟に口をひらいた。
「あ、殿下、リア公爵夫人がお呼びのようですよ」
そして、言葉の選択を完全に間違えた。
「…またサービス過剰。誤解がおきるのもうなづけますわね」
責めるような口調だったが、突き返されなかったことに気を良くして、踊ろう、と手を差し出した。
僅かにホールから聴こえる音楽にあわせて、ステップを踏んでいく。エリーゼの頬へ顔を寄せ、彼女を抱き寄せると、
「寒いのでしょう?」
と聞かれた。動いていればそうでもないのだけれど、うん、とうなづけばくすくす笑われた。でも、そのままの姿勢でゆるゆると踊り続けてくれるのをいいことに、抱きしめ続ける。
はらり、とエリーゼの肩に小さな白い羽根のようなものが舞い落ちる。それは雪の結晶で、小さな六つの花弁を持つ、華のかたちをしている。
足が止まった私を不審に思ってか、そっと顔をあげたエリーゼが私の睫におちた雪をそっと払い、微笑んでくれた。
「雪ですわクローディアス様。そんな薄着では風邪をひきます、なかへ……」
エリーゼに言われてしぶしぶ離れようとしたとき、
「あいかわらず睦まじい。ここがどこだか位は弁えては貰えまいか?」
聞きたくなかった声に、油のきれた機械のようにぎこちなく振り返った。
「皇太子殿下…お久し振りでございます」
私たちはそろって深々とお辞儀をする。
ヴィルヘルム皇太子殿下はにっこりと笑いかけているが、じき年があけるという真冬の夜中に、いちゃつく婚約者同士に割り込んでなんの特があるのだこのヒトは。
「婚約したのだったな、おめでとう。これで公爵家はますます強大な力をもつことになるな」
…あるよなあ、主に、王位継承に関する方面で。どうしよう、王の座なんていらないが、『そんなもん要りません』なんて言うと不敬になる。
「ありがとうございますヴィルヘルム皇太子殿下。殿下もご健勝でいらっしゃるようでなによりですわ」
もたもた考えている間にエリーゼが会話をはじめる。前回ほど外国語ではない、当たり障りのない世間話だ。
「伯爵令嬢、先般の転入試験の件を聞き及んだ。見事な成績だったそうだな?そして今宵の趣向…弱冠14にして手際は鮮やかなものだ。流石宰相の娘といったところか」
皇太子がエリーゼを称賛する。これ程の美男子、しかも本物の王子に誉めちぎられて夢心地にならない女性なんていないのではないだろうか。
エリーゼも頬をそめて、その頬へ白い手のひらをあてながら
「わたくしはなにも…ユーリあってのことですもの」
と謙遜する。エリーゼ、私は?しかし、ヴィルヘルム皇太子にとって重要なのはそこではなかったようだ。
「ユーリ?君は『訪い人』を知っているのか?」
底冷えのするような、その声に、エリーゼを庇おうと私はつい咄嗟に口をひらいた。
「あ、殿下、リア公爵夫人がお呼びのようですよ」
そして、言葉の選択を完全に間違えた。
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