婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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やんごとなき依頼者

失言の代償

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すうっ、と此方を見た皇太子と、青ざめたエリーゼの表情に、ここが学園内で、リア公爵夫人がいるはずもないことに気づいた。
「君は、随分わたしに詳しいようだな?」
土下座しよう、そうしよう。雪が降ってきて地面はぬかるんでいるが、命にはかえられない、ひざまづこうと考えていると、クク、と皇太子が笑い声をあげた。

「なるほど、それは誰の入れ知恵だ?日和見の侯爵ではなかろう。宰相か、それとも神殿か?兎も角、何を言われようと、わたしは絶対に別れない!」
最後の一言はぎょっとする程の大音声で、ちょうど出てきた生徒会の役員や学校職員たちが、何事かと此方へやってくる。

「お、落ち着いて下さい殿下、人が集まってきてしまいます」
私がとりなそうと両手をあげると、その手をとって皇太子は私の口を塞いだ…ついでに鼻も。
「君たちは賢い子だ。秘密は秘密のままにしておきなさい…いいね」
めちゃくちゃ顔が近いが、それより何より息が苦しい。ハイと答えなければ、このまま鎰死させるつもりだろうか?とりあえず、必死に頷き、手を離してもらった。

図らずも皇太子の足元へひざまづくかたちに崩れ落ちた。ゼエハアと息をすいこんでいると、教員たちが近づいてくる。
「殿下!ヴィルヘルム皇太子殿下ではありませんか!お越しいただけたのなら迎えをやりましたのに!」
副校長の声に、皇太子はゆるゆると手をふって、
「マルセルに少々話があっただけだ、もう用事は済んだ」
と踵をかえした。こちらは膝と手がびしょびしょだが、むこうは涼しい顔で笑いながらたちさろうとしている。
「ああ、そうだマルセル。明後日の夕方、王城へ来るように」

蛙をひき潰したような声がでた。エリーゼが気遣わしげにわたしの側へしゃがんでくれる。スカートの裾が汚れてしまうのに。
「クローディアスさま、こちらを」
美しいハンカチを借りて汚してしまい、礼を言おうと彼女の表情を見て、がっくりと肩を落とした。
「エリーゼ、きみ、なぜそんなに嬉しそうなの?」
エリーゼは頬を染め、両手で口元を覆っている。

「先程のお二人がまるで絵のようでしたの!苦しげに寄せられたクローディアスさまの眉、近づく二人の顔と顔!あああ!生きていてよかった!」
……ああ、実際あと少しで死ぬ所だったわけだしね。と、どこか他人事のように思いながら、ヨロヨロとたちあがった。

「マルセル君、きみ、やっぱり殿下と…?」
副校長に言われて、できるだけ冷たい声を心掛けて
「違います」
とこたえた。もうあのバカな噂に振り回されたくはない。それからまだどこかぽうっと夢見心地のエリーゼの手をひいて、
「着替えてきます。カウントダウンまでには戻ります」
と伝えた。なにか恐ろしいものをみたように、生徒会の皆も、教職員の方々もうなづいているので、首をかしげながらエリーゼをエスコートして立ち去った。一体なにがそんなに恐ろしかったのだろう?

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