婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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やんごとなき依頼者

公爵家の秘宝

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新年があけてすぐ、私は王宮殿へ呼び出されていた。
「君たちまで来てもらう必要はなかったんだが…」
私はちょっと戸惑いながら、背後にいるロビンとユーリを振り返った。 
「いやいや前校長に呼び出されたとき、大丈夫って言って、目一杯ピンチになったのは会長でしょうが」
そんな風に言われれば、全くその通り。ロビンが居ない時にばかり窮地になるので、少々信用がなくなっているようだ。しかし、なぜユーリまでついてきたのだろう?

「ユーリ書記まで来なくとも良かったんじゃないか?」
ロビン、それだ。私が言うべきだったけれど。
「え、と、あの…ヴィルヘルム皇太子殿下と、クローディアス子爵を二人にする、というのは、その…良くない兆候というか、そう、神殿から注意するよういわれては、いない…けど、なんというか…」
歯切れが悪いなあ、これはあれか。
「きみが『読んだ』ものに関係するのかな?」
エリーゼが読んだといっていたものと、関わりがあるのだったか?

そんなふうに尋ねると、ユーリは少々困惑した表情を浮かべて、
「読んだというか、テストプレイ…試運転みたいなものなんだけど。まあ、そうだね…」
と言葉を濁す。物語を試運転?やはり彼らの言葉は難解だ。私はそれ以上深く追及するのをやめ、足を進めることにした。

王城…とくに東宮殿ともなればかなり広く、そもそも登城したのも初めての我々では少々まごついてしまう。行く先々で出会う近衛騎士に道を尋ねるので、声をかけては儀礼的な挨拶を聞く羽目になり随分時間をとられてしまった。
「クローディアス、ようやくの到着だな?私を苛立たせるのに余念がないと見える」
ついて早々に睨み付けられて、どうしたらいいのか分からず曖昧な微笑みをうかべるしかない。
「偉大な城に、少々気圧されました。お待たせしてしまいましたこと、お詫び申しあげます」
とりあえずあやまっておこう。と頭をさげると、ふん、と鼻で笑われた。

「王城に気圧されるような、殊勝なやつらとはな。いずれ自分の城になるとあちこちみてまわっていたのではないか?なあ、ユーリ・ヤスハラ」
睨まれているのは私だけでなく、ユーリもらしい。それはそうだろうな、ユーリは神殿が推している王位継承者候補のひとりだ。
「神殿が何を言おうと、僕はただ従うだけですよ。ここじゃそれしか生きる道がないので」
肩をすくめてユーリが言う。怖いもの知らずというか、いましもその生きる道が閉ざされそうなのによく飄々としていられるな…ロビンを見ると目をかっ開いてユーリを見ていた。そうだろう、意味が分からないよな……わたしもだ。

暗鬱とした気分で皇太子にむきなおった。
「それで、私を此方へ呼んだのはどのようなご用でしょうか?」
かけなさい、と指された応接椅子へ私とユーリがすわり、ロビンはそのままその椅子の後ろへ立っている。すわればいいのに、と目で合図するが、聞き入れるつもりはないらしく無視された。メイドがひとり、お茶の用意を手早くすませて去っていった。
「たいしたことではない。これを、明後日の朝までにリア公爵夫人へ届けて欲しいだけだ」
そう言って、平たくて少し大きめの、布張りの箱を取り出した。
「これは?」
ユーリが手を伸ばして箱に触れる。
「『アトラスの真珠』だ」
とこともなげに言い放つ。ユーリが弾かれたように立ち上がり、ロビンの後ろへまわりこんだ。
「なんでそんなもんが、こんなとこにあるんですか!?」
怒鳴られて耳をふさいだ。皇太子の執務室で突然叫ぶとか…本当に彼は規格外だ。

「そんなもの、とは失礼だろう。代々リア公爵家に伝わる秘宝だぞ」
箱の蓋を皇太子が開き、中に納められた首飾りを眺めて、へえ、と私は箱をのぞきこむ。他所の家の秘宝等と言うものを、見る機会などそう無いからね。
「リア公爵夫人が、私に愛の証として貸し付けてくれたものだが、明後日リア公爵が夜会を開く。その日にこれをつけていなかったら、彼女はリア公爵に不貞の罪を着せられて、領地で幽閉されるかもしれない」
着せられるというか、まずそれは自業自得なのでは?とおもうものの、はっきりとは言えずにただその豪華な首飾りを眺めていると、ユーリが口を開いた。

「それは、魔道具なんですよ会長。男性が触ると、色が変わる。その都度、リア公爵の持つ指輪も色が変わるんです。三度変わると、中の針が動いて、着けている女性は死ぬようになってる」
ゾッとして手をひっこめた。

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